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紙の本
暴れん坊でお茶目な忍者
2009/08/23 21:45
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
不知火忍者、伊賀でも風魔でもない、弱小忍者集団であり、徳川の世における生き残りに必死になっている。その命運はなぜかひょっこり生まれた一人の天才忍者の双肩にかかってしまう。彼はいわゆる知恵伊豆こと松平信綱にコネを作り、仕事を請け負うことで命脈を保っている。アウトロー的な人物設定の造作である。
重い運命を背負っているにも関わらず、主人公「鷹」はその能力を嵩に傍若無人な態度で、気に入った仕事しかしない。受け取った金以上の忠誠は無い。なんというか、現代人にとってスカッとする設定なんでしょう。
この時代では、まだ各藩に謀反、反徳川の動きを警戒しなくてはならず、絶対的な権力に自信の無い幕府にとっても、隠密その他の工作員には伊賀や柳生だけでないオルタナティブな手駒で、かつ使い勝手のいいユーティリティプレイヤーの存在意義は大きい。幕府に腹を探られたくもない各藩にも似たような事情はあり、同じような立場の者同士の暗闘が生じる。言ってみれば、いわゆる「裏の歴史」の、さらに裏面の語り手ということかもしれない。熊本藩加藤家のお取り潰しや、宇都宮本多正純の改易、大奥に蠢くあれやこれやなど、幕府を取り巻く事件は事欠かないし、それらの事件の背後に、強大な力を持つという「闇公方」なる影もちらつく。
一話完結の体裁ではあるが、それぞれ前作の事件や登場人物は連続しており、因果関係は積み重なって、やがて鷹は松平伊豆守と訣別する。しかし彼は過去の怨襲やら女絡みで、次々に新たな事件の渦中に放り込まれる。特に情に弱い、というより情欲に弱いと言うべきか。しかしせめて情が無ければ、この悪辣な行状には救いが無いとも言える。そのくらいの奔放なのだが、まあむしろ作品の目的自体がそっちの描写にあるのかもしれない。鷹を助けるくノ一達の活躍もその期待を裏切らない。しかし情をかける対象はそれだけでなく、改易される大名とその家臣、処罰され、あるいは斬られ、あるいはむなしい労苦を負う武士や忍び、苦海に沈む女達、歴史の舞台から消えていった千姫や石田三成といった人物、そういう人々の視点が常にあるから、痛快というだけでない、ほろ苦い読後感も残される。