紙の本
どこで、道を間違えたのかと嘆く前に、原点をみれば。
2020/02/17 16:01
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:浦辺 登 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、「木曽路はすべて山の中である。」で始まる名作中の名作として紹介される島崎藤村の代表作だ。美しい日本の風景が描かれているが、その実、幕末の慌ただしい事件が山深い木曽にまで、どのように及んできたかが理解できる。
嘉永六年のアメリカのペリー艦隊の来航によって、にぎにぎしく、海防に駆り出される軍勢が江戸に下る様子。皇女和宮の徳川将軍家への輿入れなど、その様子が宿場町を通して見えてくる。
外圧が無ければ、つましく暮らす人々の生活は、永遠に続きそうな気配すらある。しかしながら、徳川幕府による治世は、ほころびを見せていた。変革の波に乗じる輩、封建制度を厳守したい勢力との軋轢は、容赦なく、この街道筋の宿場町にも影響を与える。
宿場の本陣を営む一家、その中の青山半蔵が主人公だが、国学の影響を受けたことで日本の姿とは、何かを極めようとする。平田篤胤の国学思想に触れた青山半蔵には、モデルがいる。実に、島崎藤村の父・正樹、その人である。
藤村らしい文体は、実に見事に物事を描写している。風景が目前に現れるかのようだが、実父の平常の生活ぶりを彷彿とさせる文章の流れに、思わず先を急ぎたくなる。
昨今、落ち着かない日々が過ぎる。感染経路が複雑に入り組むコロナ・ウィルスが蔓延するかと思えば、天候不順、利権がらみの政治闘争。本来、人とは、人はどう生きてきたのか、そういう根本的な問題を求めぬまま、「今だけ、金だけ、自分だけ」の行き過ぎた欧米型の資本主義の問題点が露顕している。
良きものも、悪しきものも、すべてが皇国日本に押し寄せる。その諸々をどのように対処するのか、それを考えさせる一書ではないか。明治維新によって徳川幕府は倒れ、新政権は外来の文明を選別することなく、全てを受け入れた。その結果、どのようになったのか。
さらなるトドメは、昭和二十年(一九四五)の大東亜戦争の敗北である。ここで、アメリカ文化を受容せざる得なくなった日本だった。何を得て、何を失ったのか。考えさせられる書である。
紙の本
希望と不安の「夜明け前」第一部(上・下)
2005/05/07 18:09
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
幕末から明治への変動の様子を、父親をモデルにしたといわれる木曾、馬籠宿の当主を主人公に描いた作品、「夜明け前」。第一部は、大政奉還に至るまでの宿場町、江戸や京都の様子を描いています。大きな歴史の変動の中、自らの庄屋という立場をみすえ、そこでの生き方を考え続ける主人公。街道の様子にみられる史料的な記述や、彼を取り巻く人々の描写が、お話しの世界を広く、深くし、小説なのにnon-fictionのような読み応えを感じました。
山で迷い、暗くて押さえつけられたような夜を過ごし、やっと薄明かりがさして来て「これで進むことが出来る」とほっとしてはいるが、どこへ出るのか不安でもある、本当に題名どおりの「夜明け前」の雰囲気で終わる第一部。ここで「大政奉還、さてどうする」という会話の最後に主人公が言う「まあ、賢明で迷っているよりかも、愚直でまっすぐに進むんだね」という言葉が心に残り、第二部ではどうなっていくのだろう、と思わせます。
実は「ふるさと」に描かれた藤村の言葉、馬籠の情景の優しさに惹かれ、子供向けでないものも、と読み始めました。「幼きものへ」「ふるさと」に通うやさしさと、「破戒」に通じる内面の苦悩描写(優しさがある分だけ苦悩も深いのでしょうか)、加えて歴史的な大きな視点、と多くの物が含まれている、やはり大作です。
余談ですが、「・・・・からで。」という書き方が随所にあり、あまり見慣れない文体なので面白いと思いました。藤村の他の作品では気づかなかったのですが、この作品だけなのでしょうか。
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木曽路は全て略
好きです。長野も大好きですv一部の上巻に明らかに桂小五郎だと解る記述がちょっとだけでてきます。ちょっとだけ。
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今回(2009)の選挙で政権交代が話題になっているけど…
