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紙の本
沖縄絵本 (平凡社ライブラリー)
著者 戸井 昌造 (著)
沖縄の本島から諸島をくまなく巡り、その歴史、風土、土着の思想をエッセイとイラストで綴った沖縄案内。代表的な島歌を収録したCD付き。晶文社1989年刊の再刊。【「TRC M...
沖縄絵本 (平凡社ライブラリー)
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商品説明
沖縄の本島から諸島をくまなく巡り、その歴史、風土、土着の思想をエッセイとイラストで綴った沖縄案内。代表的な島歌を収録したCD付き。晶文社1989年刊の再刊。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
戸井 昌造
- 略歴
- 〈戸井昌造〉1923〜2000年。兵庫県生まれ。43年、学徒兵として入営。敗戦後、捕虜生活を経て復員。早稲田大学中退後、劇団プークなどを経て、画家として活躍。著書に「秩父」ほか。
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紙の本
ウチナーの心を持つヤマトンチューの絵かき
2000/09/19 21:15
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:越川芳明 - この投稿者のレビュー一覧を見る
戸井さんはヤマトンチューの絵かきです。これは戸井さんの短い文章と白黒の絵からなる、オキナワ——というより、文化圏という意味をこめて「琉球」といったほうがいいかしら——についての素晴らしい本です。うれしいことに、嘉手苅林昌の「なーくに—」をはじめとする島唄のミニCDのおまけまでついています。
戸井さんはオキナワ本島だけでなく、南の果ての島パティローマ(波照間)——『ナビイの恋』でヒットを飛ばした中江祐司監督の処女作、『パイパティローマ』を思い出しますね——をはじめとして、いくつもの離島を訪れて、心にひっかかった戸井さんなりのオキナワをスケッチしています。戸井さんのオキナワは必ずしも観光客が美しいと思ったり、訪れたりする場所とはかぎりません。沖縄の匂い、三線の音がする路地だったり、本島のうらびれた廃屋(これが廃屋でなくて、ちゃんと人が住んでいた、という失敗談もありますけど)だったり、元気印のおばあたちが活躍する市場だったり、観光スポットからちょっとだけわきにそれた御嶽(うたき)や拝所(うがんじょ)だったり、いまもなお戦争の傷痕を残す洞窟や戦争を忘れぬための墓碑だったりします。
戸井さんはどちらかというと、暗い想像力の持ち主で、死者の世界からかれのオキナワを見つけ出そうとします。
かつては、ご本人もウチナーのいうところの「天皇の軍隊」の一兵士でしたが、「もしあの犠牲がなくて、もう二、三ヵ月“終戦”が遅れていたら、間違いなく私は中国湖南省の名も知らぬ山の洞窟陣地の中でムクロとなっていたはずです」と、「あとがき」で書いています。自分がいま生き延びていられるのは「沖縄と原爆の犠牲」となった人たちのおかげだ、と思っています。この本の根底には、そうした犠牲者たちへ贖罪の念と、ご自身が体験した愚劣な戦争への反省と怨念が流れているような気がします。それが戸井さんのオキナワなのです。たとえば、こんなぐあいです。
「はじめて那覇農連市場の朝市を見に行ったときでした。連れの観光レディたちは、見るもの聞くものすべてめずらしく、ひとつひとつ「これなに?どういう風にして食べるの?」とたずねてまわったものです。
売る方としては、観光みやげ屋じゃあるまいし、迷惑なはなしで、ご所望のゴーヤ(にがうり)かなんかサッサと紙に包んで「ハイ、奥さま」と差しだしました。そのとき、そのおばさんの目がキラリと光ったのを私は見逃しませんでした。目の奥に沖縄の人の怨念が生きているように見えたのです。この目を描きたいと、そのと
き思いました」(「市場にて1 農連市場」)
市場でさえ、戸井さんの絵かきとしての想像力はウチナーの怨念を幻視してしまうのですから、いまなお戦争の影が残る洞窟や、本島で幅をきかせているUSAの軍事基地を前にして、ウチナーの目にきらりと光る怒りを見逃すはずはありません。それどころか、たとえば皇太子(現天皇明仁)がたった一度だけ訪れたときに作られ、その後は無用の長物と化している伊江島の航空滑走路などにたいしてはウチナー以上の怒りようです。
もちろん、この本にかかれているのは怒りばかりではありません。旅の途中の道ぞいに見つけたかわいいアイスクリン屋さんの話とか、スケッチをしているときに話しかけてきた女子中学生たちにおごってあげる話とか、そこから窺えるのは、戸井さんの本質的なやさしさなのです。ウチナーの心を持つこんなすてきなヤマトンチューの老人はそうざらにはいないよな、とぼくは思いながら、天国に召される前にこんなすてきなウチナーの本を作ってくれた戸井さんに素直に感謝しました。 (bk1ブックナビゲーター:越川芳明/明治大学教授 2000.09.20)