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著者 ダグラス・ダン (著),中野 康司 (訳)
ひそやかな村 (新しいイギリスの小説)
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みんなの評価4.0
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評価内訳
2011/09/08 00:56
投稿元:
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思っていたことと別なことが起きた時、それは直ちに失望につながるものだろうか、とふと考えてみたくなる。次々とそんなことが起きたら失望は怒りにすら繋がってしまうものだろうか、とも。答えはもちろん場合によりけりなのだと思うけれど、思ってもみなかった展開というのは案外受け止めるのが難しいものであるとは言っても間違いではないだろうと思う。端的にいって、これはそんな感慨を生む本である。 「ひそやかな村」には短くそして読む者の慣性を全く気にもとめないような文章が並ぶ。短い文章群の最後の一文を読んだ時に感じる、期待を裏切られたような感覚は、心地よいとは言い難い感覚を覚えはするものの、不快かといえばそうとも言い切れない、なんとも中途半端な気分を助長する。そのむずむずしたような感覚に、言葉は過激に響き過ぎるかも知れないけれども、じっと耐える。 一つ一つの短篇の中で展開する物語は、決してどこへも繋がっていかない。しかしこの物語はここで終わりではなく明日もまた何かが起こるのだろう、そしてそれはひょっとすると繰り返されると言った方が適切かもしれないことなのだろう、という気配だけは濃厚に残される。その気配をどう受け止めるのか。気分が弱っている今の自分には、そのやり方が解らない。しかし気分が弱っていなかったら、軽快に受けとめられるのだろうかと想像してみても、確信が湧く訳でもない。 物語は、良くも悪くも読み終えた瞬間に消え失せる運命である。その淡さのようなものが際立っている。負のイメージを植え付けることなしに淡さを際立たせるような文章というものには余りお目にかかったことがない。でもその淡さが、大事にとっておいたメレンゲが口の中で消え失せる時のようなものか、と問い直してみると、そんな風に何かを惜しむ気持ちが掻き立てられる、という訳でもない。何々ではない、と、そんな言葉ばかりが湧いてくる。 唐突ではあるけれど、アガサ・クリスティのシリーズものの中ではなんといってもミス・マープルものが好きである。あの聞きようによっては嫌味千万な「それは誰々のところのメイドの娘の話のようだわね」というオールド・ミスの話ぶりが好きなのである。その話は何かと何かを一瞬にして結びつける。アナロジーを見出す力。きっと自分はそういう感覚が好きなのだ。 この話を聞いていると、あのミス・マープルの切り出す話のことをふらふらと考えている自分がいることに気づく。個々の短篇は直接語られる形式を持っているけれど、それが徐々に一人のおばあさんの口から語られるように思えてくる、ということなのかも知れない。一つの小さな田舎町の中で起きた何気ない日常の話を聞いているような感覚が立ち上ってくる、ということなのだろう。そしてミス・マープルの語る何気ない話には実は大きな事件を解く小さな事件が隠されている。その小さな事件の香りがどの物語にも満ちていると思えるのである。 しかし大きな事件なしの小さな事件は、どこへも繋がってゆくところがない。小さな村の小さな事件はただただ一人のオールド・ミスの頭の事件簿にきちんと収められてゆくのみ。そのファイルを手にして、���て、自分は何を知りたいと思っていたのだろう、と、そんな訳も解らない疑問を抱いてみるのだ。
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