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紙の本
森と湖にかこまれて
2017/10/05 23:22
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
ケルト人の王国が、ノルマン人やサクソン人に蹂躙され、スコットランド王国に支配されている時代。しかし山岳地方では意気軒昂な人々が生きている。
それぞれの部族に、勇者、英雄がいて、美女や姫君がいる。活劇と恋の花の歴史があり、伝説がある。
それらは、あるいは征服者の正史に埋もれて忘れ去られていくのかもしれない。作者スコットは、地方の民謡や伝承の収集をしていく中で、そういった消えかかっていく物語を蓄積していき、新たに現代の表現による叙事詩として再生した。
山あいの静かな湖に浮かぶ島に、かつて剛勇でならした英雄とその娘が、圧政者の目を逃れるように隠棲している。また若き勇者が弾圧に抗するために、立ち上がろうとする。その彼を押したてるために、散らばった小さな村々から屈強な若者たちが、野山をかき分けて集結していく様が、この物語の、もっとも勇壮で、また悲愴さを秘めた圧巻の場面と言える。そして戦士たちは一人、また一人と倒れていくのだ。
そしてスコットランド王ジェイムズは、気まぐれで、傲慢で、残虐で、激情家であり、最後には事態をうまく収拾することで名王らしき片鱗も見せて描かれているが、その真意が万人に示されているわけではなく、中盤までは冷酷非道のように扱われていたのだが、それもこれも要するに聖人という存在であるためのようだ。
騎士や豪傑、美貌と勇気に溢れる姫君が活躍する半ば神話的な物語が、ヒースとエニシダの森と山岳の国で繰り広げられる。その懐かしさ、僕らは森の住人だったのだ。厳しい自然の中で朝と夜を過ごし、疾駆し、戦い、涙する素朴で力強い人々に、また懐かしさとシンパシーを覚える。
物語のクライマックスは、ジェイムズジェームズ王の叡智によってすべてが収まるところなのだろうが、やはり脳裏に焼きつくのは森を奔り、森に斃れる人々の姿なのだ。