紙の本
日本人は「永遠の少年」?
2007/08/27 23:10
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:MtVictory - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本は母性社会だと著者はいう。これまで読んだ著書でもそういう分析を目にした。日本社会は母性原理に基づく倫理観が支配しているからだそうだ。母性の意味するところは母の膝の上にいる子供達の平等さと同じように、「場」の平衡状態の維持に高い価値を置く点にある。これを「場の倫理」と著者はいう。これに対抗するのが西洋の父性社会であり、「個の倫理」である。「場の倫理」の害として日本人は皆、場の中では我を殺してしまうため、皆が被害者意識をもつことになる点である。
もう一つ、日本人に対する面白い分析として「永遠の少年」型の社会であるというのがある。流行に敏感だが飽きっぽい国民性をまさに言い当てている。これらは第一章に書かれている。
第三章では自己と自我について論じているが、これがまた西洋人と日本人では異なるようである。自己と自我の定義も難しいが、西洋人は自我が確立しているのに対し、彼らから見れば日本人は自我が存在するのかも怪しいらしい。その曖昧さを「外に対して開かれた自我」と著者は表現する。我を殺し、他と調和することを重視する日本。聖徳太子の言った「和を以って貴しとなす」である。長い歴史の中で体に沁み込んで来たものであるから、いいとも悪いとも言えないのが本当のところだ。
日本人の自我構造を西洋人のものと比較した喩えとして興味深いのは、日本人は「襖による家屋構造」というもの。密室のようで密室ではない。完全に閉じておらず、襖を通じて互いを感じられる程度に開かれているのだ。しかしこれは和室の時代の話。西洋式になった現代日本の家屋は密室化が進んでいる。
第四章では浦島伝説やマザー・グースを心理学的に分析すると、どのように読めるかということが書かれている。浦島太郎の話は日本人なら誰でも知っている最もポピュラーな昔話だと思うが、昔から太宰治など色んな小説家たちがこれをテーマにした文学作品を作っているそうである。
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得意かと思っていたけど
2024/04/16 00:23
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投稿者:こっこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本人は海外の文化を吸収して自分たちなりに新しい文化をつくるのが得意かと思っていたけど、よい意味での個人主義は咀嚼しないままここまで来た感があると、本書を読んで思いました。50年近く前の著書ですが、大まかなところは今読んでも生きていると思います。場の論理などはなるほど確かにといったところです。本書を読んで周りを見渡すと実感します。一読の価値ありです。
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現代の日本人をユング心理学という角度から見るとどう見えるのか、という感じの本と言えばいいのでしょうか。
読んでみてもらうのが、一番早いような…(説明になってませんが)
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初めての河合隼雄です。予想以上によかったよ。納得の連続。特に、日本の社会が母性社会で、それが個人としての自我の確立をそがいしている、という教育にも関連する考察には、ふかーくなっとく。でも、後半はユング入門書って感じで、私はあんまり興味もてませんでした。
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母性原理と父性原理の違い。
能力主義と平等主義。
日本人の自我構造。
夜の意識とイメージ、、等々興味深かった。
個人的には、相手の母性原理から来ることで、
あたしを責めているようなことがあっても、
気にしなくていいってことがわかった。
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単行本化された、雑誌等に寄稿した作品の集まり。
ユング心理学研究所や、日本が母性社会として父性がなくなっていることなどを述べている。日本や人間関係を読み解くにはよいかもしれない。
いわゆる日本人論ブームの1つに数えられる本である。
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「第一章 日本人の精神病理」が分かりやすく勉強になりました。
第二章以降の「ユングと出会う」、「日本人の深層心理」、「物語は何を語りかけるのか」は、いずれも深層心理を扱ったもので面白いし言っていることはわかるのですが、私にとっては書いてあることをそのまま受け取るしかなくという状況でした。河合隼雄をさらに何冊か読んでいけば「そういうことだったのか」と得心していくような気がしています。
★★★
それで、私にも分かった(ような気がした)第一章にどんなことが書かれているかというと、
