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商品説明
初めて書かれた後漢の創始者光武帝の生涯! 白水郷のほとりに、とんでもない巨魚が出現。よき前兆と青年劉秀は考えた−。新資料により、光武帝の盛衰を迫力十分に描く書下ろし長篇。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
塚本 青史
- 略歴
- 〈塚本青史〉1949年倉敷市生まれ。同志社大学卒業。日本写真印刷株式会社に勤務、イラストレーターとしても活躍後、作家に。著書に「白起」「呂后」「マラトン」など。
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紙の本
昇竜降竜
2003/08/03 08:01
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
平家物語の「祇園精舎」から「風の前の塵に同じ」までの文章は、よく教科書で暗唱され、お馴染みだ。
だが、この後に続く文章を、御存じだろうか。
「遠く異朝をさぶらうに 泰の趙高 漢の王莽
これらは皆旧主先皇の政に従わず
楽しみを極め 諌めをも思い入れず 天下の乱れん事をも悟らずして
民間の憂うる所を知らざりしかば 久しからずして滅びし器ともなり」
また、ある辞典ではこう彼を語る。
王莽
前漢末の政治家。皇帝を毒殺して新を建国。周礼の制に基づく改革政治を断行して豪族・民衆の反発を買い、劉秀に滅ぼされた。
この一連の記録によれば、彼はこの物語の主人公、劉秀(後の光武帝)が現れるまでのつなぎとして、最初から滅びる、いや、滅ぼされるために歴史に登場したような感すらある。
しかし、建国を志す時、初めから「国をめちゃめちゃにしてやろう」と思う、そんな矛盾に満ちた人はいない。
王莽だって、最初は、皇帝一族の放埒ぶりを目の当たりにして、「これではいけない」と改革に燃えていた。
けれど、彼はどちらかというと学者・官僚タイプ。
そんな彼が頼るのは、現実に生きる人ではなく、古の制度。
状況は微妙に異なるが、現在、学者から政治の世界に転身した或る大臣のイメージを重ねて読んだ。
「学問をそのまま現実社会に適応させる、いい意味でのフィクサーがいればいいのに」と思うのは、現在も古代中国も変わりない。
うまくいかないので、地名変更や貨幣改鋳を繰り返し、それが更に不評を買う。
良い案だと思われた塩と鉄の専売も、役人と商人の結託で悪用される。
やがて王莽自身もかつての為政者と同じ道を辿る。
頼りになる部下を遠ざけ、佞臣を集め、息子達をことごとく排除。こうなると、もう坂を転がり落ちるしかない。
堕ちてゆく王莽とは対照的に、劉秀は、栄達への階段をどんどん登ってゆく。
成功の呪文「妻を娶らば陰麗華」を唱え、心を奮い立たせる彼は、まさに昇り竜。
遂に、1万3000人の兵で、50万の軍勢に立ち向かう。世に言う「昆陽の戦い」である。
多勢に無勢の戦いの勝利者は、信長の桶狭間、三国志における赤壁の例を見て明らかなように、その後必ず躍進する。一人に何人もかかってゆくのだから、数の上だけなら、少数派が絶対負けるはずなのに、そうならない。
そこに見えざる手の存在を感じる。
皇帝にならんとする大望をさして抱いていなかった男が帝位に、というパターン、中国では前漢劉邦、三国志の劉備玄徳など、劉姓の者に結構多い。劉姓は、そういう星の下に生まれているのだろう。
いくら歴史を学んで避けようとしても、必ず失敗する人はいるし、逆にどんなに失敗を繰り返そうと、上り詰める人も、また、いる。
歴史自体が、偶然と必然の二つの竜のようなもの。誰を好み、誰を忌むかは、誰にもわからない。
かつては広大な土地を所有したにも関わらず、最後に王莽が閉じこもったのは、宮殿の中にある池の真ん中の楼閣・漸台。「盛者必衰のことはり」は、むごい末路を彼に用意する。
運命の神に愛された男と、見放された男の運命が交錯する歴史長篇。
あえて事前に歴史を調べず臨んだが、架空の出来事や人物と、実在との見分けがまったくつかなかった。ただ、劉秀なりに苦労しているのだけれど、どうしても彼が棚ぼたで帝位を得たお坊ちゃまに見える反面、本当にどん底から這い上がってきた赤眉の頭目・力子都とその恋人で、曲馬団の擲箭名手・遅昭平達のパートの方が魅力的に思えた。