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紙の本
荒廃と頽廃
2001/11/26 02:59
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投稿者:トリフィド - この投稿者のレビュー一覧を見る
この作品を読んだのは、もう10年以上も前になる。しかし最近、この作品を思い起こさせられることに時々出会うようになった。Web掲示板などのネットのコミュニティの荒廃と崩壊のプロセスが、この作品を彷彿とさせるのである。
この物語の舞台は、衣食住に必要な設備をすべて備えた、いわば垂直の都市ある40階建ての超高層住宅。裕福な上層階の住人と、中流の下層階の住人の間にくすぶっていた争いの火種が、さまざまな出来事を通してエスカレートしてゆく。次第にマンション内は荒れ果て、落書きとゴミの山に埋もれてゆき、ついにはプールに死体が浮かぶ事態に至る。そしてそこに至っても、誰も外部に助けを求めようとしないのだ。何事もなく平和な都市を周囲に見ながら、みずから閉塞したままマンション内の文明が崩壊してゆくのである。
この作品は、『コンクリートの島』、映画化された『クラッシュ』とともに、テクノロジー三部作と呼ばれることもある。バラードが70年代に書いた、科学技術が生み出した閉塞状態に置かれた人々を描き出した作品である。
SF者同士のおしゃべりの中で、ゴミの山に埋もれて荒廃したマンション内の様子だけをこの作品から取り出して、「私の部屋、ハイライズ状態なの」などとやりとりすることなどがあった。それは、この作品に描かれていることの中で、日常と関わりのある点はそれくらいしかなかったということなのだと思う。しかし日常生活にネットワークが入り込んでくるようになって、ネット内でのコミュニティの崩壊に、この作品の翳を見ることが多くなったわけである。次第に荒廃してゆくコミュニティ、エスカレートしてゆく悪意の現れ、ゴミ投稿が増加し、いやがらせが始まる。そして奇怪なことに、誰も外部(管理者等)に助けを求めようとしなかったりするのである。そういう状況を目にするたびに、この作品を思い出して背筋が寒くなる思いをする。
Web掲示板などの崩壊を目にして、「どうしてこうなっちゃうんだろう?」と嘆いたことのある人にぜひ読んでほしい一冊である。