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紙の本
最悪の選択をしてしまう時
2009/02/08 01:01
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
一人の平凡な主婦に不幸な事件が襲いかかる。突如押し入った暴漢に襲われるのだが、それを夫にも打ち明けられず、訴え出ることもできず、死ぬにも死にきれない。そうして事態はずるずると悪い方へ、悪い方へと向かって行く。一見平穏に過ぎて行く日常の裏で、静かに破局が進行して行く様がサスペンスタッチで進行する。
主人公はなんとかこの状況から逃れようと、出来うる限りの手段を尽くすのだが、ことごとく裏目に出てしまう。悩みに悩み、考えに考え抜いて、恐怖におののく心理には、引きずり込まれるような危うさを孕まれているが、結局、彼女には事態を打開する能力が無いのだ。そのこと自体は珍しいものではない。強姦された時の対処マニュアルなんてものは無いし、あっても現実には役には立たない。この時代=昭和30年代の価値観、社会情勢であればなおさらのこと。それにいくら日常の世知に長けていても、異常事態になれば日常世界の外側についての理解が必要だからだ。危機管理とはそういうもので、この世に異常なことが存在することを想像できるかどうかが鍵になる。もちろん、大概の場合はそれは無理なことで、例えば100年に一度の大不況にどう対処していいかわからないなんていうのも、その伝で。
天変地異が襲ってくる必要は無い、異常な極悪人が大暴れする必要も無い。日常の歯車が一つずれただけでも、破滅に向かって転がり落ちる人生もある。たまたまうまく歯止めがかかることもあれば、底無しに落ち続ける場合もある。平凡すぎる主婦の、暮らしの表層だけは取り繕いながら崩れて行く様子はスリリングではあるが、人が能力の限界で挫折することにはもっと切迫した怖さがある。主人公に感情移入できてもできなくても、時代が移り変わっても、それは変わらない。