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『ローマ人の物語』のやさしい注解
2010/03/21 11:16
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風紋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
1992年から2006年まで長大な『ローマ人の物語』シリーズ全15巻を書き続けた著者が、折り返し地点の第8巻を刊行した頃、2冊の副読本を併せて刊行した。
一冊は、新潮45編集部編『塩野七生『ローマ人の物語』の旅 コンプリート・ガイドブック』(新潮社、1999)である。満載された写真、地図に年表、名語録に人名録、遺跡めぐりに名店めぐり・・・・要するに、この本は資料集であり、イタリア歴史めぐりの旅のガイドブックである。
他の一冊が本書だ。こちらはぐんと趣がかわって、ローマ帝国をめぐる著者の哲学が披露される。哲学といっても、噛んでふくめるカテキズムふうの対話だから尻ごみするに及ばない。
たとえば、「質問1 ローマは軍事的にはギリシアを征服したが、文化的には征服されたとは真実か?」
これに対して、ローマ人のギリシア語尊重は優れた支配感覚の証左だ、と回答してほぼ次のようにいう。「当時の東地中海では社会生活のあらゆる面にギリシア語が浸透していた。被征服国の民に自分たちの言語(ラテン語)を強制するよりも、敗者の言語を活かして、自分たちがバイリンガルたる道をローマ人は選んだ。これは、人種偏見のない開放性、多人種多民族多宗教多文化により構成される普遍帝国の統治に欠かせない支配感覚を示すものだ」と。あるいは、ローマ人自らが行う任務を特定し、他のすべてを被支配者へ委ねた寛容。あるいはまた、造形美術について、良しとすればそれが敵のものであろうとも拒否するよりは模倣する柔軟性。これらはローマ人の自信と余裕に裏うちされていたのだろう、と付言される。
こうした質疑応答が20件続く。
話題は徹頭徹尾「ローマ人」なのだが、それが自ずから現代日本社会に対する批評にもなっているのが興味深い。
なかには、軽いタッチで、古代のローマ人と現代日本人との共通点をあげた問答もある。いわく入浴好き、いわく温泉好き、いわく部屋の内装好き、いわく魚好き、いわく企業家の才能。なかなかのサービス精神だ。
全巻完結したいま、新たな「20の質問」があってよさそうなものだが、刊行されていない。柳の下の泥鰌は、著者の意に染まなかったのかもしれない。だとすると、『ローマから日本が見える』(集英社インターナショナル、2005。後に集英社文庫、2008)が「続『ローマ人への20の質問』」に相当するのだろう。
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歴史は、中国史とローマ史が面白い
2003/02/09 11:51
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投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
歴史は、中国史とローマ史が面白い。どちらも世界帝国で、多民族よりなり、スケールが大きく、変化に富んでいる。本書は、対話形式で書かれているが、問うているのも、答えているのも、勿論著者である。大著「ローマ人の物語」のサブノートと言ったところか。「ローマ人の物語」を著わす過程で著者がえた理解をもとに、ローマ史、ローマ人に対する通説について、修正をくわえている。歴史学者ではなく、作家の書いた本であるから、内容が充実していても、肩肘張らずに読める。
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ローマ人への20の質問
2003/03/23 10:18
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:五十棲達彦 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『ローマ人への20の質問』を薦められたのが6月21日であったので、読了するまでに1ヶ月半も掛かってしまった。感想文を書きながらの読書なんて、何十年振りかの作業であった。いささか大変であった。さて、本題の感想ですが、最終章の「なぜローマは滅亡したのか」は、現在の日本の国家、社会、会社、個人に対してもあてはまることで、この最終章を書く為に、1章から19章が書かれているとさえ思える位である。一方、この本における古代ローマと現代アメリカがどうしても重複してしまうのは私だけのことなのか? この点の感想を聞きたい。現代のアメリカと日本の比較論として、この『ローマ人への20の質問』は一読の価値があった、というのが読み終えての感想である。他の方の感想を伺いたい。
