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商品説明
【日本推理作家協会賞(第54回)】【星雲賞日本長編部門(第32回)】地球の衛星軌道上に浮かぶ巨大博物館「アフロディーテ」。そこには、全世界のありとあらゆる美術品、動植物が収められている。その中で学芸員の田代孝弘は、芸術に関わる人々の思いに触れていく…。美をめぐる9つの物語。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
天上の調べ聞きうる者 | 5−38 | |
---|---|---|
この子はだあれ | 39−76 | |
夏衣の雪 | 77−113 |
著者紹介
菅 浩江
- 略歴
- 〈菅浩江〉1963年京都市生まれ。府立桂高校卒業。高校在学中SF誌でデビュー。「メルサスの少年」「そばかすのフィギュア」で星雲賞を受賞。
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紙の本
心をのぞく鏡
2002/12/03 18:35
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ヒヨちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
美しい本だと思った。装丁も美しく、1ページ1ページにつづられている物語が美しい。人は物語を読みながら、その中のどこかで自分自身を読み、物語とその人だけの世界を生み出してゆく。この「永遠の森」という物語は、少し悲しく、少し切ない。それは日常の人間の生が、少し悲しくて切ないからだ。それは本人にはかけがえのない宝物が、ほかの人にはただのガラクタにしか見えず、そのようにしか扱ってもらえなかったときの悲しみに似ている気がする。しかし人は、そんな小さな物を大切に胸にしまって生きてゆく。この短編集につづられている人々の宝物は、この物語を読んだ人々の何を映し出すのだろうか。それを拾い集めたら、星屑のかけらを撒いた夜空のようになるのではないだろうか。そして、その中空には、女神の名を冠した博物館惑星が浮かんでいるのだ。
紙の本
幸せな気分になれるSF
2002/11/06 13:53
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:しょいかごねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
そう、いろいろと嫌なことが多い今の世の中、どこか遠い空の上で、きれいなものだけに囲まれて暮らしたいなあ、なんて、これはまさにそういう願望を絵にしたような話です。舞台は世の中のあらゆる芸術品や動植物を集めた人工惑星。まあ、現場で働いている人は大変みたいですけど。こういう舞台を作るためにはSFという手法を用いるのが一番ふさわしいのでしょう。いかにもSFらしくない「芸術」というテーマを、SFに載せてしまったこと、が本書の特徴と言えると思うのですが、そんな無粋な表現がばかばかしくなるほど、両者は美しく融和しています。
短編の連作で、どれもとても素敵で読後感のいい作品ばかり。一気に読んでしまわずに、一作ずつ読んで、しばらく余韻を楽しんで、ゆっくり次の作品に進みたくなる、そんな本です。どれも良かったけれど最後の作品は特に圧巻。海、花、光、音、そして「ラヴ・ソング」、思い描くだけで幸せな気分になれる、贅沢なエンディングです。
そう、だから、世の中には厳しい現実を見せつけるようなノンフィクションだの、人間の嫌な部分を曝け出すような私小説だの、いろんな本があふれているけれど、時には何かやさしく美しいことばっかりが書いてある、そんな幸せな本が読みたいなあ、なんて。この本はまさにそういう本です。
紙の本
美しいと思う心ってなんだと思う?
