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著者 金子みすゞ 著
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評価内訳
2020/08/11 20:15
投稿元:
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●本書について 大正時代から昭和初めのほんの短い時間を、ちいさな流れ星の様にまたたいて消えた夭折の童謡詩人、金子みすゞの殆どの作品(五百編余)が収録された全集本である。 金子みすゞは、生前、「青い山脈」「東京音頭」「蘇州夜曲」等で有名な西條八十などから高い評価を受けていたにもかかわらず、死後その名が広く知られることはなかった。 それから約五十年もの時を経て、彼女の作品は児童文学作家・童謡詩人である矢崎節夫氏の努力により掘り起こされ、1984年に本書が編まれた。本書が金子みすゞを広く一般に知らしめる契機となったのである。 現在CM等、様々なメディアで彼女の作品が使われるようになったのは周知の事であろうし、また彼女の人生を舞台にした映画などの映像作品も複数作られるようにまでになった。生まれ故郷である山口県大津郡仙崎村(現:長門市仙崎)には、彼女を顕彰する金子みすゞ記念館も建てられている。 本全集の底本となっているものは、みすゞが遺した3冊の手帳である。それぞれ、 第Ⅰ集「美しい町」 第Ⅱ集「空のかあさま」 第Ⅲ集「さみしい王女」 とタイトルをつけ、三巻本としたものである。これに、前述のみすゞ発掘者矢崎氏による、研究資料「金子みすゞノート」が付属され1セットとなったものが本書「新装版金子みすゞ全集」である。 ・・・・・・ ●みすゞとの出会い 私が金子みすゞを明確に意識したのは、2008年に岡山市デジタルミュージアム(現:岡山シティミュージアム)で開催された、 「風の画家 中島潔の世界展-源氏物語五十四帖から詩人・金子みすゞまで-」 である。 当初の目当ては中島氏の絵であった。そして、彼の絵で一番のインパクトを受けたのが、「大漁2001」であった。目の白くなった大量の鰮の群れの中に一人少女が佇む構図にはじめは絵のみで充分圧倒されていたが、傍らに添えられたみすゞの詩を読んだときに、更なる衝撃を受けた。大漁(たいれう)を祝うお祭り騒ぎのなか、この絵のなかの少女は、大漁の鰯を「大量の命の死」として感じ、悲しんでいたのだ。この詩無くしてこの絵は無いのだ。 別の人目当てで訪れた場所で、名前は知っている程度の者に、思わぬところでいきなり胸ぐらをつかまれて往復ビンタを食らったかのごとき金子みすゞとの出会いであった。 以来、少しずつではあるが、みすゞ関連の書籍を集めたり彼女の半生を描いた映画を観たり、仙崎に訪れるようになるくらいのファンになったのであった。 ●所感 本書は前述したとおり、みすゞの(殆ど)の作品が収められている作品集である。その後の研究やここでは言及するつもりのない諸事情で(殆ど)と付記しているが、金子みすゞの作品世界の全体像を把握するには充分な書物であることは間違いないだろう。当然「大漁」(第Ⅰ集 p101)も、CMで有名になった「こだまでせうか」(第Ⅲ集 p237)も収録されている。 3巻を通読してまず思ったのは、みすゞの作品世界の重要な要素として、 『子供の冷徹な視線』 というものがあるように思われる。子供の世界は大人・社会の��理によって容易に破壊される。子供は大人が思うより早くにそのことに気付いており、しばしば訪れる 『「自分の世界が破壊される様」を傍観するしかない自分』 というものを構築している。それでも子供ゆえに摩滅していない『空想力』と『冷徹な視線』が、 「こほろぎの/脚が片つぽ/もげてます」(第Ⅰ集 p55 「こほろぎ」) 「鰮のとむらひ/するだらう」(第Ⅰ集 p101 「大漁」) 「金魚屋の荷のなかにゐた、/むかしの、むかしの、友だちを。」(第Ⅱ集 p160 「金魚のお墓」) という眼差しを生むのだ。 これらの作品を送り出した時のみすゞは既に成人しているが、これらの眼差しが失われないような生き方をおそらくみすゞは選択してきたのであろう。(興味のある方はWikiなどで彼女の生涯を読んでみて欲しい) そして、これらの作品は、今、五十も近くなろうとしている中年の私の、もう完全に失ってしまったと思っていた子供時代の感性のわずかな残り滓に触れてくるのだ。 本書は全三集通じて、こういった「どうしようもない事に対しての『かなしみ』」を自然の事物や動物に仮託して表した作品が多いように思われる。巷間で有名な「こだまでせうか」に代表されるようなかわいらしい詩も多くあるが、個人的には前述した『冷徹な視線』を湛えた作品が金子みすゞの白眉であると考える。 ●印象深かった作品リスト(タイトルのみ) 最後に、本書を通読して私の印象に強く残った作品を30編ほど列記する。 前述の諸事情で、作品そのものは記さないが興味を持たれた方は、正規のルートで是非読んでいただきたい。 第Ⅰ集_p5_「お魚」 第Ⅰ集_p27_「雀のかあさん」 第Ⅰ集_p55_「こほろぎ」 第Ⅰ集_p56_「なまけ時計」 第Ⅰ集_p59_「草原」 第Ⅰ集_p63_「七夕の笹」 第Ⅰ集_p68_「鬼味噌」 第Ⅰ集_p108_「私のお里」 第Ⅰ集_p123_「松かさ」 第Ⅰ集_p234_「夕立征伐」 第Ⅱ集_p129_「露」 第Ⅱ集_p160_「金魚のお墓」 第Ⅱ集_p176_「さびしいとき」 第Ⅱ集_p194_「日永」 第Ⅱ集_p200_「光の籠」 第Ⅱ集_p222_「雀の墓」 第Ⅱ集_p232_「つばめ」 第Ⅱ集_p260_「聲」 第Ⅱ集_p279_「御本」 第Ⅲ集_p3_「雀」 第Ⅲ集_p10_「人形の木」 第Ⅲ集_p51_「曼珠沙華(ひがんばな)」 第Ⅲ集_p95_「硝子と文字」 第Ⅲ集_p138_「こころ」 第Ⅲ集_p144_「けがした指」 第Ⅲ集_p145_「私と小鳥と鈴と」 第Ⅲ集_p155_「柘榴の葉と蟻」 第Ⅲ集_p203_「雪に」 第Ⅲ集_p221_「鯨法會」 第Ⅲ集_p280_「巻末手記」 ●参考文献 金子みすゞ・矢崎節夫・与田準一:『新装版 金子みすゞ全集』:JULA出版局:1984
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