フッサール入門

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私自身がフッサールのことは知っているので、あらためての頭の整理として読みました。その意味で、すっきり読めました。ただ、フッサールや現象学のことをまったく知らない人が、いきなりこの本を読んで、超越論的還元のなんたるか等がすんなり理解できるかどうか、そこまではわかりません。
あらためて、フッサールには、汲めども尽きぬ泉のような凄みを感じます。イデーンやデカルト的省察、危機書を再読、そして、眠ったままの論理学研究や形式的論理学～、内的時間意識～などなどにもチャレンジしたいと思いました。しかし、いつ取り掛かれることやら…。読むべき本がありすぎて、なかなか入口にすらたどり着きません。がんばらねば。フッサール研究者は、公刊著作はもちろんのこと、草稿まで読み込んで研究しているんですよね。ただただすごいです・・・【2025年3月20日読了】

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例えば、「私」と「世界」はどのようにつながっているのか、そういう普通であれば気にもならないことを改めて考える、それが現象学である。このような問題設定自体が普通であればなじみが無いので、ここから始める本書はまさしく「入門書」だと思う。説明は少々まどっこしいと感じるほどに丁寧で具体的、まとめの繰り返しも多く、読者に理解してもらいたいという気遣いを感じる。
本書では、現象学を『経験の仕組みの問題と経験の分類の問題に取り組む哲学』として定式化する。
私が最も知的に刺激されたのは、最終章の他者論である。本書では、独我論的な現象学から始まり、その独我論的な現象学における主観性がいかに『他者』を扱うか、というところに着地する。
本書を読んで改めて思ったのは、フッサールが遺したのは現象学的哲学の「方法」とか「プログラム」のようなものであって、いわば本編の前の序章のようなものではないだろうか、ということである。その後に続く「現象学運動」も、フッサールの著作のそのような性格が幸いして隆盛したんじゃないかと思った。

第一章ではフッサールの生涯について簡潔に解説される。この哲学者は学生時代、数学以外においては優秀とはいえなかったようである。彼の文章について著者は『率直に言えば無味乾燥』であり、難解であるのも『文章のぎこちなさによるところも大きい』と書く。これは元の素養、数学に親和的であった、によるのだろうか。その一方で、思考の結論ではなく過程をそのまま出力したような文章は『ある意味ではとても哲学者らしいものだ』とも書く。
著者は『フッサールが提案した現象学の方法とは、端的に言えば、孤独になるための方法だったのである』とする。それは『さまざまなものの現れを論じるための出発点として要請するもの』であり、『他者が現れて私と出会うという秘密を解き明かすためにも、私がまずもって閉じこもるべき領分であると言える』ということである。

まずは『経験の仕組み』が論じられる。当たり前に思っていることほど、改めて言葉にするのが困難なことはない。この章を呼んで、まさに『経験』がそういうものだと思った。
『ものごとが現れるときの二つの様式』の1=『経験』=『何かがこの世界に現実に存在していることに気づくはたらき』=『世界と私を結びつける』=『フッサールが自らの現象学の出発点』としたもの
『ものごとが現れるときの二つの様式』の2=『空想』
『超越論的還元』=『作動状態の経験を全面的に停止したうえで、その経験の内部構造を調べるための手続き』=『自然的経験において与えられるものが存在しているという判断を全面的に停止する』=『世界を経験の内側に引き戻す』≠『判断の否定』
『エポケー』=『ギリシア語で「判断停止」を意味する』
『志向性』=『私が何かを経験したり空想したりするときに、その何かと私のあいだに成り立っている関係性』
『志向性をもつ』=『何かについて意識するという仕方でそれに向かう』
『感覚与件』=『超越論的態度』において与えられる『生のデータのようなもの』
『超越論的経験』に含まれているものの例…『リンゴの木／リンゴの木��現れ／感覚与件／把握（意味付与作用）／私』
カントとフッサールに共通する『超越論的』=『経験の可能性の条件（=経験の仕組み）に関わる』
カントにおける『超越的』=『理性が経験の範囲を超えて物自体に向かうこと』
フッサールにおける『超越的』=『世界が自然的経験を超えているということ』

