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商品説明
手と首を切り落とされた女の死体が発見された。捜査一課の蒲生は所轄の悪徳刑事・和泉と組み、捜査を開始する。だが、被害者と和泉が過去に関係があったことが判明し…。横溝賞受賞第一作。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
小川 勝己
- 略歴
- 〈小川勝己〉1965年長崎県出身。九州産業大学商学部中退。
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紙の本
彼と我のあいだに
2006/10/10 20:00
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ねねここねねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
単なるノワールにあらずの、信号がチカチカと明滅をする。
ふれたそれぞれの人物が、一つの物語に集まっていく。振れた物、ふれたもの…。彼の地へ行く、それぞれの自我の囚われ人。
湿った描写はない。クールな神の視点で、それぞれが映し出されていく。熱を持たぬそれは、奴隷たちの生を突き放し、見放しているようにも垣間見える。
もし神なんていても、まあそんなものだとは思うけれど。それでも人物は、それぞれの生に画して囚われ続けている。
一つのゴールは死だ。
彼我の曖昧な境界。見えぬ一線を、踏み越えてしまった先のもの。
それでもどうにか留まり、理知を保ってしがみつく生。
生は性に通ずる。
しかし一つの終点、死は思にはならない。当然それは詩にも。
彼我の先、この小説に於いては、死とは単なる止なのだろう。
生こそが哀しく、おぞましいものだ。
もう一つ、
囚われ人が抱える、底を漂う、根底の思想にずっとする。
近しいものだからこそ、愛をもって犯す、殺す。一つになる、愛を感じる。そうすれば、二度と離れることはない。
その表現形態、微塵にも自我から脱却しない愛。
矢木澤のカニバリズムを言うならば、食人は愛情的なればこそ。呪術的に少し傾いた愛情的食人。
他者へのモラルはない、有っても強すぎる自我からの派生。
強すぎる主体はおぞましい。
醜悪なる彼は、そしていつでも笑っている。
他者は見下すべき対象でしかない。彼の地にあり、そして自我だけを保つ者。自愛のみ、膨張して育ってしまった者。
「ねえ……ぼくたちと一緒にいこうよ」
「ぼくたち?」
「ぼくと、和泉さんと、蒲生さん」
「どこに」
「どこか遠いところ」
そしてそれに反して、自愛がなく、生きる興味が薄れた者。
見た目の派手さはないが、静かなる狂気が彼にはある。
死ぬでもなく、ただただ生を生きるもの。
彼が求めるのは刹那の刺激。そして彼岸にある快楽。
良く知った人間を殺せるからの愉悦。皮を捲ってある、このことは確かに共通だ。空洞の彼には、このことが一つ残っている。
エゴと暴力の警官、自己の物語に憑かれた少女、容姿端麗である、子供のまま齢を重ねていった女性。
共通するのは、強すぎる主観と欲望のみ。
客観性は排されている。思いやりなんて微塵は、始めからそこには存在しない。
それぞれの自己、囚われ人が集束する。
彼岸の奴隷。這いつくばり、囚われ続けてしまうもの。
それらの存在が、スピードを上げて彼の地へ進む。
荒れはてた、草が生えない大地へと。
——こっちの水は甘いぞ——
囁くもの… 物語は確かに恐ろしくもある。
狂気は彼岸のものではない。
紙の本
歪んだ世界の先に見えるもの
2001/09/02 00:17
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:YASU - この投稿者のレビュー一覧を見る
ある殺人事件の発生により、警視庁捜査一課の刑事・蒲生は所轄の刑事・和泉と組み捜査を開始する。別れた妻の元にいる娘からの留守録、そしてモデルガンやガスガンを手にすることで安息を得る蒲生。暴力団との癒着・強請・たかりなどの悪行に罪悪感もなくどっぷりと浸かる和泉。この二人が事件の解決へと向かって進むに従い、事態は更に歪んでいく。
帯にもある通り、まさに「狂気のクライム・ノベル」である。それも、静かに浸食するような狂気に満ち溢れている。だがこのところのマスコミにおける「不祥事」という文字の氾濫からすると、いかにも身近に起こりそうなこととして書かれた小説よりもずっとリアリティがある様に感じた。
また、この作品も前作同様スピード感に溢れている。ただ違うのは、緊迫した場面でも思わず吹き出してしまう様なフッと気を抜ける箇所がなかったところだろうか。つまり、登場人物たちにいわゆる“ドジ”はおらず、みんなどこかしら張りつめているのだ。その分歪んだ世界に入り込むことができ、全体に漂うどんよりとした倦怠感を存分に味わうことが出来た。
