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紙の本
生物学会のスキャンダルにとどまらない人間社会の暗蒙
2006/12/02 07:43
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:cuba-l - この投稿者のレビュー一覧を見る
進化論を巡る20世紀初頭の生物学会最大のスキャンダルを扱ったアカデミック・ドキュメントである。
話は突然変異と淘汰が全ての生物の進化を決定するとした新ダーウィン学派と、ラ・マルク以来の獲得形質は遺伝するという説を実験により証明したとする異端の生物学者カンメラーの対立をめぐるスキャンダルだ。
環境を変えて飼育したサンバガエルの婚姻瘤によって、獲得形質の遺伝を証明したとするカンメラーとこれを否定する学会の論争を当時の関係者の証言を踏まえて丹念に追跡する過程は大変興味深い。
だが最終的には、ありとあらゆるおよそ学問的探求とは無縁の卑劣な手段も使って追い込まれたカンメラーの自殺と言う結果で真相は謎のまま「事件」は終わるのだが、これで話は幕とならない。 自学派の説が生物の進化を全て説明できる説となりえないことを認識しながら、対立する説の存在を「学問的真理の探究とは全く関り無く」決して許すことをできなかった学会の体質はきっと今でも変わっていないだろうし、それは社会のあらゆるところに極めてよく見られるものだからだ。
つまり全存在を賭けて打ち込んできた自分の学説や研究が他の研究の結果に否定され、それまでの苦労がすべて価値を無くすようなことは、研究者やその学派のアイデンティティに関わる問題であるから、真理や正義・道徳がどうあれ自らの存在証明である仕事の否定を決して受け入れることなどできないという人間の一面の真実の例証のようでもある。そしてこれは、人間の本性として人間は世の中を一本調子に良い方に進めることはできないことの証明でもあるようだ。
ここに単なる学会スキャンダルにとどまらない人間の抱える深い暗蒙を見せ付けられた思いがするが、それがこの本を単なる科学ドキュメント以上のスリリングな読み物に仕上げている。
紙の本
世紀末の夢の行方
2004/09/14 23:30
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
進化論について述べるのは素人には荷が重いが、玄人にとってもやはり難しいだろうと思うのは、往々にしてイデオロギッシュな論争に利用されてきたからだ。進化論解説書にはしばしばカンメラーの名前が紹介されるが、それは常に謎として言及されるばかり。そのタブーにあえて挑戦してカンメラーの業績に光を当てたのが本書。
生活環境を変えて飼育したサンバガエルの婚姻瘤の標本が墨を注入されたものだったというスキャンダルの後に、自殺によって真相解明の道は閉ざされ、ダーウィニズムに反すると言われる獲得形質の遺伝の証明は頓挫した。ここまでが一般的な認識と思うが、これを他の実験の成果も含めて公平な視点で再評価している。
実に興味深い内容であるし、1926年のカンメラーの死後50年を経て関係者の証言や当時の文書を丹念に収集し、補足的な実験まで行った、力の入ったドキュメンタリーだ。
問題は、獲得形質の遺伝というテーゼをどう扱うかなのだが、ラマルキズムの復権めいた表現によるジャーナリスト的な話の盛り不げ具合が、科学が何でも即座に解決できるがごとくの思い入れと相まって、ようするにやや大袈裟。ただしネオダーウィニズムに縛られない、例えばウィルスを媒介した遺伝子の変異などの説も活発な現代の進化論最前線の熱に浮かされるのは共感できる。
そして、ウィーン世紀末から第一次大戦による崩壊へ至る時代に、芸術家肌のカンメラーが余人には再実験のできない成果を上げえた過程は魅力的だ。カンメラーが本当に再評価されるのは、10年後かも100年後かもしれないし、その日は永遠に来ないのかもしれない。しかし誰とも違う着眼点で自分の道を進んで寵児となった生きざまは勇気を与えてくれる。
最後に白状しておくと、僕は今西信者です。