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商品説明
【日本推理作家協会賞(第53回)】警察手帳紛失事件に隠された男たちの矜持を描き、日本推理作家協会賞短編賞を受賞。「陰の季節」でデビューを飾った著者の第二作。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
動機 | 5-68 | |
---|---|---|
逆転の夏 | 69-176 | |
ネタ元 | 177-232 |
著者紹介
横山 秀夫
- 略歴
- 〈横山秀夫〉昭和32年東京生まれ。平成3年「ルパンの消息」が第9回サントリーミステリー大賞佳作。平成10年「陰の季節」で第5回松本清張賞、本作で第53回日本推理作家協会賞短篇部門賞受賞。
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紙の本
2000年を飾るに相応しい、緊張感ある名作短編集
2001/01/19 04:56
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひで - この投稿者のレビュー一覧を見る
横山秀夫氏の名前を、今年まで知らなかった読者は多いと思う。私自身もまたその一人である。そんな氏が今年、日本推理作家協会賞短編賞を受賞。そして、受賞作を表題作とした本作が「このミス」を初めとする各種ランキングで高い評価を受けた。文学賞受賞作や、ランキング入賞作が、読者の評価と大きくずれることはよくあるが、本作にはその心配はいらない。読了後には、高評価の意味を十分に理解できる作品である。
本作は、推理作家協会賞受賞作「動機」を初めとする4編が収められた短編集である。「動機」では、一括保管された30冊の警察手帳紛失の謎を描く。また「逆転の夏」では、刑務所から社会復帰した男にかかる殺人依頼の意味を、「ネタ元」では地方紙の女性記者に向けられた引き抜き話から始まる物語を、「密室の人」では、法廷で居眠りした裁判官の失態とその意味をそれぞれ描く。
前作『陰の季節』では、警察内部の一般には知られることの少ない部署を舞台にそこに生きる人間像を、謎解きを中心にしながら描いている。しかし、本作では警察だけではなく、様々な場所、様々な人間がその中心にいる。前作もそうだが、一見すると最近流行の情報ミステリ的な作品かと思ってしまう。しかし、確かに珍しい舞台は用意されているが、それは本質ではない。
本作の魅力は、圧倒的な緊迫感にある。それぞれは他人にはあまり大きな意味を持つ事件ではないが、主人公たちの切迫感、現実感といったものが読者にはひしひしと感じられる。そしてもう一つの魅力が、結末にある普遍性である。小説で描かれ続けてきた普遍的なものには、家族、友情、恋愛等といったものがあるが、氏の短編の背景には常にそれがある。そしてその普遍的なものは、徹底的に高められた緊迫感の解放と共に、安堵できる存在、意味として描かれる。
この両者の絡み合いが、短編の短さの中で密接に引き合うことで、互いを惹きたて、作品としての完成度を高めている。そして、導入部の入りやすさ、中盤のサスペンス性、後半の逆転、結末の安堵感といった構成の見事さと共に、深い味わいをもって、心地よい読後感を与えてくれる。ともかく、2000年を飾るにふさわしい作品である。
紙の本
落とし所に優しさを…
2004/07/04 21:28
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:luke - この投稿者のレビュー一覧を見る
横山秀夫「動機」です。日本推理作家協会賞受賞作。しかし、横山秀夫は良いですねぇ。言うまでもないのですが、まずは小説が書けていますから上にどんな冠を付けてもそれらに囚われることなく奇手を諂う事もない。文章がしっかりしているので、意味不明の詩的表現に接することなく読者は安心してストーリーに没頭できるのです。メインディッシュを邪魔していないわけです。「動機」は表題の動機を含めて4篇収録されています。(1)動機(2)逆転の夏(3)ネタ元(4)密室の人。甲乙付けがたい素晴らしい作品です。
「動機」は警察署内から警察手帳が30冊も紛失する事件です。そもそも紛失事故を無くすために県警警務課企画調査官、警視の貝瀬が勤務が終わった警察官は手帳を持ち帰らず一括して署内で保管する事を提案し、その試験運用の最中の出来事でした。最悪の立場に立たされた貝瀬は二日間の猶予の間に事実解明にのりだすのだ。警務課と刑事課、キャリアにノンキャリア、署内に渦巻く固執の中、真実は果たして…