この物語の主人公も御一新(明治維新)に自分の理想を見出し、貢献しようとするも明治政府の政策は彼の理想と食い違い、民衆の苦しみをそのままに進んでいく…。
どちらの政党が勝っても国民の苦しみを残して進む政治をしないでもらいたい。
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二部構成、それぞれ上下巻といった島崎藤村晩年の大作。黒船来航の歴史背景において木曽を舞台に織り成される豊かな自然描写、人間描写があまりにも鮮やか。
最近は小説を読んでも読みごたえを得られたり感動したりすることが稀になったが、本作はそれらのうっぷんを晴らしてくれるような一筋の光のような作品だ。
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木曽路は全て山の中なのである。
幕末期の木曽路なら…!という期待は適って新選組という名前が出てきて嬉しかったり。新選組っていったって木曽路通った時にはまだ浪士組だけどね。
この前日野宿本陣を見てきたばかりだったので本陣の仕事っぷりがわかる本書は大変興味深かった。随分忙しかったんだなぁ。
幕末好きなので随分この時代の本は読んだけれど、この小説は田舎の一庶民の目からの幕末観っていうのが良くわかって面白い。ちょっと偉い人が動くだけでもその通行途中の下々のものは大変な思いをするんですね。和宮様ご通行の際には死人まで。たまったものじゃないですね。
この第一部上の時点ではまだ文久3年。これからが楽しみ。
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時代は幕末維新、主人公は木曽路の宿場の本陣・庄屋・問屋を兼ねる旧家の主、青山半蔵。
「天狗党の乱」が描かれている歴史小説としても有名であり、一度は読みたいと思っていた。
幕末維新の歴史小説は概して武士が主人公になるが、この小説では地方の一庶民が如何に当時のイデオロギーに心を動かされてきたか、水戸学、国学の個人レベルでの影響をうかがうことができると思う。
本巻では黒船来航から和宮降嫁、尊王攘夷活発化(天誅)までが描かれている。まだ半蔵は時代の渦には巻き込まれていない。
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「木曾路はすべて山の中である。・・・」書き出しはとても有名です。
教科書にも載っているような有名な作家の代表作品は数多くありますが、正直なところあまり読んでいません。それではまずいということで、機会をつくって少しでも手にとってみようと思っています。さて、今回は島崎藤村の「夜明け前」、1部・2部構成でそれぞれ上下2巻のあわせて4冊。恥ずかしながら、この歳になって初めて読みます。
自らの父親をモデルにした「半蔵」の劇的な生涯を経糸に、幕末から明治初期の世情を重厚に織り込んだ大作です。今の時代、こういった作品を書き込める作家がいるのか・・・、正直、圧倒されました。以前、幸田露伴の「五重塔」を読んだときも感じたのですが、やはり私たちは退化しているように思えて仕方ありません。
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「いつかもう一度読み直してみたい。絶対に手放したくない」
――こんな本です。
日本にこれほど壮大な歴史小説があったのは驚きですね。
【熊本学園大学:P.N.なし】
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歴史に名も残らない、フツーの人視点の幕末~明治のお話です。
島崎藤村の「夜明け前」って、日本近代文学の傑作ってよく言われますよね~
でも、その割りに読む人が少ないんじゃないかな・・・面白いのに。
主人公の若者「俺、学問やりてえ」
パパン(村のお偉いさん)「なん・・・だと」
こんな感じで、エキセントリックな国学者・平田篤胤にはまる主人公。
あまりに急進的な教えのため、幕府の眼が光る!やべえ!
主人公の家は体制側(幕府)なのに・・・どうするんだよこれ
でも御一新により、立場逆転。やったね主人公!
主人公「さあ、神武の世を今に復活だ!」←なんかやばいフラグ立った
どうかな?気になるでしょ?
実際のテーマは「日本人とは何か」らしいです。スケールでかい!
