紙の本
ヤマトナデシコの力感
2007/02/11 23:44
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
音大を出て一流半の実力と言われながら、ソロバイオリニストとして活躍している主人公。バイオリンの修理を請け負う老楽器職人。この二人の物語が交差する。それぞれが自分の夢を持ち、そのために生きていく道を模索している。その道を職業として生きること、すなわちクラシック音楽界をビジネスサイドから、スポンサーや楽器商などを絡めて見た物語とも言える。
まあ、それはともかく(笑)、このバイオリニストが、こんなお嬢さんがいるものだろうかというような世間知らずで、もしかするといるのかもしれないが、美貌と育ちのよさでなんとかやっていけているわけで、そう書くとずいぶん生ぬるい話のようだが、いやいや、美貌と育ちだけでやっていくということの厳しさ、それこそまさに修羅であり、ギリギリにまで精神が追い詰められてなお外向けにはノホリンとしている凄さは人物造形の妙である。
バイオリン作成に誇りをかけた楽器職人の人生、日本では、日本人には一流のバイオリンは作れないという定説に真っ向から立ち向かう野心的な生き様の方が、設定的には興味深いし、実際にドラマチックなのだが、このお嬢さまに完全に食われている。プライドが高いのだ。高いというより強靭。お嬢さまとはいえ、一流半とはいえ、ここまで来るには幼少からの過酷な猛練習に耐えてきた。自分の才能を信じたからこそ耐えられた。それに比べればパトロンとのなにごとも、メディアによるバッシングも、彼女の自我を崩すことはできない。
美貌とプライドだけで生きて行ける、それは「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラである。おっとり優雅なお嬢さんに見えても、はた目には危なっかしくてしょうがなくても、根はそれの大和撫子版だ。タラの大地の代わりにバイオリンがある。むしろ代々の土地よりも、自らの手で勝ち取った、より信頼できる依りどころだろう。
お嬢さまの人生は楽器職人との出会いを境に一転して、(篠田節子らしく)昇ったり下ったりジェットコースターのような流れに翻弄されることになるが、むしろそれを糧にしてますます図太くなってゆく。スカーレットの高飛車さ加減には心情的な反発を感じるが、このお嬢さまの鈍重とさえ言えるスローテンポには共感することができるのだ。
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偽バイオリン事件よりすれ違った二人の想い。悲しみを経て、瑞恵のバイオリンの音色はより一層深く、強く響く。
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作者曰く「死体の転がらないミステリを書いてみたかった」という理由で書かれた作品。
篠田節子お得意の、音楽物です。
一流半と言われる、美貌の女性ヴァイオリニストの話。
大手ダイアモンド会社とスポンサー契約を結び、その社長の愛人となり華やかなヴァイオリニストの道を歩む主人公が、ふとした出来事で転落して行くという人生を描いています。
篠田作品は話に引き込まれて一気に読んでしまう。この人の作品は大好きです。
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レビューはブログにて。
http://tempo.seesaa.net/article/19190782.html
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ロイヤルダイヤモンドの広告塔として、コンサートを行うヴァイオリニスト・神野瑞恵。
彼女美貌は、CMやコンサートで人々にしられるようになっていた。
演奏は一流半と評されてた彼女は、大学生の頃にロイヤルダイヤモンドの誘いを受け今の地位地まで上り詰めたのだった。
ある日彼女の使っている名器グァルネリの調子が悪くなり、楽器商・マイヤーの柄沢の紹介で保坂の元に訪れた。
どんな傷を負ってても楽器を直す保坂。
その保坂は、修理に6ヶ月かかるといって、代わりに渡されたのが素性はわからないが素晴らしい音色を奏でるバイオリンに出会う。
そして半年後彼女のグァルネリの修理を終える・・・。
瑞恵のプライドと瑞恵を取り巻く人々の思いが、彼女の人生を狂わせてしまう・・・。
篠田節子による長編サスペンスです。
これは、面白かったです。
やっぱさ〜こういうの書かせたら上手いですね
あなたも篠田節子の小説の美しい調べをちょっと聴いてみませんか?
