紙の本
多重世界の誕生
2013/04/07 00:13
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
第二次大戦直後のウィーンに友人を訪ねてきたイギリス人。その友人は謎を残して事故死していたが、その謎を解明しようとするのに対して、ソ連、イギリス、アメリカ、フランスの4国に統治されるという複雑な政治状況が立ち塞がる。
友人は闇ビジネスに関わっていたと言われるのだが、終戦後の混乱期に闇市の類いは珍しいものでもない。それがヒューマニズムの敵となるようなビジネスであったとしても、ついその名誉回復のために真相究明に向かってしまうのは、戦後の空虚さに心の芯となるような何かを求めていたのか。
戦争はそういった人々の内面の闇を生み出したが、一方でウィーン市街にも、各国の統治区それぞれも外部からは闇の世界だ。死んだ男の元恋人は、ソ連政府によってハンガリーに強制送還されそうな情勢になる。
既に冷戦が始まっていたのだと言うことはできる。突如現れた、見えない壁のある世界に、人々は恐怖し、進む道は手探りするしかない。この光景はチャイナ・ミエヴィル「都市と都市」の、一つの都市に二つの国家が同居して、相互に行き来ができないという世界に似ている。半世紀前に実在したと分かっていても、人間達の妄執の生み出した迷宮は幻想的だ。
架空の歴史やテクノロジーが無くても、人間は奇怪な世界を作り出してしまう。それはウィーンや、ベルリンから拡散して、かつてはこの地上を覆い尽くしてさえいたのだ。
グリーンからミエヴィルへ、その線を結んでみれば、時代は連続している。古代には王の強権や因習による壁が存在していた。とすれば、悪夢は過去と未来に限定されているわけでもなく、たぶん今この時も実在している。時代の彼方からこの時代を振り返ってみれば、やはり無数の見えない壁が僕らの精神と身体を不自由にしていると見えるに違いない。テクノロジーは人間の生きる空間を飛躍的に拡大したが、人間の精神はそれに追いついていない。自分でも気付かないうちに自らを束縛している。
大戦直後において、憎しみ、開放感、後悔、イデオロギー、多くの人が共有した様々な感情が、時代を塞ぐ壁になった。クライマックスにはウィーンの地下水路網が、東西も都市の外部も繋ぐ自由空間として登場するが、そこに登場人物達の自由の可能性を見ることは無く、どこまでも忌避すべき反ヒューマニズムの世界としか描かれない。結局人々の孤独を癒すのは愛だけだ。それしかすがるものが無いこと自体が、時代の絶望を示しているように見えて仕方ない。
たぶん僕らは半永久的にその隘路を彷徨っているのだ。
紙の本
第三の男
2013/05/24 18:58
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投稿者:ホームズ - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画は有名ですがまだ見てない。とりあえず小説から読んでみましたが期待したほどでは無かったかな~。それなりには楽しめたけど淡々とした感じがしてしまった。観覧車の中での会話の場面は映画で見たらよさそうだな~(笑)DVD借りてこよう~(笑)
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過大評価
2001/06/19 13:40
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投稿者:ねずみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
グリーンの代表作として名高い作品だが、それは概ね映画版の評価の反映であり、小説自体は、実はそれほどの作品ではない。もともとグリーンは先に映画脚本を執筆しており、これはノヴェライゼーションなのである。三角関係、政治的要素、ヒューマニズムといったグリーンの作風を特徴付ける要素にあふれているという点では、入門書としては適しているのかもしれない。
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カバーが変わったので買いなおす。映画は昔々に一度見ただけなので思い出せないから比較対象無しで面白い。
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The Third Man(1950年、英)。
名作映画の原作。最初から映画化を前提として書き上げられた。映画は、ラストシーンの名演出と、ツィター奏者アントン・カラス作曲のテーマ曲で有名。
友人のハリー・ライムに招かれて、第二次大戦直後のウィーンにやってきたマーティンズは、到着の数日前にハリーが交通事故で死んでしまったことを知る。さらに、ハリーが凶悪な闇商人として警察にマークされていたという話も聞く。友人の無実を信じる彼は、事の真相を探るべく調査を開始する…
第二次大戦と冷戦の狭間の荒廃した都市を舞台に、当時実際にあった出来事を巧みに取り入れた物語。サイコパスじみたハリーの人物造形が、時代の申し子という感じで良い。これでラストが映画と同じだったら、★5つだったかも…。
