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紙の本
どこか手塚治虫の古い漫画を見ているような、そんな気がする。でも、もしかすると深いものがあるんじゃあ、なんて思わせるところがあったりして
2005/03/02 20:28
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投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
清水義範が化けた、というほどの作品を未だ書いていないのは、間違いない。しかし、いつか化けるのでは、と予感させる作家の一人であることは事実である。だから、図書館を覗くと、彼の作品がある棚は、一応チェックすることにしている。『二重螺旋のミレニアム』という本は、かなり前から気になって横目で眺めていた。そんな本は、あっという間に文庫化してしまった。
「有能な技術者が刺殺された。担当刑事は、愛人関係にあった女性を追跡するうち、彼女の存在自体に疑問を抱く。そして、若さを追い続けた彼女の究極の美容法を知ったとき、事件の驚くべき真相が明らかになる。限りない繁栄と技術の発展を遂げた人類は、絶滅するしかないのか。近未来で我々を待ち受ける恐怖を大胆に描いた予言小説。」
解説は北村龍平。2000年にマガジンハウスから出た『二重螺旋のミレニアム』の改題文庫本ということで、その経緯は、作者のあとがきに詳しい。たしかに、ミレニアムなんてことばは、あの2000年騒ぎを過ぎたら、誰も口にしなくなってしまった。マスコミの威力というか、日本人の節操のなさというのは、相変わらず凄い。
全10話。人類は絶滅するのか、するとすればそれはいつのことなのか。絶滅の理由とその様子は、第一話「いかにして人類は絶滅すればよいのか」。以下、高層ビルの地下室で、エア・チューブの切れ目に頭を突っ込んだ男の死「ブレインエイク」。学校に顔を出さない友人、心配して家を訪ねた男が見たものは「ビリー・ミリガン・ゲーム」。
バーチャ・ペットと暮らす老人が入居した老後生活補助コミュニティ「やすらぎのホーム」。彼女が恋人から、僕の子供を産んでくれないかといわれて「ゲノムのすりきれ」。雷に撃たれて死んだという友人。かれは禁断の竜の森に入ったというが「ヴィレッジ」。有能な技術者の死と、彼を愛していたという老女の失踪「フェードラ」。
アメリカの製薬会社が開発した抗精神薬。その密輸をめぐって「こんなんじゃない別の自分」。殺人現場から持ち去られた奇怪な魚「ステロイド・ウォーズ」。一人の人間が死んだ。その時からあるプログラムが勝手に起動し始めて「誕生」。それに、文庫版へのあとがき、北村龍平の解説「達人のたたずまい」がつく。
北村の解説で、思わず肯いてしまうのが「SFと言うと90年代にサイバーパンクが登場し、造語とかルビにこだわりだしてから急速につまらなくなったジャンルという印象がある」というくだり。なにもSFだけではない、現代美術、現代音楽、そして現代哲学。彼らが受け手を無視し、完全にオタク化して自閉的になった時、そのジャンル自体が死滅したといっても言い過ぎではない。でだ、北村は清水を、それを理解し、そのような愚を犯さない作家と位置づける。
そして、その印象を「分かりやすさ」ということでまとめる。それも正しい。少なくとも、この作品は、そうとしかいいようがない。ま、それが私をして「清水は未だに傑作をものしてはいない」と言わせる。化けるというのは、ある意味デジタル的にレベルを超えることで、それは決して「分かりやすさ」の中からは生まれてこないからである。
しかし、一見、手塚治虫の漫画風なありふれた物語に、赤い糸のように登場する何人かの人間に気付くと、そしてそれが最後の話にまとまると、あれ、これって結構、深いかも、なんて思わせるのである。やはり、清水は只者ではない。では、どんなものかと言われれば、化ける、の卵というのが一番だろうか。