母性の原理は「包含する」機能によって示される。そこにはすべてのものを良きにつけ悪しきにつけ包み込んでしまい、そこではすべてのものが絶対的な平等性をもつ。「わが子であるかぎり」すべて平等に可愛いのであり、それは子どもの個性や能力とは関係のないことである。
しかしながら、母親は子どもが勝手に母の膝下を離れることを許さない。それは子どもの危険を守るためでもあるし、母-子一体という根本原理の破壊を許さぬためといってもよい。このようなとき、時に動物の母親が実際にすることがあるが、母は子どもを呑みこんでしまうのである。
かくて、母性原理はその工程的な面においては、生み育てるものであり、否定的には、呑みこみ、しがみつきして、死に至らしめる面をもっている。
です。そしてタイトルどおり日本の病理はこの母性で全て説明が付くというわけです。
例えば日本には「場」というものがあるのですが、
わが国においては、場に属するか否かがすべてについて決定的な要因となるのである。場の中に「いれてもらっている」かぎり、善悪の判断を越えてまで救済の手が差しのべられるが、場の外にいるものは「赤の他人」であり、それに対しては何をしても構わないのである。
というドキッとすることにつながるというのです。
場については、もう一つ面白いことが書かれています。それは、
このためまことに奇妙なことであるが、日本では全員が被害者意識に苦しむことになる。下位のものは上位のものの権力による被害を嘆き、上位のものは、下位の若者たちの自己中心性を嘆き、ともに被害者意識を強くするが、実のところでは、日本ではすべてのものが場の力の被害者なのである。
この非個性的な場が加害者であることに気がつかず、お互いが誰かを加害者に見たてようと押しつけあいを演じているのが現代であるといえよう。
そして続けて、
場の構造を権力構造としてとらえた人は、それに反逆するために、その集団を抜けだして新しい集団をつくる。彼らの主観に従えば、それは反権力、あるいは自由を求める集団である。ところが既述のような認識に立っていないため、彼らの集団もまた日本的な場をつくることになる。そして、既存の集団に対抗する必要上、その集団の凝集性を高めねばならなくなるので、その「場」の圧力は既存の集団より協力にならざるを得ない。
母性原理を理解すると色々なことが腑に落ちますね。
★★★
日本の母���に対して西洋は父性というわけですが、父性とはどういうことでしょうか。筆者はこんなふうに書いています。
母なるものの力は「包含する」力であり、すべてのものを良きにつけ悪しきにつけ包みこむ。これに対して、父なるものは「切る」力をもっている。これは、ものごとを上と下に、善と悪に、物質と精神に、などと分けて考える。
……略
キリスト教は父性の宗教である。仏教や道教などが母性の宗教であるのに対して、キリスト教やユダヤ教は父性の宗教であるといわれる。
……略
これに対して父なるものの宗教は、父なる神の規範に従うか従わないかが決定的なこととなる。父との契約を守る選民のみが救済の対象となるのである。そこでは、神と人、善と悪などが判然と区別される。
日本的なものの見方と、西洋的なものの見方の違いについて理解が深まったように思いました。
そして、このような自我の違いについて理解しておかないと国際社会では、攻撃に対して憤りを感じたり、逆に無視されたように誤解したりするのでしょう。 これから国際社会で活躍する人は読んでおいた方が良いと思います。
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「こころの処方箋」の著者である河合隼雄さんのユング心理学をベースとした評論本.連載モノを文庫化したもの.
注意として,本書は新書ではよくあるような「どうすべき」ということを明確に示すようなものではない.しかし "対人恐怖" でなくとも,日本人が日本社会で少なからず感じていそうなことを指摘し,どのようなことが心のなかで起こっているかについて分析しているという意味で意義深いと考える.
第一章「日本人の精神病理」では,日本社会の母性原理について主に述べられており,日本独特の「場の倫理」という観点が興味深い.また,ユング心理学で重要な「グレートマザー」が守るだけでなく飲み込んでしまうような母性を反映したある種無意識下の普遍的な存在として紹介されている.
第二章ではユング心理学や夢分析について紹介されており,夢における自身の「無意識」との関連性について述べられている.
確かに日本人の自我が西洋におけるそれとは異質,ないしは西洋から見ると"無い"ように見えるのだが,必ずしも欧米と同じような自我の獲得が良いということを表明しているのではない.第三章ではこのような日本的(東洋的)な"意識"とはどのようなものかを説明しており,心の中心としての"自己"の概念について述べていた.
全体にわたって様々な症例における"相関性"や"グレートマザーの存在",またはグレートマザーから抜け出し自我を獲得するといった内容が様々な形で述べられているので,若干食傷の感はあるが,日本および西洋における意識・無意識,父性・母性,自我・自己などについて統一的な見解を得られる点は「こころの処方箋」を読んだ感じとやはり似通っていると感じた.