次の章では『経験の分類』が示される。
『意識（Bewußtsein）』=『体験のなかでも、特に志向性をもつもの』=『志向的体験』
『作用（Akt）』=『顕在的に対象に向かう意識』
『直観（Anschauung）』=『空虚な作用を充実させることのできる作用』=『対象を根源的に与える』もの
『イデーン１』に掲げられた『すべての原理のなかの原理』=『根源的に与える直観は、どれもみな認識の正当性の源泉である。』
『対象が私の意識に「与えられる」』=『対象が私の意識において「構成される」』
『個別的な対象を根源的に与える直観』1=『超越的知覚』…（例）雨やリンゴの木
『個別的な対象を根源的に与える直観』2=『内在的知覚』…（例）自分自身の体験、気持ち
『個別的な対象を根源的に与える直観』3=『価値覚』
『普遍的な対象を根源的に与える直観』=『本質直観』
これらとは別の『他者経験』は、後の章で主題となる。

次の章では『超越的知覚』、『内在的知覚』、『価値覚』、補章にて『本質直観』が詳論される。
『超越的知覚の対象』=『私の意識を超えたところにある対象』={顕在的な『現れ』と『現れるもの』+潜在的な『地平』}=『ノエマ』
『ノエマ』の側=『意味』が成立する
『ノエシス』の側=『ノエマとの関係を可能にする意識のはたらき』=『意味付与』を遂行する
全面的に顕在化しえない『先取りされた全体』=『カント的な意味での理念』=『経験の進行を導く』、『経験を進めていくための目印としてあらかじめ私が描き出すスケッチのようなもの』
『内在的知覚』=『現在進行中の自分の体験に向かう反省』
『内在的知覚の対象』=『私が生き抜いている体験そのもの』
全面的に顕在化しえない『統一的な生の全体』=『カント的な意味での理念』
『価値覚』=『価値を根源的に与える作用』=『享受』=『当該の感情や、その感情が志向性を向けている対象にひたむきに没頭している状態』=『価値判断』と『当為判断』、『実践的な行為』に展開するもの
『本質直観』=『自由変更と理念化を通じて理念的本質を根源的に与える作用』
『本質を知っている』=『あるものが○○の個別例かどうかを判定することができる』
『本質』=『さまざまな種類の普遍的なものを表す総称』
『形相的還元』=『探究の主題を個別例から本質へと移す操作』
『演繹によって知識を得ていくタイプの学問』=『精緻な学問』
『個別例から抽出される一般的特徴を記述する学問』=『記述的な学問』
フッサールは現象学を、『超越論的還元によって得られる純粋意識の領野で、経験をはじめとした諸種の作用を記述することに主眼を置いている』=『記述的な学問』に位置付けた。しかし同時に、それは『厳密な学問になることはできる』と考えた。

次の章では『自己』が主題であり、身体、時間、独我論が扱われる。
『心の宿ったこの身体』の与えられ方=『キネステーゼ』=『運動感覚』=『「自分が動いている」という感覚だけでなく、「自分を動かしている」という感覚でもありうる』
『超越論的還元を経たあとの経験（超越論的経験）の主体』=『私』=『純粋自我』=『すべての体験がそこで起こる」と言うときの「そこ」』
『把持』=『少し前の時点での体験を保つはたらき』=『一次想起』
『予持』=『少し後に起こるはずのことを予期するはたらき』=『一次予期』
『ある時点での意識の状態』=『原印象（成立した瞬間の体験）』+『把持された体験』+『予持された体験』
このことによって、意識は、点ではなく幅のある現在を持つ。
『すでに過去に沈みこんだことを再び想い起こすはたらき（再想起）』=『二次想起』
『もっと先の未来に向かう予期』=『二次予期』
フッサールは『超越論的現象学の出発点が独我論』であることは認めつつ、『自我論（エゴロギー）』は『超越論的現象学』の一部であり、その上に『他者』との関係を扱う『モナド論（モナドロギー）』が築かれなければならない、と考えていたようだ。現象学を遂行する当人が『特権的にアクセス可能』なのは、自分の体験でしかあり得ず、これが現象学が記述すべき経験の内容となる。一方で、独我論には、『日常的な経験に根ざしているとは言いがたい』ことや、『対象やその性質の客観性が説明できない』という欠点がある。フッサールは『客観性を目指す学問的探究』のために独我論を乗り越える必要があった。
『主観的』…ただ一人の主観だけにとって経験されうるもの
『間主観的』…複数の主観のあいだで経験されうるもの
『客観的』…それら複数の主観の範囲が「みんな」にまで拡張されたときに成立するもの

