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商品説明
【島清恋愛文学賞(第11回)】26歳の青年・潤一。誰とでも寝る男、生来の自由人、糸の切れた凧のような人生を送る男、そしてどこか憎めない…。62歳から14歳までの9人の女たちの人生を、潤一を軸にして綴った連作短篇集。『ウフ』連載を単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
井上 荒野
- 略歴
- 〈井上荒野〉1961年東京生まれ。「わたしのヌレエフ」でフェミナ賞受賞。著書に「もう切るわ」「グラジオラスの耳」「みずたまのチワワ」など。
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紙の本
注入屋潤一
2004/06/22 10:06
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:13オミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
最後の潤一の章はなくてもいいと思う。潤一の行動原理はすでに9つの章で立証済み。彼に語らせて彼の頭の中を覗いて見たってなんにも出てこなかったじゃないか。
潤一と9人の女性との出会いから別れ。潤一は簡単にセックスするくせにそのうち3人とはえっちしてないんだなあ。ここに彼の行動原理の一端を見ることができる。そして、千尋の章で「あなたは、いつもこんなふうなことをしているの?」と問われたときの答えの中にも彼の生き方が出ている。
表面的に見ると最年少瑠依14歳が考えた「あたしのことも、自分のことも、こいつ何も考えてないんじゃないか」という指摘は正しい。彼女が学生だからこういうところにまで思考が至ったのだろう。20歳以上になると、生活することでいっぱいいっぱいだからねえ、人は。
一生懸命というのは自分や他人が納得するように説明するという性格をもつ。そこでは何らかの事情はあるにせよ、論理的妥当性が存在することを説明しなければならない。そうすると必ず、自分がこのままじゃダメだとか。もっと頑張んなきゃとか。考える。そんなときふと「なんか生きるのって面倒だな」「死にてぇ」と思う。狂おしいほどの自殺願望ではなく「死んだら何も考えなくていいんだろーなー」という憧れに似ている。普通、人は生活がうまくいっているときにはそんなことは考えない。登場する女性たちはなんとなくこんな思いを抱え始めている。そこに潤一の登場である。
おそらく何人かの登場してくる女性は1年前に潤一と出会っていたら、全く彼に心惹かれなかったかもしれない。タイミングがよかったのだ。女性のエネルギーが枯渇しているところに、突如として現れセックスでエネルギーを注入してやる。これによって女性たちは「死にたい。死のう」という虚無に陥らないで済むのだ。しかも、エネルギーを充填しすぎることはない。ころあいを見て去っていく。そうしないと潤一自身の身が持たないし、未来には何人もの女性が待っているから。ということで潤一は神の子としての役割を果たしていく。おそらく彼は触媒だろう。だからろくでなしでもいいのだ。
相手が男性だとこうはいかないだろうなあ。潤子っていうので、潤一と全く同じことをすると、男たちは「なぜ? どうして?」って絶対追求するからねえ。それに挑戦してみてほしいな。
紙の本
何の役割も要求せず、「女」であることだけを無条件に認めてくれる美しい男が、女にとって魅力的でないわけがない
2004/05/23 23:04
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:とみきち - この投稿者のレビュー一覧を見る
気持ちを封じ込めることにあらがい、性欲を封じ込めることにあらがい、決めつけられた役割に息苦しくなる、そんな女達が潤一に吸い寄せられるさまを描く荒野の筆は冴えている。
連作短編集である。14歳から62歳までの9人の女性が、潤一との出会いを語る。そして最後の一編は、26歳の潤一の一人語り。潤一を描いているようで、描かれているのは女性の内面であるという構図は、荒野の特色だろう。
誰もが潤一と偶然に出会い、ほとんど理屈なく潤一を欲しいと思う。潤一はそれに応じ、短いかかわりを持ち、去っていく。潤一は一人の人間として描かれているわけではない。自分を確かめたい、自分の足りないところを補ってほしい、自分の空虚な隙間を埋めてほしい、何に向かっているかわからない焦燥を受け止めてほしい、そういう願望を持って女達が潤一に、それが運命であるかのように近づき、大概は性的関係を持つ。互いのことは、最初から最後までほとんど何も知らないまま、束の間の時とベッドをともにして別れていく。
女達は、潤一に主張すべきアイデンティティーがないことを、本能的に察知する。潤一が「女らしさ」や「母親としての貞節」や「恋人としての愛らしさ」や「従順さ」など一切求めないことをも、本能的に察知する。大概の男がこだわっているような「メンツ」や「プライド」なんて何一つ持っていないことも、察知する。自慢話もしないかわりに、こちらのプライバシーにも一切立ち入らないことも、好ましい。目が合って、「私たち、寝るんだわ」と自然に了解するだけ。誘ったり誘われたりの手練手管も、面倒な手続きも何一つ要らない。必要な時にそばに来て、不要なことはしゃべらずに、あとくされも何もなく去っていってくれる。
こういう構図はどこかで見たことがある。そう、男と女をさかさまにしてみれば、掃いて捨てるほど描かれてきたような男女の関係だ。意味を求めない、役割を求めない、束の間の関係。こういう関係で一番大切なのは、潤一のからだも、太極拳を舞うその動きも美しいということ。
この小説を「すごく面白い」と言う女性読者が多いのは、うなずける。何の役割も要求せず、「女」であることだけを無条件に認めてくれる美しい男が、女にとって魅力的でないわけがない。
紙の本
誰なんだろう、そのひとは。
2004/04/26 21:10
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オクヤマメグミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
潤一、という名前にひかれて手に取った。
彼を巡る9人の女たちの物語。最後に潤一個人の物語が綴られている。
9人のあらゆる年齢層の女たちをひきつける謎の男・潤一。
一体どんな魅力的な男なのだろうと読み進めてみたが、彼はとりわけ特徴のないろくでなしだった。
水のように心のスキマに入ってきて、するりと女たちの中を潜り抜けていく。
特に何も残さない。残らないのに、女たちは満ち足りた気分になるのだ。
一瞬の恋心でも、単なる性的欲求でも構わない。そのとき確かに、潤一が欲しくなるのだ。永遠なんていらないから。
あまりに自然すぎて、余韻もないほどだ。
なのに遠くの景色に彼を探してしまう。
通り過ぎた男。
そんな形容がぴったりだった。