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紙の本
イナカモノのおねだりはもう沢山。東京の金は東京で使う。口惜しかったら、東京へ来い!
2007/06/26 00:35
13人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書こそ、日本の財政を破綻させた元凶であり日本国土計画の青写真である。本書には日本全土に張り巡らす新幹線網・高速道路網も出ているし、日本全土にダムを一千箇所もつくるという妄想ならぬ「構想」も出ている。四国にだって、ちゃんと三箇所に橋をかける構想が出ている。それは日本経済が今後とも本書が書かれた1972年当時と変わらぬ高度成長を維持することが前提とされているのだが。もともと日本の官僚はケチだった。貧乏が染み付いていて「赤字財政は国家の敵」と財政均衡主義が一種の宗教的信念であるかのごとく、ほぼ全ての官僚にあまねく共有されていた。だから都会と地方の格差はなかなか埋まらなかったのである。「のみしらみ馬がばりする枕元」と芭蕉が詠んだ世界が、昭和40年代になっても尚、田舎にはあったのである。祖父江孝男『日本人はどう変わったか』には東京の内科医に生まれた祖父江が、昭和初期にはまだまだ珍しかった自家用車で埼玉までドライブしたときの様子が出てくる。「道端にある藁葺き屋根の農家にはガラス戸はなく真っ黒に汚れた障子の戸があるだけである。しかも障子はところどころ破れている。小休止のため父が自動車を止めると、その農家の陰から薄汚れた農家の子供が駆け出してくる。彼らは例外なくアオバナをたらし裸足であった。貧しい身なりをした彼らは、洋装断髪の私の母を、まるで宇宙人を眺めるかのごとく、遠巻きにしてじっと見ていた」。こういう世界が昭和初年には東京の近郊に現実にあったのである。田中角栄が掲げた「国土の均衡ある発展」には、イナカモノの怨念がある。角栄はこの怨念をばら撒き政治を通じて解消しようとした。当時、日本経済は10%近くの成長を10年以上も継続しており、政府には使いきれない税収があふれておりエリート官僚たちは角栄の腕力に心酔し、その多くが後に政治家となって角栄の忠実な子分となった。やがて権力を握った角栄が満を持して世に問うた政策集が本書なのである。しかし好事魔多しという。角栄の栄光は長くは続かずオイルショックと狂乱インフレを経て日本経済の高度成長は終焉し、日本は低成長時代へと突入する。角栄流の政策は日本が高度に成長しているときのみ可能なのであって、低成長時代になっても、この土建屋帝国主義政策を継続すれば財政が破綻するのは火を見るより明らかである。つい最近まで東京にはイナカモノ一世が多く住んでいた。彼らは田舎に年老いた父母を抱え、田舎への強い郷愁をもっていたため、角栄流政治をまるで親元へ仕送りする感覚で安々と受け入れていた。恵まれた都会に住む人間がエゴを主張することははしたない事とされ、教養ある人間は角栄流政治を是とすべしという風潮が支配的だった。しかし今や日本全土シビルミニマムは既に達成されている。これ以上、都市の住民から収奪して過疎の原野に税金をばら撒くことは、もはや正義でないことを多少とも教養のある人なら知るべきであろう。