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紙の本
暖かい血の流れる人間としての隠密の姿
2015/11/24 16:34
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投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
隠密は、非常な命令にも逆わず、己を捨てて役目を全うしなければならない。
弓虎之助も、九代前から筒井家の臣として潜入している隠密であり、ひとたび命があれば、幕府の臣下として動かなければならない。
しかし、何も起こらなければ、そのまま筒井家の臣として終わる。実際、父までの代は筒井藩士として死んでいった。
ところが、虎之助の代になって、幕府は筒井家に藩祖の隠し金があるらしいとの情報を得た。虎之助にその探索の命が下った。
虎之助に命を下すのは姿なき声。その声は冷たく、虎之助を組織の歯車として扱う響きを帯びている。
始めは命じるままに動いていた虎之助だが、己をいいように扱うその声に、反発を感じるようになる。
池波正太郎は、これまで『蝶の戦記』や『忍者丹波大介』などの忍者もので、命令に従わなければならないという掟を破り、己の思うままに行動する忍びたちを描いてきた。そこには、組織に縛られず、人として熱き血をもつ忍の姿があった。
この『スパイ武士道』に登場する幕府隠密の弓虎之助も、冷たい声に動かされているうちに、そんな忍たちと同じく暖かい血の通った人としての己が目覚め始める。
普通の隠密なら幕府の命には絶対忠実なのだが、虎之助の血は熱く、命じるままに動いたらよいという闇の声に反発を感じる虎之助に、見ている方も熱くなった。
この作品は、幕府の人間として動くのか、筒井藩士として生きるのか、ひとときも虎之助の動きに目が離せないのだが、その逡巡の様子がとても生々しく、どちらかを選ばなければいけない立場に置かれた者の人間らしさが感じられる。物語を面白くしてやろうとする作者の姿が見えないのがいい。
最後まで幕府と筒井藩との間で揺れ動く虎之助だが、最後の決断は気持ちよかった。
単純に、右に付くか左に付くかという結末でないのも、この作品のいいところだった。