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夏の夜会 (光文社文庫)
夏の夜会
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紙の本
もう、20年も前のこととなると、やはり曖昧ですね。本当にそうか、って念を押されると、なんだか心もとなくなってきます。そんな記憶の曖昧さは、ある意味、ミステリの宝庫
2005/09/04 22:11
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
《祖母の葬儀と学生時代の仲間の結婚式に出るために故郷に帰った宿利。友人達との会話から浮かび上がる二十年前の夏に起きた小学校の担任教師の殺人事件。記憶の底に埋もれた過去とは》
作品の多様さ、その平均した水準の高さで絶好調の西澤保彦、今回の作品は、四部構成です。母方の祖母の葬儀に参列したものの、記憶とあまりに異なる宿利家の墓の様子や、墓地へ至る道筋の相違に戸惑う主人公の登場で話は始まります。昔の同級生同士が二十数年ぶりの再会から結婚に至った経緯、式に出た友人達が昔のことを思い出して記憶を確かめ合ううちに、忘れられていた様々なことが浮かび上がってくるのです。
小学校時代に君臨した女教師 井口加奈子。感情を簡単に爆発させ、児童に暴力を振るった彼女は、教室が新校舎に移転する夏を堺に、学校に顔を見せなくなっていました。記憶の底からおぼろげに甦る、旧校舎に集まる警察官の姿。それは夏休みに入って直ぐのことだったのか、それとも二学期の開始直前だったのか。
あいまいな記憶。人から聞かされる当時の噂は、いくつもの形をとって一つに収斂することはありません。名前を聞いても思い出せない同級生、彼は本当に存在したのでしょうか。話し合うほどに様相を変えていく事件。父兄の間に恋愛事件はあったのか、虐めは、そして女教師は死んだのか。結婚式に参加しなかった男は。
今までのカッパノヴェルズとあまりに印象が異なる安彦麻里絵のカバー画に戸惑うのですが、内容も意表をついて、いかにも西澤らしい挑戦的なもの。作者のコメントに「本格ミステリーは人間の記憶の確実性に依拠する特殊ジャンルです。・・・・記憶がいかに恣意的で曖昧であるかミステリー作品の中心的なテーマに据えることは自己矛盾であるばかりでなく・・・・」とあるのですが、それが上手く結実したといえるでしょう。京極夏彦の作品ほど混沌とした感じは与えなませんが、なかなか面白い。人間はまだまだ深い闇を持っている、というのが伝わってきます。