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商品説明
宅地化が進む都市近郊農村地帯で起きた、野鳥退治の新兵器をめぐる大騒動。天災か人災か? 人間のエゴイズムと環境破壊をブラックユーモアたっぷりに描く。鳥影社2000年刊「自動鳥獣撃退装置」に2章を加え全面改訂。【「TRC MARC」の商品解説】
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紙の本
都市近郊農村地帯における地域社会紛争の社会学
2001/10/06 01:45
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投稿者:たけのこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
これはもう、近郊農村と新興住宅地が接する地帯における地域社会紛争の社会学そのもの。キーワード:環境社会学、地域社会学、公衆衛生・疫学、住民運動、地方ジャーナリズムの思想と行動、とかなんとかいっちゃって。
県庁所在都市に隣接するK町の西部地区。宅地と農地が「チェス盤のように入り組んでい」る。ここで、異常繁殖したスズメやヒヨドリによる稲の被害に業を煮やした地区の農業委員たちが、自動鳥獣撃退装置「スーパー・スケアクロウIII号」の導入を決めた。町役場の農政課が購入を手配し、建設課が施工工事を業者に発注したその装置はしかし、爆裂音と振動波で鳥獣を驚かせて追い払うもので、地区に深刻な騒音公害をもたらすことになった。
さあ、それに黙っていないのが、新興住宅地の住民たちである。さっそく、苦情の電話が農政課の主任・カンマ君のもとにかかってくる。「ピアノ教師」「劇団員」「中学教師」といった、ことさらヒステリックに“苦情を役場に持ち込む人たち”と、地縁・血縁や先輩後輩関係で固められた農民たちのあいだで、役場のカンマ君は板ばさみになり、かといって何をするでもなく、事態が悪化していくのを放置する。カンマ君は妻子持ちの身でありながら、住民課で臨時採用のコロンちゃんに夢中で、それどころではないのだ。また上司のピリド課長も、住民の苦情を「濡れた真綿で口を塞ぐ」かのように丸めこむ。
そのうち、住民運動側の急先鋒であった「中学教師」は、飼い犬がなにものかに撲殺されたのをきっかけに暴走をはじめる。復讐のテロリストと化した彼は、怪文書をばらまき、農業委員の背後を車でつけ狙う。一方、農民たちの側も、「中学教師」と間違えて「劇団員」に襲いかかる。夜の町が、さながら暗闇の戦場となる。
やがて自動鳥獣撃退装置の騒音公害自体は、「劇団員」の知り合いの「新聞記者」や、診療所の「内科医」の活躍によって解決に向かうが、翻弄された人びとの怨念は消えない。闇に消えた「中学教師」の元教え子であった住民課のコロンは、彼の次のターゲットがだれであるかを「新聞記者」に告げる……。
粗野で無神経な農民、自己中心的で鼻持ちならない新住民、そして事なかれ主義の上司(じつは元学生運動の闘士)。徹底的に類型的で、戯画化された登場人物たちに囲まれたカンマ君の憂鬱には、なんとも自虐的な共感を抱かずにいられない。《カンマ君は、私だ》。せめてその身の破滅を、目をそらさずに最後まで見届けようではないか。
【たけのこ雑記帖】