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ローマ史を専門にしている人達からはなぜか評判のよろしくない塩野七生さんの随筆です。私達中国史専門が田中芳樹を嫌いなのと同じでしょうか。塩野さんの著作にそんな悪いイメージは持たないのですが・・・。で、本題に戻りますが、この本を読んでつくづくローマ人というのは人間くさいなと思います。ギリシア・ローマとよく二つの文明が一緒に語られますが、ギリシア人というのは「理想的な人間」を追求して人間の欲望とかをなるべく排除しようという意識が強い、というイメージがありますが、ローマ人は欲望に忠実で人間味が溢れているような気がします。深く入り込めばギリシア人の人間くささも見えてくるとは思いますが・・・。最後に、この本に書かれた一文を紹介して終わりにします。ポエニ戦争に勝利し、地中海の覇権を握ったローマで、常にカルタゴを意識していた大カトーの演説「―世界の覇者になったはずの諸君の上にもう一つ、女房という覇者がいる―」名文ですな。
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あの「ローマ人の物語」を書いている塩野七生さんの本
20の質問に対して作者が答える形式になっている。
共和制から帝政ローマにおける、国の仕組みから人々の暮らしなどいろいろな角度からローマ人に迫っている。
「ローマ人の物語」を読んでいてもいなくても楽しめる。
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塩野七生『ローマ人の物語』の影響 第2段。
第1段と違ってこっちは前編ローマです。
ただ、基本的に『ローマ人の物語』に書かれてあることと同内容なので、目新しいモノは無いです。
著者としては、
「語りたい事は全部、『ローマ人の・・・』で書いてるよ」
ってことでしょうか。。
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ローマ史についての疑問に、塩野氏が自説を展開する。ローマ史に興味のある人なら間違いなく楽しめる内容。ただ塩野氏の文体はややクセがあるので、読みなれていない人はちょっと読み進めづらいかもしれない。
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いままで曖昧な知識だったギリシャ、ローマの事柄が分かりやすく理解できた。塩野女史の力も端々に感じられる。
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ローマ人の物語番外編。行きつけの本屋にいつまでもローマ人の物語29が入荷されないので、間をつなぐ目的で購入してみた一冊。しかしながら、あの大作シリーズの読者にとっては、何とも冴えない印象の本だった。この本で語られることのほぼすべてはローマ人の物語において、もっと詳細な形で語りつくされている。さりとて、ローマ史に詳しくない人にとっては、少々フォロー不足の感も否めず。もう一冊の番外編「ローマから日本が見える」の出来が良かっただけに、ちょっぴり残念である。
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著者の塩野七生は、わりと良い評判しか聞かないし、実際相当量のイタリアについての著作を持っているから、塩野の本にはじめて当たる僕は赤子のごとく無垢な気持ちでこの本を読んでいたのだが、どうしたことか、途中からいまいち信用ならぬという気持ちが強くなってしまった。
たとえば、タイトルについて。タイトルは「ローマ人への20の質問」である。「ローマ人」への、である。文章はこのタイトルを反映して、二人の登場人物による対話形式で進んでいく。一方が質問者であり、一方が回答者である。このとき、どうしたって、回答者はローマ人であることが想定される。もちろん二千年前の人物に直接聞くことは不可能であるのだからフィクションとなるわけだけれど、そういう「歴史フィクション」と称される読み物はたくさんあるし、この本もその一種なのだと想像させるだろう。しかし、最初の方はたしかにその形式で読むことができるのだけれど、第五章あたりから、どうもおかしくなる。この章で扱っているのはローマvsカルタゴの「ポエニ戦役」についてである。このなかで回答者はこのように発言している。