2002/03/11 18:07
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:sayu - この投稿者のレビュー一覧を見る
折りに触れて思い出し、噛み締め、撫で、心の中で抱き締めてキュッと丸い真珠になっていくだろうと思う本に、たまに、出会う。この本はそんな本だ。
あらすじの詳細は他稿に譲るが、「美」というより「美しいと思う心」とは“なんなの”かが、博物館惑星〈アフロディーテ〉を舞台に9つの短編の中に描かれる。私はこの先も「美しい」と思う何かに出会ったとき(実は私の美的センスは標準とかなりズレてるらしいのだが、それもまた良し)、この本を何度も何度も思い出すだろう。
紙の本
今までにない発想の美しいSF短編集
2001/03/31 23:24
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひで - この投稿者のレビュー一覧を見る
一時期沈滞ムードを醸し出していた日本のSF界だったが、ここに来て有力な新人が登場するなど、再びブームとなりそうな予感がある。本作の著者、菅浩江氏はその中にあって、新しいSFを創り上げるそんな力を持った作家といってもいい。本作は、93年から98年に発表されたシリーズ短編をまとめたものである。今年の「SFが読みたい!」(早川書房)で国内編第1位に選ばれ、様々なサイト上でも高い評価を受けている。本作は、一つのシリーズとして楽しむのはもちろん、それぞれの短編一つひとつを味わいたい作品である。
衛星軌道上に浮かぶ博物館、アフロディーテ。そこでは美の追求のため、記憶の女神と名付けられたデータベースコンピュータと直接接続された研究員が働いていた。3部門に分けられたこの中で、部門の調停にあたるアポロンの担当者田代。本作はそんな彼を中心に構築された9編の短編集である。
「天井の調べ聞きうる者」では、脳神経科の患者を惹きつけ、音楽を聴かせることの出来るという絵画の美術的価値を探り、「この子だあれ」では持ち込まれた人形の鑑定を巡り、「夏衣の雪」では笛方の家元襲名披露をめぐるお家騒動を、「享ける形の手」ではかつて世界に旋風を巻き起こしたダンサーを巡る物語を描く。そして本作に一貫して流れ、その中軸を担うピアノとその演奏家を巡る物語は「ラヴ・ソング」で完結し、これを田代とその妻、後輩といった様々な人間関係の総括とも見ることが出来る作品である。
SFとは世界を定義する文学である。自らの世界観を作中に完全に反映することが出来るのは、確かにこのジャンルを置いて他にはない。だが、それが現実から遊離し、荒唐無稽であるというのではない。確かに構築された世界は現実とは違うが、その世界に生きる人間は、やはり我々の世界と同様の心を持っているのである。だからこそ読者はその世界に自分を投影し、作中世界を楽しむことが出来る。
本作には、世界の美を集めた宇宙ステーションと、思ったことをそのまま検索できる直接接続という新しい設定が見所である。特に前者の博物館惑星という存在そのものの魅力は絶対的である。フランスのルーブル美術館やイギリスの大英博物館など、地球上にもこういった試みを行おうとする試みはあるのかも知れない。だが、それを超え、宇宙という人類の夢である地に、美のみのために構築された存在を創り上げる発想は、今のところ聞こえてこない。
宇宙で戦争があったり、宇宙上で生活するといった設定はSFの基本かも知れない。だが本作のようにそういった部分からは完全に離れたところに宇宙の意味を持ってくるところにこの作品の根幹があり、氏の世界観の魅力がある。この作品は今後も継続して連載されていくようである。今後も目を離せないシリーズとなることは間違いないだろう。
紙の本
なんだかね、人から絶賛されている本に★一個でも欠けた評価をするっていうのは、やっぱり気にはなるんだよね。年とったのかなって思ったりなんかして。でも仕方ないよね、『歌の翼に』のほうが面白いもの
2003/08/24 18:17
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
今となっては昔話に近いけれど、菅浩江が海外で評価され、アメリカのSF傑作選に作品が選ばれていると知って驚いたことがある。日本にもそんな作家がいたのか、と純粋のSFマニアではないので、ハードカバーは何とか追いかけている積りだけれど、やはり馴染みのある名前のほうを優先してしまう自分を反省もした。
ともかくその作品を読まなければ、と思ったわけだけれど、我ながら愚かで、解説を読んでも、著者の性別すら判然とせず、じつは菅が女性であると知ったのは、ずっとあとのことだった。で、この本を読みながら、私のイメージにあるSFというのはシモンズの『ハイペリオン』であり、山田正紀やディックの諸作でありと時代遅れなせいか、なぜこれがさほどに評判なのか、面白いとは思うものの、はっきりしなかったことを最初にかいておこう。
全世界のあらゆる美術品などを納める、地球衛星軌道上に浮かぶ巨大博物館アフロディーテ。データベースに頭脳を直結させた学芸員 田代孝弘は、博物館の総合管理〈アポロ〉の職に就いている。彼のもとに舞い込む様々な問題、音楽を扱う〈ミューズ〉、絵画を扱う〈アテナ〉、動植物を扱う〈デメテル〉の三部門間の、展示品をめぐる所有権争いが描かれる。
