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著者 沢部 ひとみ (著)
百合子、ダスヴィダーニヤ 湯浅芳子の青春 (女性文庫)
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評価内訳
2010/03/05 00:22
投稿元:
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平林たい子による評伝『林芙美子・宮本百合子』を読んだあと、おしえてもらって、いそいそと借りてきた。単行本と文庫があり、「文庫あとがき」が見えたので文庫のほうを。湯浅芳子と宮本百合子の友愛の事情を、芳子の側から書いたもの。知人を介して湯浅芳子と知り合った沢部ひとみが、一月か二月ごとに昔話を尋ね、そのつきあいの中からうまれた本である。 沢部があとがきで「ケチで、わがままで、気分屋で、思ったことは歯に衣着せずにズバズバ言う。おいしいものはおいしい。まずいものはまずい。好きは好き。嫌いは嫌い。どこでもいつでもだれにでも、そうした態度は変わらない。」(p.342)と書いた湯浅芳子の、若き日々。百合子との出会い、百合子との生活、そして百合子との別れ。 亡くなる少し前、病院に訪ねたとき、湯浅の向かいのベッドのおばあさんが「淋しいよォ、淋しいよォ」としきりにくり返していた。沢部が「先生も淋しい?」と聞くと、湯浅芳子はこう言ったという。 「いや。孤独だけど淋しくはない」とはっきり答えた。そして「同じ魂の人間もいるし」とつけ加えた。(p.344) ロシア語の勉強を続け、翻訳の仕事を得ることもできるようになりつつあった芳子が、翻訳を一生の仕事にするには、現地で生活しながら勉強してこなければだめだ、と百合子との生活に未練はありつつ、ひとりでもソビエトへ行くと本気で決意する。 だが、離れるのは淋しい、時期をずらして百合子があとから来ればよいと言っていたところへ、印税で渡航費用の算段がつき、二人はいっしょにモスクワへ発つ。そのモスクワでの最初の半月ばかりは、大使館やBOKC(全ソ対外文化連絡協会)へのあいさつまわりや礼状書きに追われた。そうした中での、周囲に煙たがられがちな芳子と、人あたりの柔らかな百合子の態度の違いを、沢部はこう書きとめる。 ▼芳子は自分の感情のエネルギーをあくまで自分のために使う。その意味で徹底した利己主義者である。だが、それは強い自主性を美徳とする「男」には許されても、従順さや思いやりを美徳とする「女」には禁じられる。「女」は自らのエネルギーを他人のために使わなくては「いい女」になれない。そうした愛他主義によって初めて、「女」はこの社会にその存在を受け入れられる。百合子の男たちに対する愛想のよさと寛容さが、彼女を「愛すべき」存在としたのである。しかし百合子のその「美徳」が、女としてのプライドのなさであることに芳子が気づくとき、ふたりの衝突は避けられなかった。(p.245) 本の中には、芳子や百合子の日記や手紙が数多く紹介されていて、その青春のなまなましさは、時代がかわっても似たようなものやなと思った。芳子や百合子の時代に比べれば、女の「美徳」の範疇は多少はひろがったかもしれないが、そこにはまるべき望ましい枠としてはまだあって、ぎゅうぎゅうとした感じもあるような気がした。 百合子の小説も、芳子の本や翻訳も、読んでみたいなと思った。 口絵に百合子や芳子の写真がある。え?宮本百合子って、こんな顔?こんなに長生きしてないよな?と思って、あっちこっちのページをめくってみて見比べると、やはりそれは湯浅芳子の写真であった。(「*晩年の百合子。88年夏、軽井沢にて」という写真…文庫化のときに誰か気づかんかったのか。)
2011/10/27 14:55
女同士の友情・愛情…相克。 湯浅芳子は自分の感情に従うが、素直に表現できないことも多い。 中條百合子は自分の思想に従い、着実に進んでいく。 人と人との愛情よりも共産主義のほうが良かったのかなぁと思わなくもない。 セイへの手紙: …おたがいにたすけあってくらしたね。あの二階で、五円のおもちをついて、おとそのかわりに白酒をのんで、さけのかすづけかなんかでむかえたお正月はたのしかったね、らいねんはどんな正月をむかえることやら……ああ、ちくしょう、なみだがこぼれるじゃないか。 百合子への追悼文: …しかしなんとしてでも死顔を一目みたい、とは思いませんでした。生きたひとに逢いたかった。互いにもっと生きて逢いたかった。
2017/08/22 06:46
読むのにとても時間がかかりました。百合子と芳子、二人の文筆家が出会い、お互いに熱情をもって手紙を交換し、共に過ごした青春の一ページを切り取った本です。 男に食べさせてもらう事や男に性的なはけ口としてわれる事を嫌い、自らの収入で自ら生活し、お互い自立した関係でいることを望んだ二人の女性の生きた証でもあります。 ふたりがやり取りした手紙が随所にちりばめてあり、それを読むのが切なくなりました。 言葉遣いやら風俗、ものの考え方がが現代とは違うと言う事を考えながら読んだせいか、とても頭を使って読みました。 芳子の好きなものは好き、嫌いなものは嫌いとはっきり言う態度にすがすがしさを覚えたのですが、逆に無鉄砲さと危うさをも感じました。 自分がロシア文学に興味が無いので、ロシア文学がどのような背景でどうして書かれたのかとかが全く分からなかったのが残念です。
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