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紙の本
米軍の土地接収に対して抵抗を続けた無名の農民の記録
2018/06/17 15:26
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投稿者:親譲りの無鉄砲 - この投稿者のレビュー一覧を見る
現政権は、新安保法制、共謀罪法等の数々の悪法を定め、嘗てのように戦争のできる国に変え続け、さらには緊急事態法制定、憲法9条改正をも視野に入れている。日本の内政・外交におけるジレンマ(一見独立国であるように見せかけて実は米軍施政下にある属国であり続けるという実態)において、その本質が縮図的に表れているのが沖縄の基地問題である。日本の問題として米軍基地問題を心底より考えるとき、我々は農民・阿波根昌鴻さんに思いを馳せずにはいられない。44年前のその魂の叫びともいえる本書が最近復刊された。これからの日本の指針として彼の言葉に多くの人が耳を傾けなければならぬという出版関係者の思いがあったのだろう。
サンフランシスコ講和条約による本土の国際復帰の陰で、沖縄は米軍政下におかれ続けることになった。その屈辱の日から間もない1953年に、伊江島(阿波根さんの家は真謝地区)で米軍の土地接収は始まった。やり口は、まず詐欺師のまがいの「涙金」ほどの生活再建の足しにもならぬような補償額で、十分生活できると甘言を弄して接収しようと試みるものだ。他の代替地もなく拒否する農民たちには、丹精した農作物を勝手に引き抜き、畑をブルドーザーで荒らす、といった暴力団と変わらぬ実力行使へと次第にエスカレートしていった。それでも立ち退き拒否を貫く農民に対しては、勝手に演習地と定めた土地で実弾射撃や爆撃演習を行い、原野を焼き、経済的圧迫ばかりか生命の危険にさえ晒すことも厭わない非人道手段に打って出た。演習弾スキップバームの直撃で即死した若い命もあった。さらには、草刈りをしている若者を逮捕・投獄するなども繰り返した。(最近でも同じように基地運動のリーダーである山城博治に対して転び公妨と微罪による別件逮捕の繰り返しで不当な延長拘留を繰り返したことは記憶に新しく、官憲の典型的横暴にため息が出る。)この抵抗運動のディテイルに我々は真摯に学ぶべきだ。軍部に絡め取られた戦前戦中の日本国民は民主主義をもたらした米軍により解放された、などという歴史ナラティブなど信用できない。沖縄での土地収奪はならず者による仕業である。それを日本の安全保障のための代償として放置してよいという論理は、ならず者を是とする論理である。
琉球政府もあてにはならず、米軍と住民との板挟みの中で、むしろ米軍のご意向に忖度した。伊江島の農民たちは、誰に教わるということもなく、住民同士が助け合いながら耕作と陳情を継続することにし、籠絡ターゲットになりうる代表者を定めない団交テクニックを身につけ、耳より上に手を上げないという非暴力を徹底する陳情規定をつくった。僅かな補償金を当てに土地を手放した農民より、拒否を貫いて団結した農民の方が却って経済的に楽にもなってきた。阿波根さんは、農民のさらに学習意識を高めるべく団結道場をつくり、多くの子弟を本土の中央労働学院に学ばせ、しまいには本人自らも60過ぎてから入学し、運動の理論づけをしていった。先の沖縄戦で誰もが皆、多くの肉親の犠牲を出した悲しくも苦しい記憶がこの平和志向に駆り立てた。この農民の土地を守る運動が、平和のための運動という普遍理念にまで高まった。ベトナム戦争反対の声を上げ、厭戦化するべく米兵の心理を懐柔する事までやる。1970年、伊江島の米軍用地の41%分を解放するという発表がなされる。数字には接収に抵抗して既に家を建て耕作を続けていた真謝の農民の土地も含まれているので、実質とは異なる辻褄合わせの様なものだが、それでも、執拗な農民の抵抗との根比べに米軍が負けた確かな証拠でもあった。