…、と言うわけで、警察署内の手帳紛失事件で殺人も有るわけじゃない物品紛失事件なのですが、やはり警察内事件もあって緊迫感があり、シンプルな事件な程にその隠された謎が非常に大きく感じられます。他の作品にも共通するのですが、高速道路や列車から見る夕暮れの街並みに感じる孤独感と人恋しさ、ホームシックになった時の心細さと今にも泣きたくなるような心の不安定さとでも言えばいいのでしょうか、そこはかとない哀しさや寂しさを全編通じて感じます。警察官や裁判官、弁護士に検察官、新聞記者などなど法曹界を舞台に法を守る強くなければならない人たちの力強いストーリーの筈なのに、反するような心の弱さや、哀しみ、寂しさに覆い被されています。それこが横山ワールドの最大の魅力なのです。もう一つ共通点は、まるでボクら読者をも救ってくれるような、ハッピーエンドじゃないけど、まだまだこれで終わりじゃないぞとラストに救いがあるのです。この危うい確実じゃないけど少しの期待と希望が持てる救いが全てのストーリーを救ってくれています。それが読後感にもたらせる影響は計り知れないくらい大きいでしょう。涙が出るくらい優しい本なのです。
紙の本
2000年「このミス」2位は伊達じゃない
2001/05/10 19:47
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:旅歌 - この投稿者のレビュー一覧を見る
2000年の「このミス」国内部門第二位は伊達じゃなかった。すばらしい作品集。短編集はあまり好きではないけれど、息つく暇もなくページを繰って、一日で読み終えてしまった。群馬県の県紙である上毛新聞で、12年の間記者生活を送った作者の経験が存分に活かされた、極上のミステリ作品集である。
警察の管理部門の出世コースを歩いてきた警視を主人公にした表題作(日本推理作家協会賞受賞作)のほかに、過去に殺人で服役していたことのある男を主人公にした書き下ろしの「逆転の夏」、地方新聞の女性記者を主人公にした「ネタ元」、地裁の裁判官を主人公にした「密室の人」の、合計四篇が収録されている。どれもこれも、浪花節に陥ることなく心の揺らめきが見事に描き出された完成度の高い作品だ。
すごいのは、これだけ人生の機微を密度濃く描ききっておきながら、ミステリを忘れていないことだ。おかしな言い方で、しかも作者の今後はまったくわからないのだけれど、最近ミステリを蔑ろにするミステリ作家が多いと思いませんか? ミステリが小説分野で一段低いと誤解しているのでは、と穿った見方までしたくなる。そんな中で、これだけ確かな人間観察眼と洞察力を持ち、その上にミステリ的おもしろさを存分に備えた物語を書ける。もう脱帽するしかない。鬼に金棒とはこのこと。ミステリなら世に出られるから、という営業戦略でないことを祈るのみ。
最高作は「逆転の夏」、次いで「動機」だろうか。ミステリファンとしては、「逆転の夏」の殺人で出所してきた男の心理描写と、見事なプロットに唸り声をあげることでしょう。女性記者を主人公とした「ネタ元」は、男性の中で働く優秀な女性の視点で、性差別やら何やらの手垢はついたが非常に扱いの難しいテーマに真っ向から取り組んでいる。ぼくは、いかにも男性作家然としたオチが気に入らないんだけど、それでも過去に読んだ似たようなテーマを持つ物語では出色の出来だと思う。「密室の人」も、都合の良い物語と言えないこともないのだが、自らの人生を問いかける味わい深い作品だ。
読了直後は、満点をつけようかと思ったのだが、感想を書いているうちに気が変わった。短編(中編)であることで0.5、あまりにも手堅くまとめ過ぎているように感じられたので更に0.5マイナスで星四つ。この作家なら、きっとすばらしい長編が書けるはず。長編、期待します。
紙の本
人の心はいくらよんでもよみきれない
2001/01/26 11:40
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:吉野桃花 - この投稿者のレビュー一覧を見る
直木賞候補にもなった短編集。一言で言って「じみ」である。地味で滋味がある。警察署内での警察手帳紛失。誰がどういう動機でこのようなことを?考えをめぐらせ結論らしきものを見つけた貝瀬だが、事実とは微妙に違っていた。表題作「動機」。奇妙な殺人の依頼を受けた山本の心の動きを追う「逆転の夏」。事件記者の真知子と地裁刑事部庶務係の美佐江との奇妙な関係「ネタ元」。どれを取っても、大きな謎などはない。事件を起こす人の心の動き(動機)。微妙に変わっていく人の心。暗黙の了解でわかっていると思い込んでいた関係の危うさ。微妙な逸脱、日常のちょっとした齟齬。そんな中での感情の動きが淡々と丁寧に書かれていく。面白い!というより、落ちついた良い本が読めたな、という感じ。おすすめです。
紙の本
警察官,元殺人犯,警察記者,裁判官を主人公とした短編ミステリ4編.