新しいことは、はたして良いものなのだろうか?
混迷の時代の今こそ、読むべき本ではないかな?かな?
あ、有名小説なんで、映画化もされてますね(1953年。古い!)。
この前お亡くなりになった、映画監督の新藤兼人氏が脚色。
あと、あれですね。
ブクログ検索で、「夜明け前より瑠璃色な(けよりな)」からここに来た人。
罰ゲームだ、この本読め。
真面目系少女も登場だ!
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幕末期での長野出身の主人公。
武士ではなく庶民視点でのお話。
生麦事件の詳細も細かく盛り込まれています。
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いやあ、面白いなあ。
「夜明け前」は、その有名な書き出しとともにタイトルは知られているものの、おそらく読んだ人は少ない。
中山道馬籠宿の本陣に生を受けた主人公が、国学に傾倒し、しかし幕末の激動の荒浪に揉まれながら、宿の代表として、困難な舵取りをせざるをえない姿を描く。
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島崎藤村の後期の作品。藤村の代表作の一つです。
2部構成で、岩波文庫版ではそれぞれ上下巻あり、全4冊、その4冊が全て400ページ前後あり、とても長い小説です。
藤村の父・島崎正樹をモデルにした、中山道馬籠宿の本陣の主人「青山半蔵」を主役に書かれた小説で、幕末から明治維新までの激動の時代を描き出した作品となります。
『夜明け前』の"夜明け"とは日本の夜明け、明治維新のことであり、その時代に生きた人々の偶像劇となっています。
"木曾路はすべて山の中である" という有名な一句から始まります。
中山道馬籠宿本陣の当主「吉左衛門」と年寄役の「金兵衛」はこの地に生まれ、宿役人として務めました。
参勤交代の諸大名や日光への例幣使、大坂の奉行や御加番集などが通行する街道に本陣はあり、主人公となる半蔵は吉左衛門の倅です。
第一部上巻の本作では、本陣としての仕事に忙殺される様子や、半蔵とお民との婚姻などが書かれています。
また一方で、国学を学び平田門人となったり、鎖国状態の日本にペリーが来航して、日本自体が大きく激動していく様子が書かれるものとなります。
本書は一部の上巻となりますが、はっきりいって読みにくかったです。
幕末から明治維新にかけてが書かれたほぼ歴史小説なのですが、主人公の半蔵は歴史に大きく関わった人物ではなく、一介の本陣の主人でしかないです。
ペリー来航やそれに対応する老中・阿部正弘、困惑する幕府、ハリスの通商条約締結の動きなど、世界が動く様子が書かれますが、それにより本陣の営業に影響が出ることはあれど半蔵自体がそれら事件に関わるわけではないです。
世界情勢と半蔵の生活が並行で進み、一宿役人が分かる範囲、関わる範囲で世界情勢が変わっていきます。
攘夷の動きには半蔵も関心を寄せますが、一部上巻ではその程度であり、これから大きな何かが起きるという予感がありながら、日々仕事に忙殺される内容となっています。
そもそも私自身がこの頃の日本史に関して人一倍疎いこともあって、少し読んでは調べ物をし、調べ物をしては読み進めて首をかしげるを繰り返していたので、非常に難解で読みにくいものと感じました。
中学歴史レベルの知識を持っている方が読めば、感想が変わるのではないかと思います。
具体的には、一部上巻時点で、黒船来航、ハリス来日、安政の大獄、徳川家茂が将軍となり、生麦事件が発生、攘夷の意識が高まり反幕府派の動きが活発になりつつあるあたりの歴史知識が必要と思いました。
歴史小説というにはその動きが主体になく、基本的には半蔵が主役の小説なのですが、先にも述べた通り、動乱の時代で仕事に忙殺される本陣の主人を書いた話になっており、展開としては退屈な文章が続きました。
ただ、現在一部下巻を読んでいるのですが、だんだん時代と半蔵の日々が交差してきているように感じています。
一部上巻時点では上記のような感想ですが、作品としての面白さは全て読むまでわからないので、引き続き下巻を読みたいと思います。