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ウイルスの正体を捕らえる ヴェーロ細胞と感染症 (朝日選書)
著者 清水 文七 (著)
O157の「ベロ毒素」を解明した、日本生まれの培養細胞ヴェーロ。誕生から現在まで、その特徴を浮き彫りにし、ウイルス学や生命科学の研究資源、ワクチン生産に汎用されるに至った...
ウイルスの正体を捕らえる ヴェーロ細胞と感染症 (朝日選書)
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商品説明
O157の「ベロ毒素」を解明した、日本生まれの培養細胞ヴェーロ。誕生から現在まで、その特徴を浮き彫りにし、ウイルス学や生命科学の研究資源、ワクチン生産に汎用されるに至った経緯を読み解く。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
清水 文七
- 略歴
- 〈清水文七〉1932年山梨県生まれ。千葉大学医学部卒業。現在、同大学名誉教授、千葉県立衛生短期大学非常勤講師、日本ポリオ研究所技術参与。著書に「ウイルスがわかる」ほか。
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紙の本
日本の誇り
2001/06/10 23:24
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紙魚太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ベロ毒素」をご存じだろうか。1996年、岡山県に始まり大阪堺市で大発生した腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒事件。その後も毎年のようにこの大腸菌による食中毒事件は発生しているが、この大腸菌の出す毒素として有名になったのが「ベロ毒素」である。正しくは「Vero毒素」であり「ヴェーロ」と発音するのが正しいらしい。これは「ヴェーロ細胞を殺す毒素」、と言う意味である。このヴェーロ細胞こそが本書の主人公である。
主題から、電子顕微鏡の歴史を想像される読者もいるかもしれない。確かに1939にドイツのルスカによって発明された電子顕微鏡は、それまでの光学顕微鏡では不可能であったウィルスの姿を捕らえることに成功した。しかし、そのためにはウィルスを手元で増やすことが必要なのだ。細菌と違い自己複製装置を持たないウィルスを増やすには、どうしても生きた細胞が必要である。いつでも入手可能で、経歴が明らかで、さらに各ウィルスに対する感受性が高い細胞となるとその数は限られる。本来、真核生物の細胞には寿命があり、人の場合50〜60回分裂すると分裂を停止して死んでいく。医療に使える継代培養可能な細胞は少なく、その代表格がヴェーロ細胞なのだ。
この細胞は日本生まれである。安村 美博により1962年、アフリカミドリザルの腎細胞から継代培養され、世界中に無償供与されたヴェーロ細胞は、免疫に関する特殊な性質と相まって最高のウィルスハンター細胞として、各種ワクチンの製造、エマージングウィルスの追跡に大活躍する。本著は安村の隣の実験室でヴェーロ細胞の誕生から現在までを見続けてきた著者によるオマージュである。文章は読みやすく、高校程度の生物の知識があれば十分に読み進むことができるだろう。索引や注の資料もしっかりしている。また、本文中に、別ページで解説してある内容については、その参照ページが書かれており、読み進む上でとても親切な作りになっている。著者や編集者の良識がよく現れた好著といえるだろう。「ヴェーロ」はエスペラントで真理の意味だそうだ。この純国産の細胞が世界中の人々の命を救っている様子を知って誇りに思わない日本人はいないだろう。
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ウイルス解明とワクチン製造の立役者,ヴェーロという不死の細胞のすべてを解説
2000/12/16 21:15
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:斉藤 律子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
目に見えない細菌やウイルスは,時に歴史の事件として名をとどろかせ,衛生事情が良くなろうとなるまいとその都度環境に合わせて発生し続ける厄介な代物である。しかし,知らず知らずのうちに忍び寄る死の恐怖を尻目に,研究者たちはいかにしてそれらの性質を解明し,救世主ともなるべき効率のよいワクチンを作り上げてきたのか−−。本書は細菌やウイルスの正体を探りながら,ウイルスの性質解明やワクチン製造に多大な貢献をなした「ヴェーロ」という不死の細胞について解説されたものである。
ところで,専門家以外ではウイルスや細菌とは何かと聞かれても,その違いや人類への悪事を説明できる人はほとんどいないだろう。著者はウイルス学の先端を走ってきた筋金入りの研究者であるにもかかわらず,そのような専門的な知識を一般読者にもわかりやすく平易に解説している。しかも,地球史というスパンの中で細胞とは何か,いかにして地球上に細胞ができたかなど,微生物の歴史をもひもときながら知的好奇心を十分満たす筆致でまとめられている。
ヴェーロ細胞においては,これほどウイルスの性質を明らかにし,ワクチンを安全にしかも大量に生み出した「ウイルス解明の立役者」はほかにはないと感じさせる驚きの不死細胞である。またそれが日本で生まれたというから感慨深さもひとしおだ。ポリオから人々を救うために生まれたヴェーロ細胞は,その後ラッサ熱,エボラ出血熱などの診断に使われ,またジフテリア菌や大腸菌O-157の解明にも利用されている。その研究過程は想像以上に大変なものだが,研究者の飽くなき追及とヴェーロ細胞の活躍ぶりからは,日本の科学者の研究魂がひしひしと伝わってきて,現代を生きる私たちを支えてくれていることに改めて気づかされる。
(C) ブッククレビュー社 2000