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紙の本
事件論 現代の死と虚実を読み解く (平凡社新書)
著者 芹沢 俊介 (著)
なぜ毒物は匿名の悪意を拡散させるのか。なぜ自殺幇助の概念は揺らいでいるのか。なぜ誘拐事件は恐喝事件に相貌を変えるのか。頻発する〈事件〉の不可解さに寄り添いながら、死と虚実...
事件論 現代の死と虚実を読み解く (平凡社新書)
事件論
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商品説明
なぜ毒物は匿名の悪意を拡散させるのか。なぜ自殺幇助の概念は揺らいでいるのか。なぜ誘拐事件は恐喝事件に相貌を変えるのか。頻発する〈事件〉の不可解さに寄り添いながら、死と虚実をめぐる切実な〈現在〉の物語を読み解く。【「TRC MARC」の商品解説】
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紙の本
時代の意識の水準を読み解く
2001/06/10 22:36
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mirutake - この投稿者のレビュー一覧を見る
この著作は、作家自身によって犯罪愛好家を名乗っているが、決してそんな物ではない。そんな表明は犯罪を自在に考察しえるための隠れ蓑に過ぎない。その結果ここには犯罪を自在な観点から扱うことを可能にしたところから、大変に本質的な解明が行われている。その成果が今までの犯罪物に無い、大変な読み応えのあるものになっている。
この書物は犯罪の時間変化の系列をたどること、論じることで、犯罪者と言う特異な事件や在り方の中から、現在の人々の一般的な社会意識の水準が何処にあるのかを探って行く試みとなっている。このことは心理学や哲学が、特定の個人の特殊な病理や異和を読み解くことで、一般の人の普遍的な意識を解読して行く作業と同じことが行われている。特異な在り方が、一般の人では得られない、鮮明な主張によって、その変化を伝えてくれると言うふうに。
その一つとして特に最終章を取り上げて、この本を簡潔に代表しよう。
それは作者長年のテーマである「女性は今何処にいるのか?」と言う問いかけの、現在の最先端の位置を解読してみせているところが、すごい迫力で迫ってきた。女性の犯罪者は、男性の性的に優位な位置に翻弄される在り方に呑まれており、銀行業務員が横領を重ね貢いでいたりと言うのを典型に、多くの事例が取り上げられている。ところがこれを越えた在り方が出現している。インターネットの出会い系サイトで知り合った18才の少年に刺された既婚女性と言う構図に対して、「性的主導権をにぎった年上の女性が少年をそそのかして起こしたものであったように思える。」と言う分析を示し、また奈良県での准看護婦の母親が15才の娘に3000万円の保険金をかけた薬物殺害未遂事件では、女性の自己と言うテーマが浮上してきているところが、古典的な型を大きく踏み外したものと言えるとして取り上げられ、最後に、神奈川県大和市の「スマイルマム大和ルーム」での幼児に対する暴行殺人に対しては、女性が全能の自己と言うテーマを浮上させていると読み込まれる。この章だけでもこの本を手に入れた価値を感ずるところ。
その他、「ストーカー行為の本質」に見る幼児期の母親との関係、千葉県成田市のホテルで発見された遺体を「まだ死んでいない、治療中だ」とした発言や考え方が、臓器移植の時代ゆえの民間治療とも言うべき意識を表わしているのだとか、現在を捕らえたいと願う読者には多くの発見をさせてくれるものです。
紙の本
2001/06/24朝刊
2001/06/29 15:18
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:日本経済新聞 - この投稿者のレビュー一覧を見る
特異な事件は多くの場合、時代のゆがみの極端なまでの反映だ。著者は同時代の宗教や家族のありようを見据えてきた、いわば練達の犯罪批評家。現代人がどんな社会を生きざるを得ないのか、その図をあぶり出すのである。
ホームページを舞台にした毒物宅配事件。毒物は自殺願望者の間では生きるための「お守り」として保管されていた。ある女性が本当に自殺すると毒物の提供者も命を断つのだが、お守りをめぐる「共同幻想」のルールが破れた責任をとったとみなされた。三人の中年男性がホテルで心中した事件も含め、著者は「自殺幇助(ほうじょ)」というものが社会に染みだし、顔の見えない関係にまで広がり始めた構図をなぞっていく。
主として九〇年代の事件を扱った本書では、分析の筆が現代の死生観へと切り込む。ミイラ化した遺体のよみがえりを信じて放置した宗教集団の事件を跡づけながら、臓器移植をはじめとする近代医療を暗に拒絶し、その「外」に出ることで超能力治療なるものが民間信仰に通じていく道筋を見るのである。
和歌山毒入りカレー事件、酒鬼薔薇聖斗の犯罪など衝撃的な事例に加え、頻発するストーカー事件にも目を向ける。そこに母親に拒絶された子供の執着を透視するあたりの記述には説得力がある。
虚実の境目で起きる事件では、被害者と加害者の別もあいまいだ。市民社会の底が抜けてしまうかもしれない恐怖。その入り口があちこちに見えてくる。
(C) 日本経済新聞社 1997-2001