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収録作品一覧
人斬り彦斎 | 今東光 著 | 7-191 |
---|---|---|
喪神 | 五味康祐 著 | 192-211 |
一刀斎は背番号6 | 五味康祐 著 | 212-242 |
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紙の本
美しくもなき人斬り稼業
2008/12/13 16:04
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
今東光と五味康祐の合本。
今は「人斬り彦斎」勤王志士で、人斬りとして恐れられたという人物、佐久間象山を斬った男。肥後細川藩士で、元は茶道をもって仕えたのが、独学で剣技を磨き、突如脱藩したという。佐久間象山は信州真田家臣、蘭学で大きな影響を与えた人物だが、公武合体論を唱えたことで勤王派に目をつけられた。このような人物を暗殺することが国のためによいわけがないのだが、血気にはやった若者達には勤王という目的と手段の取り違えも分からないわけで、ただ実行者だけが行為の結果におののく。象山を斬って京を落ち延び、長州の奇兵隊に身を寄せて、長州征伐も体験する、その流浪の中で茶人としての感興を深めていく。こういう志士にしろ人斬りにしろ是とも非とも言うのは詮無いことだが、一つの人間の精神遍歴として苛烈な印象を残す。
これを執筆した頃の今東光は、菊池寛との対立などで文壇を去ってしばらく経ち、河内で住職を勤めながら執筆を再開し始めた頃で、放浪の中で生まれるものへの撞着があったのだろうか。京での酒色の暮らし、命がけの逃亡、幕軍との角遂、新撰組との対立など、この道筋でなければ経験できないことがあり、また様々な一人称視点など、小説という形でしか表現できないことを追求しているように思える。
五味は「喪神」「一刀斎は背番号6」は有名として、「指さしていう-妻へ」は売れる前の苦しい生活の中での妻との結婚前後のことを書いたもの。登場する「私」は社会不適応者のように描かれ、実際に相当気持ち悪い人物に見える。文学のために他のことを犠牲にする、それ以上の駄目人間だが、それが「喪神」で芥川賞を取り、「柳生」で超人気作家になる、その経緯までは書いてないが、古い美意識に固執して戦後文学の流れに取り残されながら、それが却って時流を掴んだ作品を産んだ、奇妙な皮肉には感ぜざるを得ない。「魔界」もまた、自殺した川端康成をくさすだけの下品な文章で、だがその下品な自分が、人間川端を愛したということではある。堕落とか無頼派と言うにも未熟すぎる思想と、完成度の高い文体のアンバランスさ、そのこと自体が読者の中に、熱いうねりをもたらすような、危うい魅力がある。
この「近代浪漫派文庫」というシリーズで、今と五味が一冊に収められるという意図は一切書かれてないので(単なる年代的切り分けか?)、この本全体が何なのかは判別し難いが、貴重なのでとりあえず買っとけ(読んどけ)ということは言える。