2001/01/13 00:29
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:格 - この投稿者のレビュー一覧を見る
面白いことは面白い。それなりのプロットと組織のなかで闘う人間がよく描かれている。しかしながら、騒がれているほどのことはあるのだろうか。この程度の短編も最近は出ていない、ということか。
『動機』どこかで聞いた(テレビあたりで見た?)ようなプロット。
『逆転の夏』二つの事件をクロスさせるというアイデアは、これもどこかにあった。及川のエピソードが軽く扱われ過ぎていて、アンフェア。また、五万円の増額の意味不明。
>
『ネタ元』引き抜きがあまりに安易。結局引き抜きの理由を聞くこともなく断る、というのはありえない話。ひとりよがりすぎる。
『密室の人』朝飲んだ睡眠薬が午後になってきいてくる、などということがあるのか。
紙の本
佳作だがいささかウェット
2000/12/10 12:01
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:OK - この投稿者のレビュー一覧を見る
『陰の季節』で登場した新顔作家の第二作品集で、収録作は「動機」「逆転の夏」「ネタ元」「密室の人」。どの作品もだいたい、警察機構や新聞社や裁判所のような犯罪にかかわる職場を舞台にしながら、あえて人生の機微を描く「日常の謎」的な話を展開している。こちらの想像する結末で終わらずさらにもうひとひねり用意されていたりして(それはややむりやり気味にしても)、ミステリ的にもなかなか練られているけれど、文体がいささかウェットにすぎるのではないかと思う。北村薫はいわゆる「日常の謎」を物語にのせるため「世間知らずの女学生が人生を学んでいく」という形式を利用したわけだけれども、この人はそこで浅田次郎風の「中高年の感傷」を持ってきているかんじ。そのあたりの盛りあげかたには少し無理が出ているようで、わりとまともに犯罪を描いている「逆転の夏」が結局いちばん自然に読めてしまう、というあたりにこの作風の限界を感じなくもない。
あとこれは新人賞作家の鉄則なのかもしれないけれど、業界内幕ものを書くさいの「こう書けば読者にわかりやすい」という叙述法を忠実になぞりすぎているようで気になった。
→初出
紙の本
ミステリーコーナーより
2001/01/18 20:19
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:吉野仁 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『陰の季節』で警察小説における斬新なスタイルを築いた横山秀夫の新作は、やはり4作が収められた短編集である。
まず、表題作の「動機」は、本年度の日本推理作家協会賞短編部門を受賞した作品だ。ある警察署でおきた警察手帳紛失事件をめぐるミステリー。事件を推理し犯人を探す過程を順々に語りながら、そこにさりげない伏線や盲点をついたひねりのある話運びが加わり、さらに署内の人間模様や主人公の心理の行方が絶妙に絡み合い展開する。現代ミステリーとしてなるほど完成度の高い短編作である。
続く「逆転の夏」は、殺人の罪を犯した男が主人公の物語だ。出所後、過去を隠して働いていたところ、思わぬ事態に追いこまれる。ミステリー趣向やサスペンスフルな展開もさることながら、犯罪を犯した立場から苦い体験と心情が語られる暗黒に満ちたドラマがなにより秀逸。残る2篇がやや小粒だが、この2作だけでも読む価値のある優れた1冊だ。