強面の男たちの中にあって、清廉さを感じさせはするが捉えどころのない静かなる蒲生。いわゆる悪徳警官ではあるが、一匹狼的にやけに存在感のある男くさい和泉。二人を取りまく様々な人々。そして惹き合う狂気……この二人が突き進んだ先には、夢の崩壊、そしてそれぞれの現実が待っていた。
紙の本
出会いが大切なのはすごくよくわかる。桐野夏生『OUT』、舞城王太郎『阿修羅ガール』そして小川勝己『葬列』。でも、それを乗り越えて作家は次作に挑んでいく、その軌跡をしっかり見つめたい
2004/02/16 20:35
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
私の大好きな中田英寿の日本でのプロ・デビューは決して華々しくは無かった。高校生らしく、線が弱くて、90分フルに動ける体力も持っていなかった。彼のセリエA・デビューが余りに強烈だったので、少しでも不調だと、やれポジションに拘り過ぎだとか騒がれるけれど、彼のポテンシャルは他の日本人を寄せ付けない。そこをしっかり見ないでいると、サッカーは楽しめない。
いや、私が言いたかったのは、強烈なデビューをした人間を、その時点だけで見てはいけない、その後の活躍を冷静に見ようということ。それは『葬列』で、私の度肝を抜いた小川克己にも言える。
親子二代の警察官の蒲生信明巡査部長は、離婚した妻のもとにいる娘からの電話を、毎晩待ちわびている。信明は父親が殉職したせいで上司の沢野に目をかけられている、と思っている。彼は、雑木林で発見された切断遺体事件の捜査を担当させられるが、同僚の山口巡査部長は蒲生の存在が嫌で堪らない。そんなとき、被害者と警察との思わぬ接点が浮かんできた。
暴力団と関係する和泉巡査部長、その和泉を中学時代に苛めぬいた白石。中年の男との関係に快感を覚える変態女性 川奈智沙。花井組の残酷で美貌の若頭 矢木澤などが繰り広げる狂気と血の世界。それは、まさに夥しいとしか言いようの無い、血にまみれた暴力の世界である。その対極にある、蒲生の心の静けさ、彼の父親が殉職した意外な真相。そしてどこか捩れたユーモア。
前作『葬列』のラストで、私を狂喜させた作風は、ここでも健在である。たしかに、インパクトは前作に比べて弱いかもしれない。しかし、人との交わりを拒絶しながらも、娘の声を待ち望む現代人の寂しさを、血煙の中に浮かび上がらせる手腕は、大したものだ。
ぎりぎりのところでコミックにしない。これは天性としかいいようがない。デビュー時のイメージに引き摺られずに、素直に今を評価したい。頑張れ、中田! そして平山。
紙の本
ストーリーに意味はない!
2002/07/30 12:50
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:marikun - この投稿者のレビュー一覧を見る
初挑戦の作家です。横溝正史賞を受賞してデビュー。
この作品は2作目になります。
しかしこの作品は…(笑)。たぶん読んでいて、気分が悪くなる人が
出るであろう位の、暴力のオンパレード。登場人物が、ほとんど
全員、壊れているというものすごさです。なので読書に、安らぎとか
感動を求める人は、近寄らない方が無難です(^^;
頭部と手首が切断された遺体が発見され、警視庁捜査一課の蒲生と、
不祥事を起こし所轄に飛ばされた和泉がペアになり、捜査に当たる。
遺体の身元は、熱心なプロテスタントの信者であり、保護司を
していた大河内聰子と判明する。しかし犯人はなかなか捜査線上に
浮かんで来ない。
な〜んて、あらすじを書いてみてもこの作品には、あまり意味が
ないと思います(笑)。暴力団との付き合いがささやかれる、和泉の
残虐さや、その嗜好。そしてその和泉と付き合いのある、暴力団の
若頭、八木澤(こいつが、めちゃめちゃ切れてるんだ…)など、
登場人物がほぼ壊れています。もうその壊れっぷりは気持ちの
イイほどと言うと、人格を疑われてしまいそうなのですが…(^^;
小川さん、決して文章も上手いわけではないし(特に前半部分)、
ストーリー自体もシンプルなのです。それに登場する女性キャラの
書き分けは下手と言ってもイイと思います(笑)。私にはメインの
女性キャラ二人が同じように、思えてしまいました。
でも、なぜか読ませるんですよねえ。う〜ん、不思議だ。
初期の花村萬月から、文学味をとりさったというか(意味不明(笑)?)
香港ノワール映画の初期を彷佛とさせると言うか…。
途中であまり本筋に関係なく挿入される、空手家3人が登場する
死体発見の場面はそこだけシュールなホラー映画みたいで、
(なぜか笑えるのです)かなりのお気に入り場面です。
★4つはちょっと甘い採点かもしれませんが、デビュー作も
読んでみたくなったので、まあいいかな…。