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収録作品一覧
ローズ・ルルダン | 7-32 | |
---|---|---|
包丁 | 33-79 | |
《顔》との一時間 | 81-88 |
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紙の本
いかにも作家に愛されたというのがよくわかります。だって、存在が自分たちを脅かさないもの。仲間うちの評価って、これだからあてにならない!
2005/08/12 18:09
11人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「20世紀初頭の忘れられた小説家になりたい」 こんな願いのもと翻訳と批評によって英米伊西の文壇を縦横に結び、ジョイスの最初の仏訳者となったラルボー。ジードに献じた「包丁」他『幼なごころ』の10篇は、フランス版〈子供の情景〉といっていい。作家に愛される作家だった一代の文章家の、幸福な忘れ形見。(解説=堀江敏幸)
の、最初の部分「20世紀初頭の忘れられた小説家になりたい」が、よく分らないのです。この作品集自体は1918年にフランス本国で出版されたようですが、「忘れられた小説家になりたい」なら、出版なんかしなければ、プロにならなければいいのに、と思いますし、わざわざ「20世紀初頭の」と断るところが???となります。
ちなみに堀江敏幸は、解説の冒頭に「ラルボーは小さな作家である」とわざわざ断っています。偉大なではないし、卑小なでもありません。小さな作家、それは「20世紀初頭の忘れられた小説家」に呼応するものではあるのでしょうけれど、初めて出会う形容ですね。
もう一つ?となるのが「フランス版〈子供の情景〉」です。〈子供の情景〉とくれば、誰でも、とまでは言いませんが、ピアノを聞いたことがある人であればシューマンが1839年に発表した同名の曲を連想します。ちなみにこの曲は、知らない国々、珍しいお話、鬼ごっこ、おねだりする子供、満たされた幸福、大変なこと、トロイメライ、暖炉のそばで、木馬の騎士、むきになって、こわいぞ、眼る子供、詩人のお話、という13の小曲からなります。私も、今回、初めて調べて13曲のタイトルを知ったわけですけれど、いいですね、小説を書いてみたくなります。
で、やはりこういう有名な曲名を持ち出す以上、単に子供が扱われているというだけでは弱いです。例えば、ラルボーがこの曲に触発されてこの短篇集を書いたとか、せめて同名のタイトルを持った小品があるとか、もっといえば短篇数が同じとか。それに、じゃあアメリカ版、或はドイツ版、イタリア版、もっといえば日本版や中国版の〈子供の情景〉があるのか、ってなります。
最近の文庫や新書に載っている内容案内に、結構、読んで首をひねってしまうようなものが多くて、困ります。閑話休題。
年上のドイツ人少女に恋した乙女の千路に乱れる思いを描いた「ローズ・ルルダン」、切ないまでに幼い恋が、少年を無謀な行為に駆り立てる「包丁」、以下、タイトルだけ書けば「《顔》との一時間」「ドリー」「偉大な時間」「ラシェル・フリュティジェール」「夏休み宿題」「一四歳のエリアーヌの肖像」「ひとりぼっちのグウェニー(補遺一)」「平和と救い(補遺二)」訳者あとがき(岩崎力)、解説「軽さのユマニスム(堀江敏幸)」となります。
全部で20葉の写真が載っていて、丁寧に写真目次までが憑いています。たとえばカバーは「祭りの日:ヴィシーにて」とか、294頁は「書斎と肖像:旧図書館。画中、ラルボーがもつのはスペイン作家ラモン・ゴメス・デ・ラ・セルナの著書」などと、今までの岩波文庫には見られなかった完璧さです。
そして、ラルボーの作品は、自己主張しないところが個性的というか、「作家に愛される作家だった一代の文章家の、幸福な忘れ形見」であり、小さな作家、というのが分る気がします。強烈な印象を残さないのは、この作品集に関していえば、短篇集であること、描かれるのが子供であること、話は構造的なものであるよりは風景というに近い成果も知れません。
読後の印象の薄さというのは特筆もので、正直私などは二度読み直しても、後半の作品など何も書くことができません。ですから、岩崎や堀江の絶賛に近い文章を読みますと、歯が浮いてくるような居心地の悪さを感じ、仲間褒めではないか、と皮肉な見方をしたくなります。