紙の本
♪ンコシ
2001/10/20 23:39
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投稿者:読ん太 - この投稿者のレビュー一覧を見る
心臓移植の研究でアフリカに留学した作田信という医師が、その地で見た黒人廃絶の為の極右組織による陰謀工作に立ち向かうというお話。文中では国名は出てこないが、アパルトヘイトが実施され黒人が家畜のように扱われている状況を示しており、これは間違いなく南アフリカ共和国を舞台にしたものであるというのがわかる。
南アフリカ共和国で制憲議会選挙が行われて、南ア史上初の黒人大統領(マンデラ氏)が誕生したのが1994年だが、本書では、黒人が選挙権をまだ与えられておらず、ホームランドと呼ばれる土地の痩せた狭い地区へと強制移住されている頃が背景に描かれている。アフリカーナーと呼ばれる白人達がのさばり、「名誉白人」という特権を享受した日本人がふんぞり返る。彼らの目には黒人は皆同じに映る。無理に分類してみれば、ゴミ、家畜、奴隷のいずれかに分けることができるかという程度。
本書では、撲滅宣言が成された天然痘ウィルスが、黒人廃絶のための秘密兵器として使われる。ミサイルだ何だと恐ろしい武器は数多くあるが、ウィルスが強力な武器になり得る可能性を示されて身の毛がよだつ思いがした。
いつもながらに読者の視線をグイと広げてくれる作品となっている。人間の本性を多面的に表現してくれており、スラムで働く黒人医師サミュエル、作田の恋人パメラ、靴みがきの少年オリバー、宿無しの黒人イスマイルなどの登場が負の部分を取り消しにしてホノボノとした読後感を与えてくれる。
白人対黒人のみを扱っており、黒人の部族間の対立については一切描かれていない。実際の南アフリカ共和国はこの本の中身ほど単純なものではないとは思う。しかし、この本には「すべてを奪われた人間でも<精神>は残るのである」ということが繰り返し書かれている。様々な状況において、我々が「何をすればいいのか?」あるいは「何をしたらいけないのか?」が自ずとわかってくる。
最後に、文中で作田が心臓移植手術について想いを巡らせる個所があり、これが私の頭から離れなかったので紹介させてもらいます。「…作田の頭には0.5+0.5=1.0という数式が思い浮かぶ。半分死にかけた人間が二人いるよりも、一方を確実な死に至らしめ、他方に十分な生を与えるのが心臓移植だ。数式はそれを何の感傷も加えず表していた…」
紙の本
深く心に刺さる一冊
2020/08/21 20:39
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投稿者:たごさく - この投稿者のレビュー一覧を見る
読み始めから終わりまで、まったく躊躇なく読み進むことができた一冊である。
場面進行のテンポの良さ、それとは対照的に重厚なストーリー展開、各セクションの登場人物の葛藤や思惑は読み手側を引き込む力を持っている。
本作の根底には人種差別、白人至上主義といった社会的テーマを扱っており、フィクションながら現実的視点に寄って立つ洞察の鋭さは読むものを圧倒するだろう。アフリカという地に焦点を当て、人種差別とウイルスという災禍に懸命に立ち向かう主人公とその仲間たちの奮闘やアフリカの地で必死に生き抜く人々の力強さは、非常に心打たれるものがある。
紙の本
おもしろい
2020/07/04 08:11
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投稿者:なー - この投稿者のレビュー一覧を見る
現実で起こっているのかと錯覚してしまうほど引き込まれる。とてもおもしろい。
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友達が「面白いよ」というので貸してもらったんだけど、面白くて一気に読んだ。
アパルトヘイトと、黒人を撲滅するために意図的に撒かれた天然痘を阻止するために日本人医師が黒人と共に戦うお話。勉強にもなるし、ミステリー性も持ち合わせている。
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舞台は明らかに書かれていないが、南アフリカのアパルトヘイトについて書かれていることは誰もがわかることだろう。それにしても人種差別の凄さは恐ろしい。同じ人間であることをどうして忘れてしまうのだろうか。信じられない〜っていう思いだが、誰しも心の奥底に持っているものだと思う。自分を含めて同胞が1番だという自負。今でこそ南アフリカは改善されてきたが、いつまたどこで始まるかわからない。それほど人種が混ざり合ってきているからだ。本書でも医師として人間として巨大な敵に立ち向かう日本人医師の姿勢が素晴らしい。正義や平和の真の意義を全ての人が持っていたら平和な世界になるのに。
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日本の青年医師が、人種差別が激烈だった時代の南アフリカの大学病院へ留学する。読みどころは、白人社会の中で生活しなければならないはずの主人公が、黒人社会の中で体験する人種差別との闘い。南アフリカの都市生活なども書かれていて、お勧めの小説。南アフリカの医学の発展などについても書かれているが、ここで紹介するのは問題がありそう。
