紙の本
世間とのギャップが世界を異形に変える
2005/03/15 14:05
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:せどり三等兵 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本ファンタジーノベル大賞はその名前から連想するイメージと受賞作品の傾向がズレていると感じるのは私だけだろうか。私は国産小説に対して使われる「ファンタジー」という言葉からは、なんだかメルヘンなお花畑のような、エルフやドワーフ、剣や魔法などをイメージしてしまうのだが、この賞にてそのような作品は少ない。もっとも、この賞は懐が深く一概に「この賞の受賞作品はこういう傾向だ」なんてことは言えないのだけれども、少なくとも本書と一般的に「ファンタジー」という言葉から連想されるイメージとはズレがあるように思う。
しかし、本書はどのような作品なのか?と聞かれれば、やはり「ファンタジー」と答えざるを得ない。ただし、この場合の「ファンタジー」は言うなれば、広義のファンタジーであり一般的に思われている直球ど真中のファンタジーではなく、レイ・ブラッドベリやガルシア・マルケスやH・P・ラヴクラフトなどの作品に対して使われるような「ファンタジー」であろう。つまり国産小説の「ファンタジー」ではなく、海外の一部の幻想文学について充てられる「ファンタジー」である。
そういうわけで、本書は普段から海外文学を読んでいるような人、本棚に翻訳物の国書刊行会や早川文庫が並んでいるような人こそすんなりと読めるのではないだろうか。
本編は主人公視点での物語となっている。だから、主人公が知り得ない情報は描かれていない。一章にて登場する「アレ」の正体は本文中では明かされないし、ファンタジー担当の他のキャラクターや小道具に関しても曖昧なままに置かれる事が多々ある。拡散させたまま放置されるそれらのキャラクターや小道具が物語の雰囲気を決定付け、全体に暗く不気味な空気を漂わせる。同時にその曖昧さが解釈の幅を広げ、読者によってはそこらの純文学顔をした作品よりもずっと深く広い世界を得られるだろう。
本書はエンターテインメントといよりはむしろ純文学的な性質を持たせた作品であると言える。そういう意味では本来読むべき人には知れ渡らずに忘れ去られる危険性がある。「国産のファンタジーなんぞに興味は無いよ」という方にこそ読んで欲しい1冊だ。
紙の本
一つ一つの文章は、良く出来ていると思うのだが、異様である。これがファンタジーなのだろうか?。
2005/09/11 19:37
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
なにがどうなっているのか、良く分からない。これが、日本ファンタジーノベル大賞受賞作品なのか。これがいったいファンタジーなのだろうか。違和感を感じる。一つ一つの文章は、良く出来ていると思うのだが。異様である。日本SF大賞受賞作の傀儡后を読んだ時と同じような印象を受けた。粘液質、偏執狂的内容に思えてならない。このような内容のものが最近は受けがいいのであろうか。無力な子供達を襲うような異様な犯罪が増えてきていることと、対応しているのであろうか。私自身が年を取り、ついて行けなくなってきたということだろうか。
何故このような思いに捕われるのか。ともかく説明不足なのである。登場人物、登場する異様な生物、それらの間の関係、主人公がおかれる状況、その場面転換、それらの全てにおいて、説明が足りない。読む側は欲求不満になる。それが作者の文体であり、狙いなのかもしれないが。それらに絡む謎の一つ一つについて、続編を書くつもりなのかもしれない。
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〈68年生まれの誇り!〉すごい! この得体の知れ無さ、奇っ怪さ、居心地の悪さ。新人といっても僕と同い年で全然若くないけど、こんな作品を書く人が出てきて、勝手ながら誇らしく思う。ただ現実に吹き溜まっているだけなのに、いつのまにか非現実が侵食してくる不気味さ、悪夢を見ているようでもあり、逆に覚醒させられているようでもあり。でも嫌な読後感はなし。すばらしいです。
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ストーリーで読ませるというより、現実と幻想の入り混じった不思議なリアルさが魅力。抑えたタッチで描き切っておりみごと。
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何とも言えない不思議な読み心地。まるで、夢の中と現実をさまよっているような得体のしれない感覚はくせになりそうでもある。
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ファンタジー小説大賞受賞作ですが、剣とか魔法とか、そういう“いかにも分かりやすい”ファンタジーではなく、そこはかとなくファンタジー…そういう作品だと感じました。漠然と。
世界設定や時代背景、そういうものが全く説明されていないので何も分かりません。そもそもこの舞台が地球なのかすらハッキリしません。でも読み進めるのが苦とか、面白くないとかではないんですよね。読んでいる最中はむしろ心地良かったです。それがなぜだかは分からないんですけど。
うーん、これ以上は書けません。ハマる人はハマる作品だと思います。私は…どうだろう。
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第16回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作です。ものすごく暗い、ねっとりとした空気を持つ世界観が魅力的。
