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紙の本
センスにぶっとび
2003/03/20 09:59
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みゆの父 - この投稿者のレビュー一覧を見る
むちゃくちゃマニアックなので、売れないかもしれない。でも、表紙はビジュアル系だし、万が一本屋の店頭で手にとる人もいるかもしれない。でも、一般書としてはかなり専門的なので、途中でほっぽりだす人が多いかもしれない。しかし、だ。
なんたって千年以上も前の、たった一つの資料を読み解き、そこからできるだけの情報を引き出し、当時のヨーロッパで生きた農民の日常生活の実態に迫ろうっていう、その心がけや良し。たった一つしか資料がないんだから、どこまで情報を引き出せるかは、まさに解読者のセンスにかかってる。そして、著者の森本さんのセンスのすごさといったら、もちろんその背後には膨大な学識と努力があるんだろうけど、ぶっとび。
そんな昔の、しかも遠い異国の人々の日常生活を知って何になるんだ、という意見もあるかもしれない。でも「そんな昔の、しかも遠い異国の人々の日常生活」は僕らの生活に無関係だ、と考えるのは了見が狭い。じつは僕らに関係があるかもしれないし、僕らの日常生活を相対化するときの「比較の対象」として使えるかもしれないし、森本さんが展開した解読法をもっと身近な対象に適用できるかもしれないし。
紙の本
新しい酒を古い革袋に入れるな
2011/11/14 20:31
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yjisan - この投稿者のレビュー一覧を見る
893年、カロリング朝西フランク王国下のプリュム修道院(現ドイツ西部)において所領明細帳が作成された。原本は失われたが、1222年にプリュム修道院の元院長であったカエサリウスが筆写したものが現存している。本書は、このカエサリウス写本に沈潜し、その徹底的な分析を通じてヨーロッパ中世初期社会経済史の豊かな実像を提示せんと試みたものである。日本の西洋史学者は国内でしか通用しない「内弁慶」も少なくないのだが、著者は本場ヨーロッパでも著名な西洋中世史の権威らしい。
「個々の文書の真偽鑑定に重点を置き、その作業を通じてする原本の再現こそが史料批判の最終目的だとしがち」な従来の史料学から訣別した、「現在われわれが史料として利用しようとする書面が経てきた様々な姿と実際に果たしてきた多様な機能を、可能な限りその現場で具体的に再現していこうとする姿勢」に基づいて展開される、第1部におけるプリュム修道院所領明細帳の綿密な考証はたいへん説得的。この手法は、西洋史のみならず東洋史や日本史の分野でも積極的に採り入れていくべきだろう。
しかし第1部における先鋭的な史料論を土台に、活き活きと描き出されるはずの第2部「プリュム修道院領の農民経済」の叙述は意外と凡庸というか保守的で、戸惑いを感じてしまう。長らく通説だった停滞論への反発は良く分かるのだが、今時「奴隷制か農奴制か」「領主制説か共同体説か」という議論はあまりに古すぎないだろうか? 貨幣経済や都市に関する理解も古典的に思える。