障害者のみを感動させる絵画の謎、人工の海底で失われていった人魚像、演奏会場の設定に腐心する老音楽家、などの背景にあるものに迫る。田代の妻の美和子、同僚のネネ・サンダース、田代を利用する上司、自分の能力に奢る部下などが軸となって、極めて人間的な物語を繰り広げる。特に、データベースに結びつく能力が、年々高いものに切り替わっていく様子は、新型パソコンに追われる実際の世界を連想させて、親しみやすい。
どうも根が単純なせいか、感動や驚きがないと、ああそうか、で終わってしまうせいで、この如何にも日本人が描く宇宙の光景がどうして数年前の日本SFのベストに選ばれたか、そこまでレベルの高い作品であるかが良くわからない。二度も星雲賞を獲っているというのは無視できないし、文章に品があって、なかなかものだとは思う。宇宙の博物館という発想は新しいし、謎の解明も小粒な感じはするけれど、うまい。それが『歌の翼に』といった傑作推理小説に繋がるというのはよくわかる。
最近、菅の推理作家協会賞受賞第一作『夜陰譚』や『歌の翼に』、或いはVRを扱った『プレシャスライアー』と続けて読んで思ったのだけれど、どうも菅は、本格推理の短編や幻想ホラーとでもいった作品のほうが、合っている気がした。ともかく、高校生時代からSFを発表しているキャリアの長い人らしく、調べてみると作品量もかなり多いからゆっくり判断してみたい。まずは、こんな素敵な作家の存在を知らずにいた自分の不勉強を恥じるばかり、はい。
紙の本
装丁が取り持つ縁
2002/06/19 23:49
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:3307 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『永遠の森』との出会いは、創元文庫の『ななつのこ』『魔法飛行』『掌の中の小鳥』の装丁を手がけた菊池健さんが、本書のカバーも描かれたことがきっかけでした。
——同じ雰囲気の本がある。
確か、そう感じた友人が、本書を手にとったんです。
そして、見事にハマり、芋ずる式に私もはまったという訳です。
SFかファンタジーのどちらかを選ぶとすれば、ファンタジーを取る私にとって、SFとされているのに読める作品は、とても貴重です。
舞台や小道具をめいっぱい活用して、「もしも」を幾つも重ねて、人の気持ちに迫ります。そこが未来でも、便利な道具があっても、やはり血の通った人間がいて、共感できる悩みを抱えている。そんな「日常」があるから、SFが苦手な私でも楽しめたのでしょう。きっと。
主人公を思い出すとき、真っ先に浮かぶのは「机と椅子とカウチしかない彼の個室」です。他に何もいらないのは、彼の脳が直接データベースに接続しているから。
本書の世界でも、もちろん特別な立場にいる彼ですが、難題が押し寄せる度にこの部屋で夜を明かします。冷え切ったコーヒーをすする姿が印象的。
このデータベースは、本書に登場する設定の中で最重要項目の一つで、それぞれ女神の名前を冠しているのですが、なんだか『ファイブスター物語』のファティマとイメージが重なりました。姿はなく、「頭の中に響く声」として登場するだけなのに、不思議です。
9つの短編が重なって、まさに花開く物語。
私には特に、「きらきら星(8)」や「嘘つきな人魚(7)」が心に残りました。
作品を通して、一つの物語に修練する快感は、加納朋子さんに通じるものがあって、大好きです。SFが苦手で、かつ加納朋子さん(あるいは北村薫さんも可)がお好きな方には、SF入門書として是非是非オススメです。
読み終えたら、『五人姉妹』もどうぞ。
本書の後日が語られる「お代は見てのお帰り」が収録されています。
表題作の「五人姉妹」と「夜を駆けるドギー」もお勧め。
紙の本
『知と愛』の喜びと哀しみを謳う、“美”と“人間”への讃歌
2000/07/10 01:40
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:冬樹蛉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ラグランジュ3に浮かぶ博物館惑星〈アフロディーテ〉には、絵画、工芸品、音楽などなど、人類が生み出した“美”の至宝が分野を問わず集まってくる。思念だけで“美”のデータベースを操る手術を受けたエリート“直接接続学芸員”である田代孝弘は、幾多の部門の中でも労多くして報いの少ない博物館惑星の“総務部”的役割の総合管轄部署〈アポロン〉で、厄介な仕事を引き受けてくる上司や現業部門間の調停作業に日夜振りまわされる損な男。今日も今日とて、ちょっぴりお人好しな彼のところに厄介な仕事が……。
菅浩江が五年以上にわたって「SFマガジン」に不定期に発表してきた人気連作短篇、待望の単行本化である。未発表の一篇を加え、改稿によって全体の統一感が雑誌掲載時に比してぐっと増した。科学の手をすりぬける“美”という対象をSFの主題とする異色の試みを、ときに謎解きミステリ、ときにラヴ・ストーリーとして、感動的に読ませる。『知と愛』の喜びと哀しみを謳う、“美”と“人間”への讃歌だ。