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執念の家譜 (講談社文庫)
執念の家譜
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紙の本
三浦氏一族の世代を越えた執念を描いた「執念の家譜」、その他珠玉の歴史短編集
2006/01/29 21:09
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
随分古い文庫本で、昭和60年に刊行されたものである。今はもう古本しか存在しない。しかし、私にとっては貴重である。
本書には永井路子さんの歴史短編小説7話が収められている。タイトルにもなっている「執念の家譜」は鎌倉時代、頼朝の有力御家人だった三浦氏が主人公である。三浦氏といえば三浦半島に名を残し、鎌倉に最も近く地政学上有利な立場にあった。
北条氏が鎌倉幕府を源氏から乗っ取り、他の有力御家人が次々に滅ぼされていく中で最後まで生き残った一族のうちの一つが三浦氏である。数年前のNHKの大河ドラマ『北条時宗』の冒頭で北条対三浦の所謂宝治合戦の模様が描かれていた。
この「執念の家譜」の主人公は三浦光村で、宝治合戦の三浦氏の惣領三浦泰村の弟である。そもそも幕府ができあがった頃は、三浦氏の勢力が圧倒的に強く、北条氏は伊豆の片田舎を領地とする武士であった。その後源氏の将軍を抱える北条氏の勢力伸張の策略が見事に当たった。のんびりとしていた三浦氏を大きく凌駕した。源氏を上手く利用して有力御家人を次々と倒していく。侍所別当である和田義盛も三浦一族であるが、和田が乱をおこした際も三浦氏は知らん顔で北条に味方した。
結果論ではあるが、幕府勃興の折に倒しておかなければならなかったのだ。時間が経ってからでは北条氏の策略には三浦氏は到底及ばなかったということであろう。
「執念の家譜」をメイン・イベントとするならば、セミ・ファイナルは「裾野」であろう。曽我十郎、五郎の仇討ちの話は有名で、能を始めとする様々な芸能に取り上げられて良く知られている。永井氏はこの頼朝の巻き狩りを利用した仇討ちには裏があるとかねてからその推理の一端を語っている。
この「裾野」はその解決編ともいうべきものではないか。巻き狩りが行われた場所には土地の古豪がいたが、自分たちを軽んじる頼朝の取り巻きに不満を持っていた。この機に乗じて幕府の要人、言い換えれば有力御家人たちの暗殺を断行したが失敗し、表面的に残ったのは曽我兄弟の工藤祐経暗殺だけであったというものだ。これらは何ら証拠となる史料は少なく、永井氏の推理ではあるが、なかなか興味深く、小説的に面白い推理である。
これ以外は「裏切りしは誰ぞ」が面白かった。小早川秀秋といえば、関ヶ原の合戦での寝返りが有名だが、この人物は元はといえば、豊臣家の家督を譲られる立場であった。しかし、それを秀次、秀頼に譲る羽目になった。戦国の世にもてあそばれる運命を綴っている。
その他4編はいずれも戦国時代の逸話を題材に永井氏独特のアイデアを利かした逸品そろいである。