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殺人なき犯罪小説なんて邪道よ・・と思ってた私が邪道でした。予想外の方向へ物語りが進んでいったのには面白かった。
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サスペンスという事で、いつ殺人が行われ、どんなふうに犯罪が行われるのか・・・と思いながら読み進めていたのですが、きな臭い殺人事件は出てこず、でもしっかりとサスペンス小説であり、そしてドラマ的要素たっぷりの内容でした。
主人公のバイオリンにスト瑞恵や周りの人物像は、キャラが濃いわけではないのですが、強弱をつけた分かりやすい人物背景が描写されており、犯罪が行われた背景、事件に巻き込まれるきっかけとなった要素、事件前と事件後の皆の変化や人間関係・・等が、とてもドラマティックに描かれていました。
クラッシック音楽の舞台裏も分かりやすく盛り込まれており、興味深かった。
読みながら、主人公の瑞恵にはイライラする部分もありつつ、最後は瑞恵にエールを送っていました。
どん底に落ちたけど、未来のある終わり方で、読み終わった後の気持ちが明るく強くなる小説。
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ストーリー作りの王道をきっちりと押さえた展開。冒頭に主人公の悩みを描き、主人公が世間知らずであるエピソードを経て、事件に巻き込まれていくという展開は、安心感はあるが、多少退屈に感じた。事件が起きるまでに、ページ数を取りすぎている印象。
主人公にも保坂にも感情移入できなかったためか、それほど面白いとは思えなかった。
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殺人なきミステリー。
ミステリーとしては弱いけれど
音楽小説として面白かった!
苦味の効いた成長物語かな。
普段縁のないヴァイオリンの世界が分かって
まるで音楽が聴こえてくるような描写を堪能しました。
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なかなか巧妙。 取材がしっかりしている。
登場人物は、女流バイオリニスト、バイオリン商、バイオリン職人、音大生など、 それぞれにリアリティがあって、いかにもありそうな話。
ドラマの方も観月ありさ主演で、忠実に再現されている。
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2012/3/17 メトロ書店御影クラッセ店で購入。
Amazonでは品切れになっていたのを発見。
2014/4/3〜4/8
篠田さんの音楽ものの原点とも言える作品。美貌のバイオリニスト神野瑞恵の心の葛藤を描きつつ、彼女が陥った罠とそこからの再生の物語。
私も古いギターを弾くが、古楽器に関する記述は首肯することしきり。この後に続く音楽ものの作品(十数年ものの積ん読本)も楽しみである。
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最初に出版された時は「変身」という表題だったそうで、その本をずいぶん探したが見付からず、改題されたのを知ってやっと見つけた。
この「変身」という題のほうがわかりやすいかと思うが、それゆえ結末が早めにわかってしまうような気がするので、改題はよかったかと。
主題は高価なものは何億もするという、オールドヴァイオリンについて。
コンクールなどでは、腕は同じなら楽器がよい方が評価は上になるという事を聞いた事があるが、素人にはわかるものなのだろうか?
自分の経験ではいいものといわれる楽器の方が、弾き易いと思う。
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逗子図書館で読む。この作家はうまい。無理なく読めます。登場人物の類型化は、山崎豊子さんを連想します。鼻につく人もいるでしょうが、これぐらいが読みやすいです。
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単行本「変身」と同じ内容。
加筆、修正してあるとのこと。
文庫版あとがき
池上冬樹による解説
が加わっている。
バイオリン演奏者の物語。
大学での講義が引き金に、職人のちょっとしたいたずらが
急展開する。
楽器店の担当者が亡くなるのはちょっと辛いかも。
バイオリンの種類、楽曲がたくさんでてくる。
ヴィヴァルディ
ベートーベン
オンブラマイフ
コレルリ
チャイコフスキー
ラファリア
トリスタンとイゾルデ
クロイッツエルソナタ
ブラームス
ピエトログアルネリ
グアルネリデルジェス
ストラディヴァリ
エギディウスクロッツ
アマティ
チエリーニ
ルネムイエール
ランドルフィ
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作者が「死体の転がらないミステリを書いてみたかった」というように、
殺人事件も謎解きもない、ヴァイオリンに関わる人たちのミステリーである。
演奏は一流半と言われる美貌のヴァイオリニスト、パトロン、楽器商、職人、など様々な人たちの様々な感情が絡みながら起きる事件が、この作者独特の空気で綴られていて、やはり引き込まれる。