最終章は『他者』が論じられる。
フッサールの現象学は当然次のような立場にある。
『他者もまた経験のなかで出会われるものであるとすれば、他者が私に対して与えられる経験が特定され、そこにおいて他者がいかにして構成されるのかが問われねばならないのである。』
『他者』の異質性≒心や感覚は、その『身体や言葉や作品のように直接知覚できる媒体』に『付帯現前化』して、間接的に経験される。しかしながら、『それ自体が根源的に与えられることがありえないという意味で、私にとって異質でありつづける』ということになる。
『他者経験』=『根源的に与えられないものに出会うという特異な経験』
現象学は、暗黙裡に作動する『付帯現前化』の仕組みを解明しなければならない。そのためには『エポケー』と『還元』で『異質なものとそれに向けられた志向性を差し引く』=『抽象』によって、それを主題化しなければならない。
『受動的綜合』=『私の把握に先立って、感覚与件が一定の仕方でまとまる』=『経験の否応なさ』
『対化』=『二つの感覚与件のグループどうしが、ひいてはそれを把握することで構成される対象どうしが「対」を、すなわち「ペア」をなす』
他者経験における『異質なもの（他者の感覚や感情)』の『付帯現前化』=『私の身体に関する感覚与件と他者の物体的な現れに関する感覚与件のあいだの「対化」にもとづいて、私が後者を、「類比による把握」を通じて、��覚を備えた身体と見なすということ』=『Einfühlung』≒『感情移入』
フッサールはこれを、他者経験における『最初で最低の段階』、つまり『最も基礎的なレベル』にあるものとした。日本語では『感情移入』と訳されるのが通例であるが、著者はこの訳語について、『問題になっているのが感覚ではなく感情だけであるような誤解が生じてしまう』ことや、『自分も相手と同じような気持ちになるという含意が含まれている』という点に難があると指摘する。その上で、本書では『エンパシー』というカタカナ表記で使用される。…これには納得である。
このフッサールの他者論はあまり評判がよくないらしく、『他者に関する問題を解決したというよりも、むしろ現代に至るまでの他者をめぐる論争の発端となった』とのことである。批判の一点は、『対化』が実証的に確認されていない、ということらしい。これは言葉にするのが難しいが、私は『対化』はあるように感じる。もう一点には、『類比による把握』というのはつまり『他者を私のコピーとして扱ってしまっており、他者の異質さを捉えそこねている』、というものである。レヴィナス等がこの批判者だと思われるが、私はフッサールの肩を持ちたいと思った。フッサールは正直者なので（だと思う）、他者の他性を論じる際には「理解した雰囲気」で言葉を発したりせずに、あくまで「他人は自分と似ているように感じる、その範囲で理解可能なのだ」とするに留まったのだと思う。実在性ではカマキリの方が幽霊よりはるかに大きい。しかし「自分」がどちらに『エンパシー』≒『感情移入』が可能かと問われれば、カマキリだと答える人は皆無だろう。フッサールの他者論への批判者と思われるレヴィナス等においては、『他者』は『異質』であり、理解の範疇にはないことが繰り返し強調されるが、そうであるならば、それを語ること自体が矛盾なのではないか、とも思う。
著者はフッサールの、次の文章に則して反論してみせる。
『他者は、構成されたその意味に即して私自身へと指示を向けており、他者は私自身の鏡像であるが、本来的には鏡像というわけではない。他者は私自身の類比物であるが、やはり通常の意味での類比物というわけではない。』
著者は、フッサールの考えとして、『他者』は『他我という鏡像（類比物）』に『尽きるものではない』、そうではなくて、それらを見ることで『かろうじてそこから溢れ出す異質なもの』について語ることができるのだ、と説明する。さらに著者は、『フッサールのエンパシー論は、一見すると私のコピーである他我（鏡像・類比物）を主題としつつも、実際にはそれを介して志向性が向かっている他者（異質なもの）を問題にしていたのだ』と解釈する。
さらに、未公刊の草稿のなかには、『エンパシー論』とは異なる次元の、『コミュニケーション』による他者論が含まれているとのことである。そこでは、『何かを伝えようという意図を受け取ること』が、『エンパシー関係からコミュニケーション関係（社会的関係）への移行を可能にするもの』だとされ、私の他にも経験の主体が存在することが確かめられている、ということである。そして著者は、これをもって、『比類のない哲学的孤独』から抜け出せる余地があるとする。もっとも私は、著作に結実しなかった草稿の類をもってあれこれ論じること自体には、あまり興味が持てないのが正直なところではあった。

