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商品説明
負けてばかりの劉邦が天下を取ったのはなぜか? 天職につくのはほんとうに幸せか? 「思考を鍛える道具としての漢文」を読み、21世紀の諸問題を考えるための論説力を鍛える。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
加藤 徹
- 略歴
- 〈加藤徹〉1963年東京生まれ。東京大学大学院で中国文学を専攻。広島大学総合科学部助教授。嘉藤徹のペンネームで小説も執筆する。「京劇」でサントリー学芸賞を受賞。
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紙の本
世界、いたるところに学ぶものはある。
2006/08/01 15:35
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「漢文力」とは「漢文を読み、そこに展開している古人の思想を追体験することによって身につく力、歴史や宇宙など、より大きな時空の中に自分を位置づけ、明日を生き抜くための設計図を描く力」とあります。各章、幾つかの漢文の例文を題材に、漢文の基礎知識というよりも描かれた世界を説いていく形になっています。筆者の大学での講義内容を下敷きにした、とあとがきにありますが、随分「楽しい」授業なのでしょう。「中国文学の世界」という講義だそうですが、漢文の基礎知識よりも人生論、世界観の講義、といった感じがします。
装丁は南伸坊さん。表紙の陶器人形になにか見覚えが、と感じたのは、中国古典の怪異譚を漫画と楽しい文でまとめた伸坊さんの「李白の月」の表紙の陶器人形と似ているのですね。伸坊さんのコレクションの一つなのでしょうか。
漢文には確かに沢山の智恵が書き残されています。著者も引用するように、マルクス・アウレリウスやプラトン、シェークスピア、日本の俳句や寅さんまで、それらは世界中のいろいろな文化の中にも捉えられている深遠なものだ、ということを本書は楽しく教えてくれます。個人的に私の気に入っているブレヒトの戯曲からの引用もあり、ちょっと嬉しくなるとともに著者の読書範囲の広さに驚きを感じたりもしました。
文中の何箇所かに金子みすヾの詩が引用されているのは、著者が特に傾倒するところがあるのでしょう。ある詩には「あの世の有無について、古今東西の学者の幾千年にわたる論議は、結局、次の詩にとどめをさすのかもしれません。」と最大級の賛辞がつけられています。ここまで書かれますと、著者の「漢文力」という定義から延長すれば「明日を生き抜くための設計図を描く力」は「和文力」でも「英文力」でも「金子みすヾ力」でもよいような気持ちになってきます。
世界いたるところに、もちろん「漢文」にも明日を生き抜く力が読み取れる。
「漢文」には世界の智恵が詰っているということにはとても賛成です。でも、この本は「漢文」を直接(あるいは日本的な工夫をして)読む価値を説明し切れてはいないのではないでしょうか。「漢文」を読むことでの思考訓練をこの本の目的としたと著者は書いています。「和文脈は叙情的で、漢文脈は論弁的で、欧文脈は分析的」という言葉から類推すれば、著者は現代日本人の「論弁的」なところの不足を訴えているのでしょう。では何故「和文脈は叙情的で、漢文脈は論弁的で、欧文脈は分析的」であり、「漢文」のどんなところがどのような「論弁」の「思考訓練」に向いているというのでしょうか。前提となるこのあたりの説明をもう少しするかまたは参考文献を示すかして納得させて欲しかった気がします。
「漢文」を平易な日本語に訳して読んでは得られないものがあるからこそ、著者はこのような本を著して「思考訓練」することを訴えているのだと思うのですが、根底のこの部分がはっきり書かれているわけではないので、どうもすっきり納得できないままです。根拠についての書き手の「論弁力」に期待したかった、というのは読み手の技量不足かもしれないことを恐れつつ読み終えました。