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商品説明
お江戸の粋な名親分、からみに絡んだ謎を解く! 貸本屋の急死で、全10巻の読本が忽然と消えた。続きが読みたい私は、この本の秘密を探ることに…。宝引の辰が活躍するシリーズ。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
泡坂 妻夫
- 略歴
- 〈泡坂妻夫〉家業の紋章上絵師の仕事を継ぐ。「DL2号機事件」で幻影城新人賞佳作、「乱れからくり」で日本推理作家協会賞、「折鶴」で泉鏡花文学賞、「蔭桔梗」で直木賞受賞。
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紙の本
枯淡、なんて言いたくないけれど、今までの本に比べると文章の密度という点では、一番軽いかもしれない。でも、読み返すと、唸ってしまう。いつまでもお元気で、泡坂さん
2004/10/23 07:08
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
いつまでも元気でいて欲しいなあ、と思う作家の筆頭が泡坂妻夫。勿論、年齢も加味してのことだ。で、カバーを見ただけで、あ、やっぱり泡坂さん、この本も手がけているんだ、と思わせる意匠。紋、というのが正しいのだろうけれど、私などはエッシャーか何かの現代的なデザインの延長で見てしまう。今回は、ちょっと色の濃さが違う赤い線が、普通ならばボケてしまうところを、そう感じさせないところが偉い。勿論、日本的な臭いがプンプン。装丁は関口聖司、意匠は、繰り返すけれど泡坂妻夫。
景が松吉の前でお師匠さんに返そうとしたのが、立木屋高枝という戯作者の書本「鳥居の赤兵衛」。景が廻した銭独楽は眠ることもなく笑い始める。その原因というのが心棒の狂い。作り変えようと貼り合せた銭を崩すと「優曇華の銭」。私の長屋に現れたのは白山御殿跡の主人の用人だった。迷子の少年の親を探す男は「黒田狐」。
自分の過ちを認めようとしない講釈師と無地染の紺屋。二人の間をなんとかしようと思いついたのが「雪見船」。毎年、六月朔日は富士浅間車の祭礼。辻宝引の男の前で人間が消えた「駒込の馬」。丹波屋の大旦那が亡くなった。死因は毒と書かれた土瓶の中の酒「毒にも薬」。妻沼に向かう宝引の辰と松吉の二人連れ。荒川大橋のところで馬が手綱を振り切って「熊谷の馬」。蔵に鼠が出た、それも何万と言う数の。大きな話にも慣れた茂吉との馬鹿話が「十二月十四日」。
誰が語り手か、というとちょっと見えにくい部分がある。登場人物を紹介しておけば、一番出番が多いのは、サブタイトルにも名前を見せる探偵役の宝引の辰ではなくて、意外や、その子分である松吉というのは、ワトソンの役得とでもいうのだろうか。それから、後半になって顔を見せなくなったのが、辰の娘で読書が好きな景。それに辰である。
今回の話の特徴は、犯人についてはどれも途中で何となく分かってしまうこと。WHOではなく、HOWでもなくてWHYが主題だといってもいいかもしれない。面白いのは、馬に関する話が二つあること。「駒込の馬」と「熊谷の馬」がそれで、どちらもあっけないとは思う解決だけれど、個人的には「熊谷の馬」が好きである。
好き、という点では季節が分かりやすい「雪見船」が一番。臍を曲げた老人というものが、どんなものであるのかが良く分かる。時代を感じさせると言う点では、「優曇華の銭」だろうか。清々しい若人の姿というのは、いつ見てもいいものである。会話が楽しいのは、「十二月十四日」。こうやっていいところを書き出せば、全部になってしまう。
でだ、最初に泡坂の年齢のことに触れたけれど、今回の話、今までの泡坂作品ほど鮮やかさが感じられない。何だか、一筆書きでさらりと書いた、そんなものである。だから、駄目かといえば決してそうではない。枯淡などというと訳知りみたいで嫌だけれど、そういう自然さが、好ましい。そういえば、健在振りを見せてくれた土屋隆夫の作品にもそういう印象があった。いい老い方をされているなあ、それが私の思いである。