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表題どおりの「母性社会日本」をめぐる第一章は現在でも通用する議論でなかなかおもしろくあったのだが、その後がいかんせん。方々に書いたエッセイを集めたというから繰り返しも多く統一性に欠ける。文字数の制限を理由に論が深まらぬところもあって、「ココんとこもっと」とおねだりしたい箇所も多く痒いところに手が届かない。
父性原理の特徴は「切断」にある。極端ではあるが良い子は我が子で悪い子はよその子という風に。キリスト教というのはまさにこういう考え。
母性原理としてユングは三つあげている。すなわち「慈しみ育てる」「狂宴的な情動性」「暗黒の深さ」。
日本では母性の「慈しみ育てる」面だけを称揚し、「暗黒の深さ」という一面にフォーカスをあてることが少なかったのではないか筆者は考える。「暗黒の深さ」というのは「呑みこみ、しがみつきして、死に到らしめる」という言葉で表されている。
母性原理が顕著にあらわれているのが日本の学校だ。
誰もが平等に扱われるため、欧米のような飛び級や留年は存在しない。
この本が書かれた90年代から、さらにその傾向は増しているようにも思える。(学芸会の演劇で女の子はみんなお姫様役とか)
ただし留年したからといってそれが即コンプレックスになるわけではないという。むしろ欧米のような個人主義では、勉強ができないなら諦めて他の道を探すというように、「人それぞれ能力の差異があるのは当たり前」を前提に考える国々では能力が劣ることも個性のひとつとして考えることができる。
しかし平等という考えを前提にすると、「平等であるはずなのに自分は何故皆と同じようにできないのか」と考え悩むという。
――ひとつの文化がひとつの原理のみで成立するはずがなく、何らかの方法で対立原理をそのなかに取り入れ補償をはかっている。わが国の場合は、母性原理に基づく文化を、父権の確立という社会的構造によって補償し、その平衡性を保ってきたと思われる。
父権制度や総理大臣が今もって男であるのは、女性の代理としての機能を果たすのであって実際に権力を握っているのは女性であった。GHQはそれを男尊女卑と見てこの解体を急いだことで今の家庭の混乱がある、と。
――西洋における個の倫理が言語による契約によって行われるのに対して、場の倫理は非言語的な羞恥の感情機能に支えられているのである。われわれ日本人は子供のときから、この羞恥の感情に基づく自己規制の方法を学習させられている。
欧米は「個の倫理」、日本は「場の倫理」と言われる。
「場の倫理」ではとにかく何を置いても場の内側にいることが求められる。内側にいさえすれば、その人の人柄や人格など多少の問題は看過され、場を共有する人間は彼の人に対して責任を負う。
しかし場の外にいる人間に対しては何ら責任を負わなくていい、極端にいえば何をしたってかまわない……そういった酷薄な面を持つ。
しかし……読めば読むほど、自分は本当に日本人なのかと考えざるを得ないのであった。
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心理療法をしていて、最近とみに心理的な少年、心理的な老人がふえてきた、と著者はいう。本書は、対人恐怖症や登校拒否症がなぜ急増しているのか、中年クライシスに直面したときどうすればいいのか等、日本人に起こりがちな心の問題を説きながら、これからの日本人の生き方を探る格好の一冊。「大人の精神」に成熟できない日本人の精神病理がくっきり映しだされる。
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父性社会の物事を「切断する」ことと違い、母性社会は全てを「包含する」。西洋は父性社会であり、日本は母性社会である。それで日本の社会現象を説明できる。もちろんどの社会にも父性と母性の両方は存在するが、どちらが優位を持った社会であるかで違いがでる。「個」の倫理と「場」の倫理。「場」から疎外される孤独か。なるほどな〜と思える。またフロイトと違ったユングの夢分析の話も、興味深い。
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河合さんの講演集。
中年の危機の話だけでは本にならないので、他の話を付け足して本を厚くした感じ。
初本の中央公論社のを読みました。
この本で働き盛りの中年の男性に「中年の危機」という概念を知ってほしいです。
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全ての子どもを愛する絶対平等観の母性原理。
切り離す、序列をつける父性原理。
母性原理的な社会の代表例はインド。階級が始めから「与えられたもの」として存在する社会。たとえ、下層のカーストにある人でも「与えられた」ところに一生留まるものとして、競争に破れたという惨めさを味わうことはない。これに対して、父性原理に基づくのは欧米社会。上昇は許すが、能力差、個人差を前提としており、各人は自分の能力の程度を知り、自らの責任においてその地位を獲得していかなければならない厳しい社会。
では日本社会は...?
読めば、なるほどと膝を打つはずです。
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河合隼雄を初めて読む人には向かない。他の著書を読んでいると理解が易しくなる。
日本の母性原理に基づく社会の問題点はよく理解できた。
「場の倫理」が重視される日本において、場から排除されることが死を意味する。
4月から新社会人となる私は、場の倫理の平衡を保つために上司の顔を伺い、これから数十年に渡って働く他ないのかと思うと、少し憂鬱な気持ちになった。
しかし、こうした構造を理解しているだけでもこの先確実に起こるであろう理不尽を一旦腹の中に収めることの助けとなる気がした。
第4章の物語についての後半は良く分からなかった。
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1970年代に書かれた本らしく、文体が硬め。参考文献が多数引用された論文だった。
日本が西洋に比べ、父性原理が弱くイニシエーションを経て大人にならない、といった論説は現代に対してもとても説得力があった。それに対して、だから日本はけしからんとか、日本は素晴らしいんだ、みたいな、両極端に振れることなく、西洋は西洋で母性原理が弱い問題もある、日本も西洋も第三の道を探る必要があると繋げていたのが良かった。