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紙の本
子規の年長の弟子が語る生き生きとした江戸時代
2002/09/27 12:31
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:伊豆川余網 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本来の(岩波)文庫の醍醐味というべき隠れた名篇。読み終わるまで手離せなかった。
2002年秋は、正岡子規が亡くなって百年(1902年9月19日没、数え年36歳)。出版不況のさなか子規関係の新刊も少しはあり、本書もその一つには違いない。年長の弟子として子規に穏やかに接し、40過ぎてから俳句に目覚めた元松山藩士の回顧録なのだから。
しかし、巻末の宗像和重氏の解説が語るように(この解説がまたいい)、読み始めたら、子規とは関わりなくても面白い。慶応3年生まれの子規より20歳年嵩ということは、鳴雪は20歳を挟んで幕末維新を体験したということだ。伊予松山十五万石は、時局に関して、藩として際だった活躍をしたわけではないけれども、それだけに、中級以上の優秀な藩士だった鳴雪の、過剰にならない視点を通じて、時代の動き、人間の様子が鮮やかに伝わってくる。
本書の最大の魅力は、父親の役目の関係で江戸で生まれた鳴雪が松山に「帰る」初めての東海道をはじめ、その後、松山と京・大坂、京から江戸へと青年鳴雪が刻んだ幕末の旅行の様子が繰り返し記されている点だろう。飲食、旅籠、船旅など、どれをとっても興が尽きない。生活史風俗史の恰好の史料などと理屈を殊更つけなくとも、鳴雪の平明ながら精彩に富んだ表現力で語られると(口述の速記原稿が基礎)、読者もまた道中を辿り、川止めに遭って苛立ち、知恵を授かって何とか関越えをする旅人の一人になって来る。
とはいえ、後半で2、3章を割いて子規との出逢い、活動、そして、その死を記してくれているのは貴重だ。子規門の双璧だった虚子も碧梧桐も後年、子規の臨終については述べているが、およそ使徒たちが語る殉教者の最期は、ときに読むのがつらい。子規の享年の倍も生き、「日本派の長老」と尊敬されながらも、俳壇の勢力図の圏外で淡々と四季の世界に遊んだ鳴雪に語ってもらってこそ、門外漢としては、没後百年を心穏やかに偲べるというものだ。
紙の本
実に面白い幕末、明治の庶民目線の史料
2022/11/23 16:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Takeshita - この投稿者のレビュー一覧を見る
実に面白い幕末、維新、明治の史料だ。内藤鳴雪は安政大地震も長州征伐従軍も体験したし、松山藩への土佐藩進駐、森有礼殺害、正岡子規臨終の現場にも立ち会った。維新の志士の回顧談は自慢話はかりだし、町人農民の談は惜しいことに記録性が弱い。その点この自叙伝は淡々たる口述筆記ながら、記録も背景の説明もしっかりしている。武士ではあるが庶民目線なのもいい。東海道、中山道の旅、三十石舟、高瀬舟、江戸と京都の芝居、寄席の有様、幕末武士の戦闘の実態。自分の見た通り生き生きと語る実に貴重な史料だ。因みに著者は大正15年79歳まで存命した。