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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2000.9
- 出版社: 青弓社
- サイズ:20cm/302p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-7872-2012-8
読割 50
紙の本
女装の聖職者ショワジー
著者 立木 鷹志 (著)
ルイ十四世の時代、聖職者でありながら女装をとおし、全財産を失うほどの賭博狂で、しかも学者でもあった畸人ショワジーの数奇な生涯をたどる。【「TRC MARC」の商品解説】
女装の聖職者ショワジー
女装の聖職者ショワジー
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著者紹介
立木 鷹志
- 略歴
- 〈立木鷹志〉1947年埼玉県生まれ。早稲田大学文学部中退。著書に「毒薬の博物誌」「媚薬の博物誌」「天人戯楽」など。
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紙の本
服装倒錯の司祭?それだけではない優雅で奇妙な男の生涯。
2000/10/25 00:15
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:井上真希 - この投稿者のレビュー一覧を見る
カトリック教会の聖職者の通常服とされているスータンは、頭から被る踵までの長衣で、ロング丈のワンピースと似ていなくもない。
ということは、この本で扱われているショワジーとは、司祭を務めるうちに服装倒錯に目覚めた人物か、と思ったら大間違いだ。それだけでも濃厚な背徳の香りが漂ってくるが、彼の場合は、幼い頃から母親が女の子の服装をさせたばかりか、永久脱毛によって髭やむだ毛もなく、襟首には「毎晩仔牛の液と羊の脚の脂でマッサージ」をして磨き上げた、生まれながらの異性装者(トランスヴェスタイト)なのである。
おまけに、彼の出自を知らない人間は誰もが完璧に美しい貴婦人と思い込む姿に成長し、たおやかな女心をもっていたにもかかわらず、性自認(ジェンダー・アイデンティティ)は男のままで、性的指向の対象は女性であったため、姉のように振る舞いながら若い娘に近づいて、閨房では男として愛し、時には相手の娘に男装させて、外見上(と日中)は男女が入れ替わった形で暮らしたりもしたというのだ。
フランソワ=ティモレオン・ド・ショワジー、母親が末っ子の行く末を考えて金で買った聖職禄所有者の称号によって、アベ・ド・ショワジーと呼ばれた男の優雅で奇妙な生涯を、この本は辿っている。
ルイ14世の治世からオルレアン公フィリップの摂政時代にかけての、フランスの歴史上、最も性風俗が乱れた時代に、生涯のほとんどを女装で過ごしたものの、臨死体験によって回心した後は誠実なキリスト者として研究、執筆活動に励み、アカデミー・フランセーズ会員に選ばれた実力ある作家にして学者、若い頃にボルドーに逃亡してコルネイユの演目の舞台に立っていた女優としての経歴ももつ、明るく機知に富んだ人柄が魅力的な、しかし人生の苦境に陥るや賭博に走って全財産を失ってしまうほどの弱さをもった男だ。
数年前、ヴェラ・ベルモン監督がソフィー・マルソーの主演で映画化した、モリエールとラシーヌに愛され、ルイ14世の寵愛を受けた女優マルキーズ・デュ・パルクよりも、ショワジーのほうが演技がうまいと褒められるくだりも出てくる。
今ではすっかりフランス文学史の表舞台から消え去ってしまっているが、異性装者の回想録として18世紀以来愛読され、引用されてきたアベ・ド・ショワジーの『女装冒険譚』が、この本の第2部に収められている。放蕩時代の日々が活写されていて、後に同時代をモデルにして『ソドムの百二十日』を書いたサドも、きっと読んでいたに違いない。
ショワジーの著作からは、他に『ルイ十四世時代の歴史的回想』と、1685〜86年に海外布教使節団としてシャムのアユタヤに派遣された折の記録『シャム王国見聞録』が引用されている。当時のフランスの風俗や習慣、なかでも女性のファッション(つけぼくろを1ダースつけるのがおしゃれ!など)、そしてシャムという異国の風物が詳しく描写されていてとても興味深い。
単なるフェティシズム的服装倒錯の男の話ではないのである。 (bk1ブックナビゲーター:井上真希/翻訳・評論 2000.10.25)