「しかし、はじめから断っておきますが、第二次ポエニ戦役の要約に至っては、少なくとも私の場合は、たとえ殺すと脅かされてもできない絶対の不可能事です。ローマの史家リヴィウスの『ローマ史』でも大きな部分がさかれていますが、私の『ハンニバル戦記』でも、その前後の百三十年間をとりあげていながら、そのうちの十六年間にすぎない第二次ポエニ戦役の叙述に、一冊の三分の二を費やしている」(p.51-2)
あるいは、
「このハンニバルの面影を後世に伝えてくれる肖像は(中略)アルプスを超えてイタリアになぐりこみをかけた、三十になるやならずの若者の覇気を伝えてくれません。(中略)それで私は、『ハンニバル戦記』中で、ただ一つ残る彼の<顔貌>をザマの会戦前夜まで載せないことにしました。悲運が漂う彼の顔は、連戦連勝を誇った男の唯一の敗北のときにしか、ふさわしくないと考えたからです」(p.55)
ここに現れているのは明白に著者塩野である。しかも、「たとえ殺すと脅かされてもできない」などと冗長でしかない形容までつけた、自身の歴史への誠意であり、愛が表明されている。私はべつに、その愛をけなすつもりはない。以上の発言に見られる歴史家としての塩野のスタンスには頭が下がるのみだ。しかし、この本は「ローマ人への質問」なわけで、フィクションとして回答者に「ローマ人」を設定するのは当然の義務である。でなければ、タイトルを変えるべきだ。読み物の形式をこのような形で平気で破るのは読者を無駄に惑わせるだけであるし、ひどく不愉快であった。
また、古代ローマとそもそも敵対関係にあったからか知らないが、塩野のキリスト教とくにユダヤ教に対する暴力的な論法は問題があるように思う。第十一章の法律の話において、ローマ法の性格を論じるために、ユダヤ教の「モーセの十戒」を元とした法律を非人間的だとむやみに断定をしたり、している。つい最近『ユダヤ文化論』を読んだからというわけではないが、これではあまりにユダヤに対して��慮がない。
以上は揚げ足取りのようなものであるから、批評に相応するものではないが、しかし、一応、ちゃんと批評するポイントは別に、ある。第十三章に挿入されている図版の注は「首都近くのアッピア街道の復元図」となっている。図版はおそらく18世紀の版画家ピラネージによるものだと推測される(引用元が記されていない)。しかし、ピラネージは古代ローマに関する誇大妄想的な図版を、多く描いたことで有名な版画家である。ゆえに、ここで使用されている図版も「復元図」とは名ばかりの幻想上の所産である確率が高い。少なくとも、100パーセント事実に基づくものとは言いがたい。そのようなピラネージの、空想である可能性を捨てきれない図版を「復元図」として提示することは、それこそ塩野自身が本書で繰り返し修正を施してきた、歴史に対する無根拠な思い込みを、新たに生み出すことに他ならないのではなかろうか。
平易な言葉を使う対話形式でありつつも、無駄な言葉を減らして文のすみずみまで情報を盛り込んだ、緊張感のある良い本だなぁという、読み始めのころのせっかくの印象が、台無しである。
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ローマ帝国についての歴史書かと思いきやそれだけにとどまらない。
国家のありかた、歴史の学び方、西洋史の基礎などなど…予想を遥かに越えて多くの事を学べる1冊。
例えば、開国政策か鎖国政策か。とか、国を統べる基準は宗教か哲学か法律か。とか
こう言うと物凄い堅苦しい本みたい(実際堅苦しいか;)だけど、
真面目な堅苦しい事を理解しやすく書いてある(と思う)
それは作者の書く文章が論理的で筋が通ってて分かりやすいから。
こういう文章が書けるようになりたいなー…って論文の勉強にもなるねw
歴史や社会学、法律なんかを真面目に学びたい人には強く勧めたい1冊。
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(2004.02.17読了)(2000.10.27購入)
塩野さんの作品は、「ルネサンスの女たち」を読んでからはまってしまい、マキャベリの前辺りまでは大体読んだのですが、それ以後はまだ読んでいないので、そろそろ再開しようかなというところです。
●富の格差について
公共事業に私財を投じる事は、ローマ人にとっての最高の名誉という伝統があった。建設した当人が属する家門名が付いたものとして、アッピア街道、フラミニア街道、ポンペイウス劇場、ユリウス会堂、クラウディウス水道等がある。建設だけでなく修理修復についても公共事業への私財投入が奨励され、修復に私財を投入した人の碑文が残っている。
●宿敵カルタゴとの対決について
ローマとカルタゴは、3度にわたり死闘を繰り返した。
第1次は、主にシチリアとその周辺海域。第2次は、ハンニバルがアルプス越えでせめて来た。第3次は、カルタゴへ攻めていった。
