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紙の本
知りすぎた男 (創元推理文庫)
著者 G・K・チェスタトン (著),南條竹則 (訳)
上流階級出身で、大物政治家ともつながりを持ち、才気にあふれながら「知りすぎているがゆえに何も知らない」という奇妙な苦悩を抱える人物・フィッシャー。高度な政治的見地を要する...
知りすぎた男 (創元推理文庫)
知りすぎた男
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商品説明
上流階級出身で、大物政治家ともつながりを持ち、才気にあふれながら「知りすぎているがゆえに何も知らない」という奇妙な苦悩を抱える人物・フィッシャー。高度な政治的見地を要する様々な事件を解決に導いてゆくが…。新訳。【「TRC MARC」の商品解説】
「我々は知りすぎているんです。お互いのこと、自分のことを知りすぎている。だから、僕は今、自分の知らない一つのことに本当に興味をおぼえるんです――あの気の毒な男がなぜ死んだか、ですよ」新進気鋭の記者ハロルド・マーチが、取材に向かう中で出会ったホーン・フィッシャーという男とともに目撃した奇妙な自動車事故の意外な真相とは。諧謔と奇想に満ちた連作ミステリ、創元推理文庫初収録作。【商品解説】
収録作品一覧
標的の顔 | 9−43 | |
---|---|---|
消えたプリンス | 45−78 | |
少年の心 | 79−103 |
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フレーム問題
2023/06/15 17:55
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
ホーン・フィッシャーという探偵役というか、なんか事件に居合わせて解決する役の人物。なぜ居合わせるのかというと、世の中の少し陰になっている、きな臭いところを好奇心でいつも嗅ぎ回っているからだ。大臣も輩出している政治家一族の出であり、政治や国際情勢の裏事情までを熟知している。
「標的の顔」郊外にある財務大臣の邸宅に取材に向かう記者は、近くの川で釣りをしていたフィッシャーと同道し、その途中で死体を発見する。それが事故か自殺か殺人か、邸宅を出入りする人物たちの関係について詮索をめぐらすが、釣り人曰く「大きな魚は逃さなきゃいけない」。
「消えたプリンス」アイルランド紛争の重要人物を逮捕に向かった警官が射殺される。「あなたは本当にアイルランドの悲劇の典型だ。まったく正しいが、悪者になっている」と言うフィッシャーのスタンスが滲み出ている。
「少年の心」展示されている”聖パウロの一文銭"が盗まれる。そ、それはいったい何だ。一行が陳列室に閉じ込められた時に一人脱出した、電気技師志望の少年について「歪んだ政略とイカれた贋物がもつれあうこの話から弾丸のごとく飛び出し」「自分の汚れなき目的を果たした」と語る。
「底なしの井戸」イギリスが東方で新たな支配権を得るが、その土地に造られたクラブハウスにある井戸の前で、英雄的な将軍の死体が発見される。その真相を前にして「あんな犯罪を犯そうとしたことが知れたら、アラビア人の間での我々の立場は無茶苦茶になったろう」。
「塀の穴」森や湖に囲まれた古い館で仮装パーティーが開かれるが、そこの主人が行方不明になる。土地の歴史から真相を導くが「おそらく、僕の吸う葉巻の一本一本、僕が飲むリキュールの一杯一杯が、直接にか間接にか、聖地の略奪と貧乏人の迫害によって得られるんです」。
「釣師のこだわり」事件の動機が私怨なのか、スウェーデンによるデンマークへの攻撃にイギリス政府が介入すべきなのかが問題なのだが、それがどちらであったとしても「我々はたぶん戦争を招く代わりに防ぎ、あの悪人の命よりも貴重な何万という命を救うことになるだろう」。
「一族の馬鹿息子」フィッシャーがかつて国会議員選挙に立候補した顛末が語られる。地方の農民解放のための政策を打ち出すが、それが彼と一族の立場を微妙なものにしてしまった。そして「彫像の復讐」ではフィッシャーも参加した閣僚たちの会合の日の事件を機に、ここまで少しづつ進展してきたフィッシャーの生涯をかけた計画が怒涛のように展開する。「木曜の男」の展開に近いものも感じるが、テロや戦争との関わりも含めて、現代における多くの事件が政治や経済などの社会的背景、探偵自身の人間関係まで含めた、世界全体への知識によって認識が可能となる、論理ゲームとしてのミステリの枠には収まらない何かを書こうとしていたようだ。