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商品説明
現実の皮が剝がれたときに見え隠れする妄想幻覚恐怖戦慄神秘奇蹟を、ヒステリーの治療過程に見立てて並べて見せた壮絶作品集。『異形コレクション夢魔』掲載などをまとめる。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
いかにして夢を見るか | 7-16 | |
---|---|---|
夜明け、彼は妄想より来る | 17-34 | |
召されし街 | 35-52 |
著者紹介
牧野 修
- 略歴
- 〈牧野修〉1958年大阪生まれ。大阪芸術大学芸術学部卒。奇想天外新人賞を別名義で、「王の眠る丘」でハィ!ノヴェル大賞、「傀儡后」で日本SF大賞を受賞。
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紙の本
本書は牧野短編の精髄である
2003/11/26 20:03
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:喜多哲士 - この投稿者のレビュー一覧を見る
以前、私は牧野修について「言語感覚の鋭敏さには舌を巻く」と書いたことがある。この短編集を読むと、確かにそれは間違いではなく、それどころかその言語感覚ゆえに牧野修の小説は優れているのだと実感させられる。
しかし、この短編集でそれ以上に感じさせられたのは、身体感覚に対する鋭さである。例えば、「踊るバビロン」である。ここに登場する〈家具人間〉は、痛みというものが理解できない。痛み自体は感じるのだがそれは単に刺激にしか過ぎず、我々が感じる痛みではないのだ。そして、そんな〈家具人間〉に道具のように扱われ身体を徹底的に傷つけられる人間は、その痛みの極限に至った時、なんと〈物語〉を生み出してしまうのである。
言語と身体が一体化するとなると、「逃げゆく物語の話」であろう。書物が完全に記号化され、それがラングドール(言語人形)という形のアンドロイドに形成される。言語統制のためにホラーやポルノのラングドールは狩られることになるのだが、傷つけられた部分からまるで人間の血のように言語がこぼれ落ちるのである。
言語の具現化といえば「インキュバス言語」にとどめをさす。〈インキュバス言語〉を与えられた男の猥雑きわまりない言葉は、世界を変化させ、崩壊させてしまう。身体どころか、この世界そのものが猥雑きわまりないものなのだという本質をえぐり出す。
「或る芸人の記録」では、一世を風靡したが現在は落ちぶれてしまっている芸人が、世界を滅亡させるほど力を持った謎の生命体を言語により笑わせてしまうのである!
本書は、ホラー・アンソロジー、バカSFアンソロジーのために書かれたものを中心としている。そして2編だけ本格デビューする前に発表されたものも収録している。しかし、それらは作家としてポジションを確立させてから書かれたものの間にまじっていても、なんら違和感を生じさせない。文章の硬さなど若さを感じさせるところはもちろんあるのだが。
現実世界に対する違和感、理解できないものを排除しようとする社会への不信。そういったテーマがどの短編にも感じられる。本書は牧野短編の精髄である。『忌まわしい匣』と並ぶ傑作短編集として書棚に並べておいてほしい一冊である。
紙の本
可もなく不可もない
2004/05/25 19:24
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る
結構評判が良いようなので期待して読み始めたが、期待はずれというか、案外可もなく不可もない作品集だった。
一言で言ってしまえば、過不足がなさ過ぎる。
きわめてまっとうなジャンル小説に収まってしまっていて、読めばそれなりに楽しめるのだけれど、それ以上のものがない。
集中面白いと思えたのは「インキュバス言語」。
これは天使を名乗る男から授けられた、世界を再構成できるという言語なるアイデアを核としている。「中年男性の性的妄想」を主体にした言語なるかなりイカれたその言語を習得した男は、自分の発する言葉どおりに世界が変貌していくのを目の当たりにする、という筋書きである。