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アパルトヘイト解放後もなお残る黒人差別をモチーフに描き上げられたサスペンス。フィクションとしてだけでなく、社会派小説としてもとても勉強になった。確かNHKで特番ドラマ(主人公は大沢たかお)になったはずなのだが、後編を見逃してしまった。再放送してくれないかなぁ。
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帚木蓬生が描く医療サスペンス。
アフリカの大地で絶滅した天然痘が流行し始めた。
そのアフリカで最先端の臓器移植を学ぶ日本人医師がとった行動は・・・。
今、世界各地でテロが起き、そして今恐れられているシナリオの一つが天然痘を使った生物テロ。
そんなテロの恐怖と人種間対立の醜さが存分に描かれています。
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絶滅したはずの天然痘を使って黒人社会を滅亡させようとする白人支配層に立ち向かう日本人医師の話。
スリル満点でおもしろいけど、白人による黒人差別の根本的問題には触れてないので、作品として終わってしまっているのが残念。
ただ、差別を受ける黒人たち・スラムの子どもたちのために自分の特権も何も捨てて献身する主人公の考え方・姿勢・価値観に考えさせられる点が多かった。
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これはNHKのドラマがやってるので読んでみたけど
人種差別もここまでくると地獄だよ
そこまで肌の色にこだわる精神はわかんないけど絶対、人種差別っていうものはどこの国にもあることだしのめり込めた
いや、この作品フィクションだけど
すっごい考えさせられた
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NHKでやっていたドラマの方はどうかと思うが、こっちの作品はやはり『さすが』の一言。
人種差別という日本人にはあまり馴染みの無いような(ここには個人的にもちょっと言いたい事もあるが・・・)テーマながら、それをしっかりと理解させる内容に出来ているのではないでしょうか?
そして、箒木蓬生お得意の医学関係がうまく使われている。
人種差別というテーマが無ければただのパニックアクションものにでもなりそうな内容ですが、そこを箒木蓬生の筆力でしっかりと押さえ込んでいます。
とりあえず、この続編の『アフリカの瞳』にも期待です。
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アメリカの防疫センターでの火災で、保管されていた20万トンの医薬品が焼失した。このことが事件の発端だった。
アフリカの大学病院に留学した作田信は、黒人のスラムに出入りしている。ある日、スラムの医師サミュエルの診療所に、全身に水泡が現れた黒人の子どもが診療にくる。その後も、多くの黒人の子どもに同じような症状が現れる。それは、WHOが1980年に絶滅を宣言したはずの天然痘だった。
NHKでドラマを見て、読んでみました。ドラマよりももっと暗かったですが、アフリカの現実がよく解りました。
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「閉鎖病棟」が有名な著者なのに、「閉鎖病棟」を読まずに、初めて帚木作品を読みました。
医療ミステリーにも分類してもいいような気がしたけど、敢えて、ミステリーとは別分類とさせていただきました。
アフリカのある国で、絶滅したはずの天然痘と闘う日本人医師を描いた作品。
差別社会、ウイルスとの闘い、人種を超えた人間のつながりetc・・・
いろんな難しい内容がてんこもりだけど、ほとんど抵抗もなく、最後まで一気読み。
もう少し、ハラハラドキドキがあってもいいような感じもしたけど、久々に読んで良かったと思える作品でした。
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「アフリカの蹄」の12年前のお話。シンやパメラの出会いや若き日々を知ることができた。天網恢恢疎として漏らさず、に尽きると思った。そこまで動かす、人種差別というものは何なのだろうか。感染してしまった小さな子供を抱きながら、何もできずに諦めて呆然としている母親…というのを思っただけで、胸どころではなくお腹まで深くえぐられるような、突き刺さった思いがした。
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小説の中での「この国」とは南アフリカのことでしょう。あえて国名は明記していない。
この国に心臓移植の外科医として留学した若き医師がアパルトヘイトに衝撃を受け、黒人たちと共に撤廃の活動をしていく様子を描いています。
アパルトヘイトとはどんなものなのか、知識だけの理解が恥ずかしい。その知識も現実感がない。若いときに、十代にこのような世界を見ておく必要性がありますね。