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呑舟の魚 (徳間文庫)
呑舟の魚
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紙の本
魔魚か魔王か
2005/04/22 23:20
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
石川県の動橋川、またの名を呑舟川という。織田信長による加賀の本願寺攻撃の時に、当地の武家をまとめて抵抗した佐分利氏、その佐分利氏を裏切った家臣への呪いにより、舟を呑むほどに巨大な魚が棲み付いたと言う伝説がある。すなわち呑舟の魚。この北陸の須山町の山林王にして町長という権力を持つ黒須家では、子供が生まれた年にその巨魚が姿を見せると、反乱を起こす者になると代々伝えられてきた。少年時に野犬とともに行方不明になっていたというその当主の弟が、20年振りに帰って来る。これが発端だった。
現代の兄弟は伝説の呪いなど信じもしないし、二人でうまくやっていけるはずだと考える理性がある。しかし人に語る際のメタファーとして巨魚の伝説を用い、また呪いを断ち切ろうとする意識ゆえに伝説に呑み込まれてしまう。兄弟の確執が次第に狂気を帯びた様相となっていく中、川底の洞窟から巨魚が人々の前に姿を現す。
兄は権力と財力を使うことにためらいがなく、東京で飯場暮らしをしていた弟は自分の体を投げ出すことに躊躇が無い。人間の理性の範疇では越えがたい二人の間のディスコミュニケーションの壁が愛憎をもたらす。肉親ゆえか呪いゆえか、それはとどまるところを知らずに増幅し、二人の執念、行動は、まさに魔王の如きとなる。はたして人間にここまでできるのだろうかというレベルは、緻密な心理描写によってリアリティを持たせつつ、地獄の幻視を見せられているかのようでもある。
登場する男達、女達の意志の力は、狂熱的でもあり冷徹でもあり、日常の繭にくるまっている僕の想像を絶する。狂気などという言い換えでは説明しきれない。
とにかく、こんなに凄絶な話があるのかと驚嘆したところで、まだ本の半分だった。そこからさらにエスカレートするのだ。その先はめくるめく仰天のジェットコースターで奈落まで。こんな極限状態まで行き着いてしまえる人間を描いてしまう作者に驚愕する。
ちなみにちょいエロありですが、16才以上なら可。