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商品説明
【Bunkamuraドゥマゴ文学賞(第8回)】昭和天皇崩御の京都の街中で、偶然、画面に収められた一人の伝説の老人。しかし、私の目は、老人の側に寄り添う美しい女にくぎ付けになった。この女こそ、父が死の間際まで恋焦がれていたあの愛しい人だったのだ。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
矢作 俊彦
- 略歴
- 〈矢作俊彦〉1950年横浜市生まれ。小説家。デビュー作は「マイク・ハマーへ伝言」。他に「ブロードウェイの自転車」「暗闇にノーサイド」など多数。
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紙の本
あ・じゃ・ぱ!ん
2000/10/27 22:26
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投稿者:螺旋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦後日本と日本人の本質を、思いがけない角度から驚くべき大胆さと鋭さで、笑いとともに浮かび上がらせた「あ・じゃぱ!ん」の、何たるしたたかさだろうか。
大戦末期、沖縄には米軍が、北海道にはソ連軍が上陸。かくして直江津から沼津に至る、東経139度線を境に分断された日本人民、東西対立の50年。という架空戦記かパラレルワールド。昭和天皇崩御の首都「大阪」でCNN特派員の<私>が見た、極東日本の「昨日、今日、明日」というキワモノ、ゲテモノ、顰蹙もの世紀末。
東西に分断された戦後日本には、三島由起夫に田中角栄。実在、架空の人物怪しく陰微に入り乱れての、出鱈目、滅茶苦茶、支離滅裂。
古今東西、文学、映画の名場面、しこたま放り込んで練り上げた、ルイス・キャロルにジェイムズ・ジョイス、メルビル、ヴァネガット、チャンドラー。祝十郎、武蔵にボンドに李香蘭。ローマの休日、ピーターパンに黒死館のエトセトラ,etc。数え上げてもきりがない。元ネタ不明も限りない。警句炸裂、ギャグ満載。パロディーの百花繚乱。箴言爆発、コメディー全開。起承転結の豪華絢爛。
しかし、この滅茶苦茶には美しい秩序が、出鱈目には確かな根拠がある。右も左も上も下も、あらゆる権威、欺瞞、恥ずべき行い俎上にのせ、すっきりきっちり三枚に下ろしてみせる。当然「ハードボイルド」も、矢作その人さえ、パロディーの刃先から逃れることはできない。この潔さ、この公平さ、何と清清しいことだろう。
「しっかりしていなかったら生きて行かれない、優しくなれなかったら云々」
もはや、手あかにまみれで、死に瀕した台詞だが、今の矢作なら、これを再生するぐらい朝飯前。曰く
「失礼でないとはじめられない。上手でないと終わる資格がない」
ウウッ!何たる不敬。何たる冒とく。しかし、唖然とする他ない程の真理でもある。
スペクターの秘密基地が、いつしか厳流島の決闘、になったと思いきや、次には一瞬にして「モビーディック」に転ずるといった、華麗にしてアクロバティックな筆さばき、包丁さばきを見る楽しさは勿論なのだが、在るべきものを、しかるべき本来の在り処に位置付けようとする、矢作一流の鋭角的な美意識、ハードボイルド魂が、精魂込めて紡ぎ出した優れた文学作品であり。現代社会を丸ごと描いた全体小説としても、その志しの高さ、面白さは只事ではない。
気鋭のハードボイルド作家としてデビュー以来30年。「スズキさん」で開花させたコメディーセンスと、「新日本百景」連載で鍛えた文明批評の眼力とをもって、嘘八百を、「あ・じゃぱ!ん」という名の新たな真実として結実せしめたのだ。
ハ−ドボイルドスピリッツをバ−ジョンアップさせ続ける矢作の真骨頂、面目躍如の堂々たる傑作なのだ。