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紙の本
浦和レッズを初タイトルに導いた後で退任を表明した男の原点がここにある。
2003/11/08 00:51
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投稿者:aguni - この投稿者のレビュー一覧を見る
ハンス・オフト。あなたはこの男をご存知だろうか。トルシエなら知っているだろう。ジーコはもちろん。しかし、ラモス、カズ、北澤、柱谷らを率い、日本サッカーを初めてワールドカップの舞台に連れて行ったこの男の功績を、最近のサッカーファンはおそらく知らない。
この本の副題は「勝つための人材と組織をどう作るか」とある。数あるスポーツの中でサッカーがとくにその戦略という切り口から面白がられているのは、45分/45分の試合の中で、監督やコーチの役割が、そして最初の布陣を敷き、各選手に指示を出すことと、後はただ、選手を交代させることぐらいしかないところにある。そしてまた、選手達もポジションはあるにはあるが、キーパー以外はほぼ自由にフィールド内を動けると言ってもよく、プレイヤーの自由度が高い。自由度は高いが、当然、あまりに自由にするとリスクも高まる。バランスやコントロールといったものが勝敗を分ける大きな要素になる。
従ってサッカーの話は経営という観点から、組織論や人材開発の場面でよく例に出される。オフトのやり方は明確な理論の元に形成されており、ゆえに監督自身も選手達も自信を持って「プログラム」に賛同できる。うがった読み方かもしれないが、だからこそかえって、サッカーに「夢」や「希望」を求めるファンやオーナーからは不評なんだということがこの本を読んでよくわかった。言ってみれば、オフトのやり方は「地味」なのだ。
オフトは元コーチングを初め、さまざまな理論を学び、それを実践して成功している。ちょうど先週、ナビスコカップで浦和レッズが優勝した。オフトが就任して2年目。浦和レッズにとっては初のタイトルだった。しかし、直後、オフトはクラブトップとの方針の違いを述べ、今期限りでの引退を表明する。今回の勝利が達成される前に既に、後任探しが始まっていたという。あまりに理論的に偏りがちなオフトのサッカーは、レッズのトップにとっては絵に描いた餅、現実離れしたものに見えたのだろう。オフトにしてみれば結果が出たこのときこそ、自らの正しさを証明する機会であり、辞任発表のタイミングとして最適、と判断したのだろう。
この本を読むと、いかにオフトが理論に基づいて冷静に選手達を勝利に導いていったのか、その手腕がよくわかる。しかし日本という国では会社を含めどんな組織でも、理論では現場は動いても、上司の理解は得られないものだ。それよりも「人間性」とか「熱意」とかいったもので人を判断するようだ。日本研究を重ねてチーム作りには応用できたオフト監督も、まさかビジネスの場である会社組織に対しても同じように配慮しなければならないなど、思いもしなかったもかもしれない。そんなことをこの本を読んで考えた。
うがった読み方をすれば、日本の組織運営の難しさについて考えさせられる一冊である。しかし、一般的な読み方をすれば、とりあえずオフトのファンになるに違いない。ありがとう、オフト監督!