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紙の本
鬼平の闊歩した下町の現在を歩いてみる
2004/01/12 22:35
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
すっかり、鬼平犯科帳にのめりこんでしまった。文庫本全24冊のシリーズをもう3周目の半ばに入ってしまった。この正月もケーブル・テレビで時代劇専門チャンネルを見たら、主役を演じた先代の松本幸四郎、丹波哲朗、中村吉右衛門のシリーズを放映していた。それぞれ個性が出ていたが、私は何といっても幸四郎版に魅力を感じてしまう。
本書の前半はその鬼平が巡察などで歩いていた舞台となる江戸下町の現在を歩くという趣向で、様々なコースが紹介されている。たとえば、「五鉄コース」、「市中見回りコース」、「菩提寺コース」などである。その他、橋、坂、寺などを巡るコースも出てくる。鬼平は勿論池波正太郎の手になる小説だが、地名や店の名前などは全て仮名であると考えるのは早計で、地名は勿論、店名や橋、寺などはそのままの名前を使っているものも多数で、現在でも引き継がれている。
もちろん、江戸時代当時の面影を残すところはほとんどないのであろうが、渋谷の宮益坂などは、当時は何もない田園地帯だったそうな。当時の風景を頭に描くことは、現在の渋谷では難しいのだが、ここを火付け盗賊改メの頭が歩いている姿を想像するだけで楽しいではないか。しかも、本書には写真がふんだんに入っており、写真があるだけで楽しさは倍加する。
私がよく歩いていた近辺は、小説で登場する小房の粂八が営む『鶴や』があったところであるし、長谷川平蔵の住居があったところとも近い。ここが鬼平の舞台となっていたとはその頃は気付かなかった。しかし、小名木川が流れるその辺りは振り返ると何となく江戸下町情緒が溢れているところである。
本書の後半は実在の長谷川平蔵の家系や盗賊の人相がイラストで描かれ、最後は小説で登場する食べ物に関する紹介である。ご丁寧にその作り方まで写真付きで書かれている。小説の中に出てくるものの中で注目は『一本饂飩』である。これは現在では見ることのできないものであり、当然食べることもできない。本書では実際にうどん屋に作らせている。
写真を見ると、まさに一本のうどんであるが、その色合いといい、形といい珍品に他ならない。そのうどん屋でメニューに入れたら、日本中の鬼平ファンが食べに来るのではないかなどと想像してしまう。
菓子もよく小説には登場する。現在の和菓子に比べれば簡素ではあるが、甘みはどうなのだろうか。これらのうち幾つかは実際に地元で作られ、販売されている。小説では美味しそうな描写であったが、平成時代の我々が感じる味は、ずっと素朴なものに違いない。
本書は写真が使われており、週刊誌の特集を想起させるものである。現在における東京の下町を歩いてみると、世田谷などの全国的に著名ではあるが、過密な繁華街の地域に比べると、予想以上に落着いた街であると実感できる。読者を下町の散策へ誘ってくれる一冊である。