メアリー・アニングの冒険 恐竜学をひらいた女化石屋
恐竜がまだ知られていなかった頃、危険な絶壁から「怪物」の化石を探し出し、ロンドンのお偉い科学者たちに負けない知識と駆け引きで売り込み続けた化石掘りメリル・ストリープ主演『...
メアリー・アニングの冒険 恐竜学をひらいた女化石屋
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商品説明
恐竜がまだ知られていなかった頃、危険な絶壁から「怪物」の化石を探し出し、ロンドンのお偉い科学者たちに負けない知識と駆け引きで売り込み続けた化石掘りメリル・ストリープ主演『フランス軍中尉の女』のモデルとなった女性の生涯。
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神格化のヴェールを脱いでも輝かしい「フォッシル・ウーマン」
2004/02/28 15:32
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:べあとりーちぇ - この投稿者のレビュー一覧を見る
忘れられない本がある。小学校何年生の時だったか、クリスマスの朝、1歳下の妹の枕もとに置いてあったヘレン・ブッシュ氏の『海辺のたから』。自分の本を読み終わったら取り替えっこして2冊分楽しむのが姉妹の習慣だったのだが、この本には、もらった当の妹よりも筆者の方が夢中になってしまった。
世界で初めてイクチオサウルスの全身化石標本を発見した13歳の(『海辺のたから』では11歳)メアリーは、筆者にとっては英雄だった。学研の「科学と学習」を愛読していた理科好き少女に、彼女は「科学する姿勢」とは小さな疑問も疎かにしない好奇心と、日常のたゆみない地道な努力に支えられているのだということを教えたものだった。結局あれからン十年経った今も、『海辺のたから』は筆者の手元で大切にされている。
そして本書は19世紀イギリスに実在した地質学・古生物学者(彼女は生涯いかなる学会にも所属できなかったが、あえてこう表現する)のメアリー・アニングに関する世界初の本格的伝記である。化石に興味があってメアリー・アニングの名を知らなかったらモグリ、と言われるほど有名な彼女だが、その功績にも関わらず公式の記録はほとんど残っていない。
その理由はメアリーが女性で、貧しい階層の出身で、きちんとした初等教育を受けることさえできなかったからである。父親を亡くした後、彼女は洗うがごとき赤貧を多少なりとも何とかするために、地元で産出する化石を掘り出してはみやげ物として売った。「食うために」化石発掘に携わったメアリーは、お偉方の学者たちからは一段低い者として扱われがちだった。最初のイクチオサウルスの全身標本にしても、頭の部分を最初に見つけたのは兄・ジョゼフだったからという理由で、メアリーは死後100年も経ってから「世界初のイクチオサウルス発見者」という称号を剥奪されることになる。
当時メアリーと交流した人々の残した手紙や、メアリー本人の数少ない直筆の書類からは、ちょっと信じられないような地質学・古生物学への深い造詣が読み取れる。最適なタイミングと最適な土地に産まれついたラッキー・ガールだったとは言えるかも知れないが、それにしても独学でここまでたどり着いたメアリーの研究心には恐れ入るしかない。
論文を発表することこそできなかったが、彼女は化石を観察して分類するだけではなく、太古の生き物と現存する生物との解剖学的な差を調べるために、イカやエイを自分で解剖することさえ試している。コプロライト(糞化石)の重要性についても、彼女はかなり早くから注目していた。それらの観察が実に的を射ていることは、「お偉方」たちが自分の研究成果として発表した論文からも明らかである。最晩年の彼女は、「生物の変移」について触れている。これは突き詰めて考えるとダーウィンの『進化論』にさえ行き着く先進的な意見だったのだ。
一般的には11歳と誤解されているが、わずか13歳で「クロコダイル」を掘り当てた貧しい少女とか、科学にその身を捧げたフィールドワーカーとか、メアリーは多分に神格化されて語られることも多い。筆者のメアリー像もそんな感じだったが、本書によればどうしてどうして、彼女はそれだけではなかったようだ。膨大なデータの積み重ねから得た知識を武器に、階級的に遥か離れたお得意たちと丁々発止と渡り合い、「商品」の学術的価値を積極的に売り込んだ。自分の説をさり気なくセールスの手紙に添えたりもしている。
したたかで生真面目で、自分の不遇についてもかなり不満だったらしい。そんな彼女の姿に幻滅するどころか、筆者はますますメアリー・アニングに惚れ込んでしまった。本書からは学者としての、人間としての、生身の姿が垣間見える。「いつかライム・リージスへ行って、メアリーの化石を見てみたい」という子供時代の憧れの気持ちも、久方ぶりに発掘されたのである。
さながら冒険小説である。少ない資料から謎が解かれていき、遥か昔のメアリー・アニングが「発掘」されてゆく。
2012/03/02 08:36
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アヴォカド - この投稿者のレビュー一覧を見る
ダーウィンの『進化論』の約200年も前のことと言うから、まだ天地創造が信じられていた頃。
イギリスの片田舎で多くの化石を発掘し、研究に多大に貢献し、しかもそれをビジネスにもしていたメアリー・アニング。
しかし階級社会にあって労働者階級に属し、しかも女性であった彼女のことは公的な記録には残されておらず、古生物学界でもあまり知られていなかったという。
「地の塩」という言葉がある。そもそもは、神を信じる者は腐敗を防ぐ塩のように社会の模範たれと、模範のたとえの意味と言うが、もっと解釈と広げると、名もなき良き人々のことかな、と思う。
華々しい発見や成功の影に、光の当たることのない、名もなき人がいる。きっとたくさんいる。
知られざる彼女に焦点をあて、彼女を追いかけていったこと自体が「発掘」である。
その筆致はさながら冒険小説のようにスリリングで、どきどきハラハラする。
そう言えば、いつぞや瀬名秀明さんがこの本のことを語っておられたことがあった。
また、ジブリが狙っていたことがあるという話を聞いたことがあるような気もするが、そしてもしそれが本当なら、なんともぴったりな素材ではないか。