冒頭から急なスピードに乗せて一人称の饒舌で突き抜ける圧倒的な勢いがあり、一点突破のアイデアとあいまって結構読ませる。その「インキュバス言語」なる言語も独特の文法で面白い。
一例
「最近変態露出が病みつきの淫乱牡犬大槻課長三十五歳は真性マゾ調教焦がれに身をよじらせて『板東く〜ん、ふしだらな露出の穴牡に貴方の極太快楽棒をくださいぃい!』と淫悦肛棒さらけ出して哀願」
といったようなIMEにあまり覚えさせたくない語彙で飛ばし続ける爽快さが核心だ。しかし、このモチーフをもっと面白く展開させるには短すぎるのではないかと思う。面白かったがゆえに、終盤の尻すぼみが残念だ。
他にもいろいろとあるにはあるのだけれど、どれもするっとよめてするっと忘れてしまう。確かに夢や妄想、または身体感覚というのが核心的モチーフになってはいる。そのモチーフは面白そうではある。しかし、それらは小説の素材であるというだけで、そのモチーフについて興味を惹かれるような展開がほとんど見られないと思う。読んでいて、するっと読めてしまうだけで、こちらの感情を揺さぶったり、奇怪なイメージで魅せてくれたりということがなかった。
バカSFとして発表された短篇もあまり面白いとは思えなかった。「演歌の黙示録」なんか着想は飛んでいるけれど、それだけだ。ここまでくると単に自分がこの作者とあわないだけかも知れないと思う。
で、実は一番リアリティのある作品があとがき代わりの短篇「付記・ロマンス法について」だった。
これは、少子化が問題になり国としてのバランスが取れなくなってきた社会において、旧き良き家族を復活させるために恋愛のすばらしさひいては家族を持ち、子を産み、幸せに暮らすという以外の物語が禁止されたという近未来を怪奇小説家を主人公として描いた短篇である。
少し昔なら典型的なディストピア小説としてよくあるものだったのかも知れないが、児童ポルノ禁止法が表現規制に踏み込もうとしていることや、様々な自治体で制定されている青少年健全育成条例の例などを見ると、じっさい笑える話ではなくなってきてる。
この小説では怪奇小説家が規制のターゲットになっているが、現在、ポルノ表現にまつわる仕事に従事している人たちは、この小説で描かれているような恐怖をおそらく肌で感じているはずである。また、作中で「権利」「平和」「外国人」への嫌悪感が広く共有されているという指摘は同感である。自分たちのいる共同体に対する他者、夾雑物を徹底して排除しようと言う心理がそこにある。そこには排除されるものに対する根本的な無関心、悪意があり、自分が排除される側にまわるかも知れないと言う想像が存在しない。その状況に怪奇小説家たる自分を置き換え、書かれたのがこのあとがき風短篇なのだろう。
作品集としては低調だったが、牧野に対して私と同じような感想を持った人が「傀儡后」をほめているし、「楽園の知恵」を好む人は「傀儡后」を嫌う傾向があるように感じたので、「傀儡后」の方は読んでみようと思う。
紙の本
編集部コメント
2003/11/12 09:41
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:早川書房編集部 - この投稿者のレビュー一覧を見る
現実の皮が剥がれたときに見え隠れする幻覚妄想恐怖戦慄神秘奇蹟を、ヒステリーの治療過程に見立てて並べてみせることによって、牧野修氏が自分の脳髄をさらけだした凄絶作品集がこれだ!
語られるのは、夢を見ない理由、死体に似た街、腐敗してゆく自分、地下室で蠢く父、時の王国におわす神、娼婦工場の太った女、演歌と神秘主義の密接な関係、妄想を媒体にする言語人形などなどなどにまつわる十三のエピソード。
それぞれのエピソードは、奇怪な暗喩と残虐な象徴にあふれており、苦渋に満ちた生が運命づけられているわれわれに、楽園に住むための知恵を、そっと教えてくれるはずだ。
『傀儡后』で宇宙的悪夢を描いて日本SF大賞を受賞した牧野修氏が虚空の果てに見いだした、厳格なる十三の知恵を見よ!
カバーイラストは、ひさうちみちお氏。治療過程4段階を描いた、章扉のイラストも必見だ。
収録作品
「いかにして夢を見るか」
「夜明け、彼は妄想より来る」
「召されし街」
「インキュバス言語」
「ドギィダディ」
「バロックあるいはシアワセの国」
「中華風の死体」
「踊るバビロン」
「演歌の黙示録」
「或る芸人の記録」
「憑依奇譚」
「逃げゆく物語の話」
「付記・ロマンス法について」(書き下ろし)