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紙の本
冒険小説の教科書
2002/02/07 13:59
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投稿者:ひろぐう - この投稿者のレビュー一覧を見る
原作を読んだこともないのに、「80日で世界一周できるかどうか賭けをして、気球とか使って戻ってきたけど、ギリギリで間に合わなかった。と、思ったら…」という話だろう、と勝手に思い込んでいた。
まあ、ほとんどそのような話なのだが、実際に読んでみて驚いた。想像していたイメージとは、かなり違うのだ。第一、気球なんてどこにも出てこない。これはどうやら、同名の映画のせいらしい。この映画は『八十日間世界一周』と『気球に乗って五週間』をまぜこぜにして作られているらしいのだ。おそらくテレビの洋画劇場かなんかで見たのが誤解を生んだのだろう。
それに、主人公が出発の直前に起こった銀行の現金強奪犯と疑われて、刑事がその跡を追って行くというような話だとは、まったく知らなかった。これはもう立派なスリラーだ。
特筆すべきはヒーローの英国紳士、フィリアス・フォッグ卿である。おそらく彼は冒険小説の主人公の中でも、最も寡黙な人物だろう。無駄なことは一切しゃべらないのだ。しかし、普段は几帳面で堅物の役人のような典型的な英国紳士の彼が、いざ事が起こると、鉄のような意志のもとに機敏な判断カと行動力を発揮する。ふだんは他人に対してまったくの無関心な様子なのだが、その心根には神話時代の英雄のような、人間に対する無私の愛と自己に対する誇りを秘めているのだ。
彼はどんな障害が目的を阻害しようと、何に対しても、誰に対しても、まったく文句や非難や後悔をしない。泰然自若として、ただ残された最良の可能性のみを追求しようとする。究極の「行動の人」であるといえるだろう。僕の中でフィリアス・フォッグは、『宝島』のロング・ジョン・シルバーと並ぶ、お気に入りのキャラクターになってしまった。
物語自体も、冒険小説の教科書のような作品だ。分かりやすい目的。魅力的な主人公と脇役たち。危機に瀕する美女の救出。目的の達成を邪魔する数々の障害。主人公を追いかける敵役。エキゾチックな異境での冒険。危険のひそむ密林。荒れる海に翻弄される船。インディアンに襲われる列車。差し迫るタイムリミット。スリルとサスぺンス。友情とロマンス。ラストのどんでん返し…。いまではさすがに古臭く感じる部分もあるが、密度が濃くて退屈させずに一気に読ませるスピーディな展開は傑作の名に恥じない。