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フッサールの生涯と知的背景:
1859年にオーストリア領メーレン地方に生まれたフッサールの少年時代、学生時代、プレンターノとの出会い、『論理学研究』の執筆、ゲッティンゲン時代、フライブルク時代、晩年までの生涯を概観しています。
数学から哲学への転向、マサリクからの影響、プレンターノやシェーラー、ハイデッガーといった同時代人との交流が、彼の思想形成に重要な役割を果たしたことが述べられています。
ゲッティンゲン学派やミュンヘン学派との対立、超越論的現象学の提唱による学界からの孤立も指摘されています。
フッサールの死後、彼の遺稿がベルギーのルーヴェンに移され、「フッサール・アルヒーフ」として保存・研究されていることが紹介されています。
フッサールの文体と思考の特徴:
フッサールの著作は難解であると言及されており、その理由として、内容の複雑さに加えて、文体のぎこちなさ、同じ箇所を繰り返し論じる傾向が挙げられています。
しかし、この難解さは、フッサール自身が哲学の未踏の地を探求する探検家のような姿勢で思考を進めた結果であり、読者も彼と共に哲学することを求める意図があるとも解釈されています。
「エポケー」や「ノエシス」といった独特の術語の使用は、既存の言葉では捉えきれない現象を記述しようとするフッサールの試みであると説明されています。
晩年のフッサールは、自身の思考が必ずしも予定調和的ではなかったことを告白しており、読者も固定観念にとらわれずにフッサールと向き合うことが勧められています。
「誰にも予想がつかないことでしょう。たしかにそれを理解するのはあまりにも困難なことであり、実際、『誰も踏み込んだことのないところ』へ向かう途方もない道のなのです。」（p. 24-25）という引用は、フッサールの探求の困難さと独自性を示唆しています。
現象学の基本的な問いと方法:
現象学とは何かという問いに対して、「現れ」と「出会い」をキーワードに解説が試みられています。
フッサールの現象学の中心的な問いは、「経験の仕組み」（いかにして何かが現れるのか）と「経験の分類」（どのような種類の経験があるのか）であると定義されています。
「根源的な与えられ方」は一つではないこと、経験と根源的に与えられる直観の関係、経験の位階付け、経験の分類の問題などが提起されています。
現象学を定義する試みとして、「超越論的であるとは」という観点から、「現れ、現れるもの、地平」、「ノエシスとノエマ」といった重要な概念が導入されています。
カント的な意味での「理念」との関連や、対象に関する一元的な捉え方の弊害も論じられています。
「なぜ『カント的』なのか」という問いを通じて、フッサールの現象学がカントの超越論哲学を受け継ぎつつも独自に発展させたものであることが示唆されています。
「突き破られる意識」という表現は、意識が固定的なものではなく、常に変化し、新たなものに出会う可能性を秘めていることを示唆しています。
超越論的還元（エポケー）:
自然な経験から距離を置くことの重要性が強調され、「エポケー」（判断中止）という方法��解説されています。
エポケーは、世界を意識の内側に取り戻す操作であり、「超越論的」であることの意味を理解するための鍵となります。
「世界を意識の内側に引き戻す」（p. 65）という表現は、エポケーの本質を端的に示しています。
経験の可能性の条件を探る上で、「超越的」と「超越論的」の区別が重要であることが指摘され、カントとフッサールのそれぞれの用語法が比較されています。
超越論的哲学から超越論的現象学への流れが説明されています。
経験の分類:
様々な種類の経験（超越的知覚、内在的知覚、価値知覚、他者経験）が紹介され、それぞれの特徴が議論されています。
経験は止められないものでありながら、「超越論的次元」において考察されることの意義が強調されています。
「判断中止（エポケー）／日常に戻るまでが現象学」（p. 98）という標語は、現象学の探求の範囲と目的を示唆しています。
他者との出会い（エンパシー論からコミュニケーションへ）:
他者経験の構成の問題が提起され、「なぜ『他者』なのか」という根源的な問いが掘り下げられています。
「付帯現前化」という概念を通じて、他者の経験が直接的に与えられるのではなく、間接的に理解される仕組みが説明されています。
他者との出会いにおける「異質さ」と「固有のもの」の重要性が強調され、超越論的な他者経験の理論が展開されています。
エンパシー（感情移入）論が紹介され、他者の感情や経験をどのように捉えるのか、そのプロセスが分析されています。
「私と他者／他者のなかに『私』を垣間見る／哲学的な孤独からの脱却」（p. 101）という見出しは、他者理解と自己理解の相互関係を示唆しています。
他者は結局のところ私のコピーなのかという問いに対するフッサールの考察が紹介されています。
時間の中を生き抜く私（内在的時間意識）:
時間図表を用いて、経験における時間の構造（幅のある現在、過去と未来）が解説されています。
現象学が自己解明の手段となりうる可能性が示唆され、自我論とモナド論との関連が議論されています。
フッサールがデカルトから学んだこと、自我論が独我論に陥る危険性、独我論を避けられない理由、独我論の難点（日常生活との乖離、客観性の喪失）などが考察されています。
「自我はやっぱり孤独」（p. 198）という表現は、フッサールの自我論における核心的な問いを示唆しています。
リンゴの木とお茶会をする（生活世界）:
内在的知覚とは何か、移ろいゆく体験を捉えることの難しさ、「生の全体」を捉えることができるのかという問いが提起されています。
価値知覚の概念が導入され、価値知覚と価値判断、価値判断と実践的な行為とのつながりが論じられています。
生活世界の概念が提示され、現象学が厳密な学問として成立するための基盤となることが示唆されています。
「厳密な学問としての現象学」（p. 202）という見出しは、フッサールの学問的な志向性を表しています。
本質直観と厳密な学問としての現象学:
本質直観とは何か、普遍性には様々なレベルがあること、自由変動と理念化といった方法が解説されています。
厳密な学問としての現象学の可能性と課題が議論されています。
数学のような公理からの演繹による知識体系と比較しながら、現象学の厳密さのあり方が探求されています。
重要なアイデアや事実:

フッサールの現象学は、「経験の仕組み」と「経験の分類」という二つの問いを中心に展開される。
「エポケー」（判断中止）は、自然な経験に対する前提を問い直し、意識の純粋な領域へと導くための重要な方法である。
「超越論的還元」は、世界を意識の内側に引き戻し、経験の可能性の条件を探るための操作である。
経験は、超越的知覚、内在的知覚、価値知覚、他者経験といった様々な種類に分類される。
他者経験は、「付帯現前化」や「エンパシー（感情移入）」といった概念を通じて、自己の経験を基盤に間接的に理解される。
フッサールの自我論は、純粋自我と経験の流れの関係に着目するが、独我論に陥る危険性も孕んでいる。
生活世界は、人間が日常的に経験する意味の地平であり、現象学の重要な研究対象となる。
「本質直観」は、個々の経験を超えて、事物の普遍的な本質を捉えるための認識能力である。
フッサールは、現象学を厳密な学問として確立することを目指したが、その達成には議論の余地がある。
現象学は、日常生活における経験の不思議さや、これまで意識されていなかった対象との出会いに気づきをもたらす可能性がある。
本書は、ザハヴィや田島節夫、新田義弘といった現代のフッサール研究者の著作も紹介しており、現象学の現代的な展開にも触れている。
フェミニスト現象学のように、様々な学問分野との対話を通じて、現象学の応用範囲が広がっていることが示唆されている。