第1次はカルタゴがシチリアを支配しようと攻めてきた。軍船も商戦も持っていなかったローマは勝ち目がなかったのに勝ってしまった。カルタゴの軍船をまねて作り、さらに「カラス」と名づけられたものを取り付けた。相手の船に接近したら鉤爪のついた桟橋を相手の甲板に下ろして固定して、兵隊がなだれ込む。これによって有利に戦えた。
ローマ人に海運の伝統がなかったためにできた工夫だとか。
●古代のローマ人と現代の日本人の共通点
大変な入浴好き。浴槽にどっぷりつかり、体を洗う時は浴槽の外で。このやり方はローマ人と日本人のみ。
肉より魚を好んだ。僕も魚のほうが好きだけど、日本人でも結構肉のほうが好きな人がいる。
企業家の才能。ギリシア民族が発見・発明した基礎を応用して、生活に役立てた。舗装道路の整備、アーチの利用、カレンダーの作成等。
●ローマ法について
ユダヤ教とキリスト教の違い。ユダヤ教は完全な一神教。キリスト教は守護聖人の崇拝が許されており、事実上は多神教になっている。
ユダヤ教の法とローマの法の違い。神が作ったのがユダヤ教の法。神が作ったがゆえに絶対に変えてはいけない。ローマの法は人間が作った。人間の作った法は、不適当となれば改める。人間が作ったということを明確にするために?法律に提案者の名前が冠せられていた。ユリウス農地法というように。
「ローマ人の物語」が完結していないがゆえに、ローマ人のすべてが解明されていないのが残念です。「ローマ人の物語」への入門書ということです。
☆塩野七生さんの本(既読)
「コンスタンティノープルの陥落」塩野七生著、新潮文庫、1991.04.25
「ロードス島攻防記」塩野七生著、新潮文庫、1991.05.25
「レパントの海戦」塩野七生著、新潮文庫、1991.06.25
「男の肖像」塩野七生著、文春文庫、1992.06.10
「男たちへ」塩野七生著、文春文庫、1993.02.10
「緋色のヴェネツィア」塩野七生著、朝日文芸文庫、1993.07.01
「銀色のフィレンツェ」塩野七生著、朝日文芸文庫、1993.11.01
「黄金のローマ」塩野七生著、朝日文芸文庫、1995.01.01
塩野七生[シオノナナミ]
1937年7月 東京生まれ。
学習院大学文学��哲学科卒業
1963~68年 イタリアで遊びつつ、学ぶ。
1968年 執筆活動を開始「ルネサンスの女たち」を「中央公論」誌に発表。
1970年 イタリアに住む
1970年 『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』毎日出版文化賞受賞。
1982年 『海の都の物語』サントリー学芸賞受賞。
1993年 『ローマ人の物語1』新潮学芸賞受賞。
(「BOOK」データベースより)amazon
「ローマは一日にして成らず」の格言を生んだ古代ローマが西欧各国の歴史の手本とされたのは、その一千年が危機と克服の連続であったからであろう。カルタゴとの死闘に勝ち抜いたあと長い混迷に苦しんだ共和政時代。天才カエサルが描いた青写真に沿って帝政へと移行し、“パクス・ロマーナ”を確立したローマ帝国。崇高と卑劣、叡知と愚かさ―人間の営みのすべてを網羅したローマは、われわれと同じ生身の人間が生きた国でもあったのだ。
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イタリアには興味があるものの、世界史をまともに勉強していなかったため、いきなりこの本を読んでもつまらないかな?という懸念は無用でした。質疑応答の文体は読みやすく、なんとなく漠然とした印象だった古代ローマが、すこし自分の中で形になってきたと感じています。
「ローマ人の物語」からの引用がほとんどだったようで、この本を切っ掛けに読み始めています。
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ずっと前に古本屋さんで見かけて買っておいた本。
でも、塩野七生さんは自分には合わなかったみたいだ。
質問に回答するという形式で、会話調で書かれているのはいいんだけど、話し方とか、論理の組み方?質問への答え方?がすごく苦手な感じだった。
事実と意見が区別されてない感じとか、それでも断言しちゃう感じとか。
結局、3つ目の質問ぐらいで投げちゃった。
有名な人っぽいから、きっと内容は面白いんだろうけど…。
漫画の『チェーザレ』の影響で、この人の『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』を読みたいと思ってたけど、考え直しそうだ。
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「ローマ人の物語」全巻を読破したあとでは、この本は物足りなく感じます。ローマとはという問いに、できるだけ平易に丁寧に答えていっています。ローマ人の物語を読みたい方は、最初にこちらを読まれることをオススメします。