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商品説明
風向きが変わった。僕の頰を湿った風が撫でていった。風は梔子の香りを乗せていた…。二つの波長が共鳴するときに生まれる静かな組曲を、端正な筆致で綴る、瑞々しい感性にあふれた長編小説。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
本多 孝好
- 略歴
- 〈本多孝好〉1971年東京生まれ。慶応大学卒業。94年「眠りの海」で第16回小説推理新人賞を受賞。著書に「Missing」がある。
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紙の本
水面に漂う人々は、一人で居たいと手を伸ばす。
2001/01/11 16:40
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:竹井庭水 - この投稿者のレビュー一覧を見る
前作の『MISSING』は文学とミステリの融合ということで、昨年話題になっておりました。その作者の初の長篇が本作。しかし佇まいはこの人ホントにデビュー2作目なのか、というほどの落ち着き様。
不登校児を対象にした塾で働く柳瀬。その彼に大学教授から手紙が来た。3年前に辞めた医学部の教授からで、面識もろくにない。柳瀬に頼みがあると言う教授。その依頼とは、自分が「殺した」患者の娘を守ってくれというものだった。数日後、教授は安楽死の疑いで逮捕される。彼が黙秘し続ける動機とは?
粗筋を紹介するのが非常に難しいのだけれど、とりあえず教授の“依頼”が中心にあって、その枝として不登校児の塾・柳瀬の特殊能力・恋人の熊谷があり、少年犯罪・家族・責任・人間関係と、この物語が内包するテーマは実に多い。事件自体は一応の解決をみるのだけど、この物語をミステリとだけ捕らえるには抵抗があるくらい。
しかし決して穏やかな話ではないのに、なんて静かな筆運びなのか。まさに装丁通り、水面に一つ一つ石を投げ、その波紋を観察するような。この物語を説明する言葉を持っていないのがもどかしい。自分と向き合うことの意味、一人でいるための努力。今の世の中信じれるものは自分ですらないのかもしれない。そんな気持ち。全ての現代の人々に、この鋭利な物語を捧ぐ。
(初出:いのミス)
紙の本
是非読んで欲しい傑作
2000/10/04 23:55
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひで - この投稿者のレビュー一覧を見る
本多孝好は、短編集『MISSING』でデビューを飾った。ゆっくりとしたペースで描かれたこの作品集は、透明感のある文章と、静かな展開、そして人間心理の奥底に潜む不思議さを描き高い評価を受けた。一面から見ればミステリとはいえないかも知れないが、ジャンルを超えた魅力を持った作品である。本作はそんな魅力を十分に味わうことができる氏の第一長編である。
学生時代の教授に呼び出された柳瀬は、教授が死亡させた患者の娘・立花サクラを守って欲しいと頼まれる。柳瀬には人と心シンクロさせることができる不思議な能力があった。彼は、不登校児を集めた学校でバイトをしていたが、そこに来る少女にサクラとの仲介を頼む。サクラと出会った日、彼は能力を使おうとするが、彼女に拒否される。同じ頃、柳瀬は教授の犯した事件を探るフリーライターにつけ回される。彼は柳瀬の父が母を殺した事件を持ち出してくる。学校に通ってくる少年少女たちとの関係、恋人との関係。その中で出会う様々な人との関係の中で、柳瀬が見いだしたものとは何か。
この物語には様々なテーマが詰まっている。マイノリティとマジョリティ、本能と理性、生と死、神と悪魔。言葉にすれば大きなテーマであり、実際に直面するようなテーマではないようだが、形を変え身近なテーマとして我々の前に立ちふさがる問題でもある。
それらはどんなに時代が変わろうとも変わらない。我々の前に現れたときのそれは、家族だったり、愛情だったり、友情だったり、自分のことであったりする。そして他者との関係の中で、社会との関係の中で、自分自身の中で葛藤を繰り返し、答えを求めていく。
これはより純粋であればこそ、大きな壁となって向かってくる。本作ではこのテーマは、多感な時期である中学生を中心に、理想に向かって生きる医者や自分ではどうしようもない状況に追い込まれた人々に突きつけられている。そしてまた主人公の柳瀬の持つ能力によって心の壁を破った人が、今までわざと避けてきたこれらのテーマに直面する状況が描かれる。
往々にしてこのテーマは純文学の世界でよく書かれてきたものである。しかし、本作では氏の手にかかることで、不思議さと幻想性に満ちた小説へと形を変えた。透明感のある文章、静かな展開であればこそ、内面の葛藤、戦いはより一層鮮明に打ち出されていく。難しいテーマでありながら、すんなり入り込め心に残る小説となった本作は、是非読んで欲しい作品である。
紙の本
その人自身にも見えない本心をみてしまう呪われた能力
2002/05/17 15:59
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:つる - この投稿者のレビュー一覧を見る
本多孝好の本はどれも心の暗部が書かれていて、だから私はとても好きだ。
この本の主人公は人の心と波長を合わせることで、本心をさらけ出してしまう。ほかならぬその人自身に。
人は自分にも隠し事をする生き物だと思う。
本当に感じていることが社会的に不適だと判断したり、そんな自分はだめだとおもったりしたら、いくらでも自分にすら本心を隠してしまうのだと思う。
主人公はそれを見せていく。もちろんそれがいい影響ばかりを残すわけじゃない。だからその能力は「呪い」なのだ。
でも暴いていくことはとても気持ちのいいこと、もしかしたら暴かれることも。
お薦めの本。
紙の本
村上春樹を思わせる作風
2000/11/13 22:11
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:OK - この投稿者のレビュー一覧を見る
村上春樹風の筆致で書かれた宮部みゆきの某作、といったような印象。前作の短編集『MISSING』でもいくらかそういう雰囲気があったけれど、この作品では文体・世界観ともさらにまた村上春樹色が濃くなっている。数奇な星のもとに生まれた主人公(当然ながら一人称は「僕」だ)が出会う現代的な日常たち、枠組みのなかで、春樹風の「デタッチメント/コミットメント」の問題を扱ってみたようなかんじ。主人公がガールフレンドからあびせられるきつい言葉は、『ノルウェイの森』のある場面を思い出させた。
どうもこの人は基本的に短編作家的な着想をしている作家のようで、この作品は長編ながらそれぞれの逸話をつなぎ合わせた連作短編みたいな構成になっている(それが悪いというわけではない)。ひとつひとつの話はいわば典型的なもので、良くも悪くも「現代的」な人間像や悩みのカタログ集といったかんじ。たとえば宮台真司の人生相談室なんかを思いおこさせるような。誠実な態度で書かれているし決して悪くはないけれど、ちょっと型にはまりすぎたかんじもある。どちらかといえば前作『MISSING』のほうが、ジャンルにとらわれない自在さで期待を感じさせてくれました。主人公の特殊な設定に関しても、こういう話をあえて使わないでもじゅうぶん書ける人なんじゃないかな。