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映画は昔見ただけなので、見直してみようと思いました。グリーンの作品は3作目ですが、他のものよりシンプルで読みやすかった。ただ、主語がわかりづらいのが難点。それにしても、ハリーがロロを呼び寄せた目的は本当に彼が言うとおりだったのでしょうか?悪人の割にはロロやアンナへの対応も甘すぎませんか?終わり方もグリーンほどの人があの陳腐な終わりで本当に良いと思っていたのでしょうか?映画のラストを際立たせるためにあえてああしたのではなんてちょっと勘ぐっています。でも総じて面白く読了しました。
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友人であるハリー・ライムに誘われ戦後間もなくウィーンにやってきた作家ロロ・マーティンズ。ホテルに残された謎の伝言。彼がウィーンにやってくる前に交通事故で死んだライム。彼の葬式に参列するロロ。ロロに接近する刑事キャロウェイ大佐。ライムが闇商人としてマークされていたという。ライムの友人たちとの関係。ライムの恋人だったアンナ・シュミットに恋するロロ。4つの大国に統治されるウィーン。アンナをドイツのスパイとして捕えるソ連警察。ライムが交通事故にあった時の状況の食い違い。現場にいた第三の男の謎。
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映画見たことないんですが、先に本を読んでしまった。たまには良質なミステリ的な要素を含んだ本を読んでストーリーの面白さに浸るのもいいかなと思ったけれど、山場がどこかも分からずするすると読んで終わってしまった。多分予想していたより、映画化を前提として書かれた本だからか。映像はみてみたいなあ。
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良くも悪くも、短く簡潔にまとめた印象が強い。
読みやすくもあり、重たいテーマをそこまで重厚にしなかった印象。
映画も観てみたい。
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キャロル・リードの往年の名画の原作。小説を映画化したものの場合、往々にして原作の趣きを損なってしまいがちなのだが、この作品に限っては、映画の方がいいかも知れない。リードの演出、ロバート・クラスカーのカメラワーク、オーソン・ウエルズのハリー、アントン・カラスの音楽といずれをとっても他には換えがたい風格だ。一方、原作のほうは映画に比べると、やや未整理な部分も目立つ。それにしても、第2次大戦直後、4カ国によって分割統治されていたウィーンを物語の舞台に選んだのは絶妙のアイディア。G・グリーンの作家的直感は見事だ。
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映画原作。とはいえ、成立過程を見ると、まず映画の企画ありきで書かれたもの。
いつものように映画の方は観ていないが、小説はエンタテイメント性を重視した仕上がりになっている。
筋立てとしては、戦後の混乱したウィーンを舞台にしたサスペンス。ちょっとしたラブロマンス、謎解き、緊迫感のあるアクションシーンと、楽しめる要素をてんこ盛りにして散漫な印象にならずに纏まっているのが凄い。
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サスペンスでありながらも、背景に隠された戦後間もないウィーンの暗い情勢がありありと浮き彫りにされている。
マーティンズは、ライムは、アンナはそれぞれ何を考えたのか。登場人物の誰の視点から見るかによって、結末を迎える時の気持ちが変わる。
色褪せない名作。映画も見たい。
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「ハリーは生きた人間でした。単にあなたの英雄や、あたしの愛人だけではなかったのです。彼はハリーでした。彼は闇商人でした。彼は悪事を働きました。それがどうだというのです?彼はあたしたちの知っている人間でした」ーと女。
「ぼくを信用するな、ハリー」ー友人の潔白を証明すべく奔走し、真実を知り、友人の身体に弾丸を撃ちこんだ男。
この対照が印象的だった。
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超有名映画の原作、と言っても映画化を前提にしたものらしい。
実は映画はちゃんと通しで見たことがないので、先に原作を読んでみようかと。
恥ずかしながら当時のウィーンがそんなことになってたとは知らんかったよ。
あと超有名なラストシーンが実は原作では違ってた、というのも興味深い。
今度は映画見ないとなあ。
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グレアムグリーン渋いねぇ、全くオタク渋いよ。
最初誰が誰やらこんがらがりましたが、大変興味深く読ませていただきました。
ただ、本で読むには地味過ぎる気がして…。映画の方が良いですね。アンナが一人毅然と歩くエンディングも、ボルジアの圧政はルネサンスを生んだが、スイスの平和主義で生まれたのは鳩時計だけ。というハリーのセリフも。
作者が序文で、彼(キャロルリード)の大勝利だった。と書いてある所から、グレアムグリーンめっちゃ性格良いしと思った私は単純な人間です、はい。