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僕は常に正しく行動している。姉を犯そうとした「アレ」は始末されるべきだし、頭の足りない無礼なヤンキーが不幸になるのは当然だ。僕のせいではない。でも、なぜか人は僕を遠巻きにする。薄気味悪い虫を見るように―。
カフカ+マルケス+?=正体不明の肌触りが、鈴木光司氏の絶賛を浴びた異形の成長小説。第16回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。
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ファンタジーと言うよりも。。。
なんだか、ホラーっぽいというか、なんだか、不思議な物語でした。
冒頭から、不思議な生き物が家の中を徘徊してて、
何これ?!。。。と思いきや、
どんどん、話は別の物語へと進んで行くし。。。
????とは思いつつ、途中でやめられない。
怪奇な世界へずんずん引き込まれてゆくのです。
何か、スッキリしない読後感ではあるけれど、
いろいろ楽しめたから、まっいっか。
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こんなに気持ち悪くて、こんなに理解できなくて、こんなにイライラする小説は初めてでした。日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作は二度と読まないように気をつけます。
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のっけから読み者を引き込ませる「アレ」の生態。「アレ」とは何だろうかという疑問がまず読み手に去来する思いではないだろうか。「アレ」とは主人公にとっての「アレ」であり、それは憎むべき存在であり、家族は存在そのものすら認めていないということを手がかりに読み進めていく。
そして章を重ねる毎に「アレ」(=黒い染み)が主人公にもあるのだということが読み解かれていく。その手法はとても面白い。また、各章の終点と始点の微妙なズレがこの世界観を表しているように感じた。カフカのそれとは違い、きちんとエンターテイメントしている。
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不気味な雰囲気は良かったのです。タイトルも、また設定も、聞けばエログロ嗜好が疼き出すものです。しかしものの見事に内容を憶えてません。内容を忘れるなんてそうそうないのですが……。
ファンタジーノベル大賞受賞作です。
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日本ファンタジーノベル大賞受賞作品。個人的に好きでした。
作者の作り出す世界が絶妙でたまに染み込んでくる不可解で非現実な世界が素晴らしい模様を作っている気がします。
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各章の途切れ方が短編っぽくもありながら、先を急ぐ手を止められないという長編の魅力もある。でも序盤に出てきた、私がこの世でいっとう苦手なスカトロジー描写に一時は心が折れかけたのも事実。言うなればホラーものが苦手なのに誰よりも率先して怖いものを見たがる、例のマゾじみた嫌悪と同じなんだけど。それは。
こういう限りなく現実世界と近い場所に引かれたパラレルな直線上にあるファンタジーは、しばらく人間不信の気持ちを起こしてくれるからやっぱり好きだなー。結局は生きてる人間が一番怖いっていう、お約束。
そういえばこのエロとグロの書き方からして女の人なんだろうなあ、と勝手に思い込んでいたら男性作家なのだと先ごろに知ってびっくりした。
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何をしていても僕を追ってくる「黒い染み」、逃げ場はどこにも、ない―。
“僕”は姉を守るために“アレ”を始末し、家族と離れ施設に入れられる。
やがて辺境の地に流され、過酷な日常と我慢の日々を過ごしていく。
カフカの「変身」を日本という閉鎖的な環境で長編にトランスレートしたような作品。それでいて恒川光太郎の「雷の季節の終わりに」にあるロールプレーイング感。
行き付く場所も安らげる場所も、逃げ帰る場所もない長い長い旅。
主人公である“僕”の主観で語られる本書では“アレ”についての詳しい記述も“次の奴”に関する更なる情報も特にない。
人伝に聞いた話と、おそらく20代であろう主人公の見たままの景色が淡々と綴られていくだけだ。
物事の輪郭はどこか朧げであり、残酷なまでにリアルである。
“僕”の認識が誤っている部分もあるかもしれないが、それが“僕”の見る世界の全てで、この歪んだ世界の全てなのだ。
“僕”の両親が過去に何があったのかは描かれていないが、その血を引く“僕”と姉の辿る運命を見るに、決して消えない“痣”を残していることは確かで、その周囲を取り囲む異質な人間関係も断ち切ることの出来ない呪いである。
たったひとり、それに抗おうとした“僕”の物語は一旦の終息を迎えるが、これから先に向かう地が、彼にとって喜ばしい場所であるのかどうかはわからない。
変わってしまったのは自分なのか、周囲なのか。
グレーゴル・ザムザが見た世界を“僕”も辿っていくのだろうか。
そう思うと悲しくてやり切れない。
平山瑞穂 その他の著書
・忘れないと誓ったぼくがいた
・冥王星パーティ
・株式会社ハピネス計画