紙の本
旅立ちの代償
2006/03/16 01:46
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
普通は、「旅立った」とは言わない。
行く前に「あそこへ行こう、行ったらこれをしよう」とわくわくし、
帰ってきてから、「うーん、あそこはイマイチだったけど、ま、面白かったな」なんて、気楽な感想を漏らす。それでエンドマーク。旅とは、大抵はそんなものだ。でも戦争は、そうじゃない。だから「旅立つ」という言葉を使わず、「行った」を使う(『ジョニーは戦争へ行った』など)。ところが本篇の主人公チャーリーの、戦争に行く前の気持ちときたら、旅立つ前のそれと変わらない。だって彼は、これから戦争に行くというのに、「自分が死ぬとは思っていない。銃弾をあびて負傷することだってぜったいにないと思っている。そんなことはこれっぽっちも考えていない(p23)」のだから。何とお気楽な、甘い考えだ。そう考えるのは、読者が彼の経験した南北戦争を、俯瞰できる存在だからだ。もし我々がその場にいたら、彼と同じように、浮かれていたかもしれない。大人達が賛成しているし、給料も出る。この旅を止める理由など、ない。サーカスにも行った事がなく、ミネソタ州の町、町から五マイルほどの川と、住んでいるこの町しか知らない彼にとっては、戦争は、ちょっと長い旅行と変わらないのだ。
チャーリーと、彼を取り巻く時代の雰囲気を描く事で、著者は俯瞰していた我々を、ごく自然に、すいっと物語の中に引っ張り下ろしてくれる。そしてその目線のままに、我々はチャーリーの見たものを見る。自作について、「そこで起こっていることの全ては事実である」と、リアリティを強調する著者だけあって、情景描写は細部に至るまで丁寧に書き込まれている。「僕はもう一人前の大人だ」と思いながら列車でうとうとした場面から、本物の戦闘への切り替えも見事だ。ここから、刻々と変わってゆくチャーリーの心理描写も、情景描写同様丹念に描かれている。死ぬ事など考えてもみなかったチャーリーが「たくさんの人間が死ぬだろう。生き残る者もたくさんいるかもしれない。だが、一つだけはっきりしていることがある。自分が死ぬということだ。(p46)」と思うようになる。戦闘を通じて、彼は次第に死の恐怖に取り憑かれてゆく。そうなると、次に考える事は、一つしかない。自分が死なないためには、どうすればいいか、だ。平時に人を殺せば殺人だが、戦争で人を殺せば英雄。同じ人が、場合に応じて、どうしてそんなに割り切って考えられるのか、ずっと不思議だった。でも、本篇のチャーリーの心を追ってゆくと、不思議ではなくなった。こうならざるを得ないだろうと、ごく自然に納得してしまう。彼の心を、兵士の心(原題)にしたものが、我々の頭上に被さって来ない保証はない。百年以上も前の、ごく普通の少年・チャーリーに起きた事は、決してひとごとではないのだ。
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ミネソタから南北戦争の前線に義勇兵として出征した15歳の少年の心の変化。実在の人物をモデルにしている。千人の内,生き残った37人の内の一人。課題図書。
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アメリカの南北戦争・・・いや、もう、ヤバイ。表現がすごくリアル。鳥肌がたってくる。涙を軽く誘いながら、戦争の無意味さと共に反戦を訴える作者の想いが伝わってきた。・・・戦争って、いけないいものだね、やっぱり。たくさんの人が哀しい想いをすることになる。それを改めて心に言ってくれた本だと思う。
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チャーリー・ゴダードは、15歳で入隊し、戦争で負った心の傷が原因で、若くして亡くなった。実際にあった本当の話。
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兵士になることに憧れ、年齢を偽って入隊した少年チャーリー。彼がそこで目にしたのは驚愕の光景だった。少年が見た戦争を描く衝撃作。
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06/08/01読了
日常から非日常に、非日常は日常に、それでも「非」ず、であるかぎりは必ず軋みが生じるものなんだろうなと。
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子どもたちと機会を得ては戦争に付いてこうした作品も通じて、話していますが、自らも、戦後派として、子どもたちと同じような目線で読んでいます。
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アメリカ南北戦争に、年齢を偽って従軍した15歳の少年の話。実在の人物らしい。100ページ程度で、一応、児童書、ヤングアダルトという枠組みなのでしょうが、心理描写が真に迫っています。戦闘中、木立の影から相手が今にも撃ってくる、という緊迫、戦闘を経験し、いずれみんな死ぬ、次に死ぬのは自分だ、と思い込む部分などはかなりリアル。自分がもし従軍することになったら・・・・・・などと考えると背筋がぞっとします。
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アメリカ大陸至上最大の戦争である、南北戦争に参加した少年のお話。
100頁ほどの、軽い読み物。
字もでかいから、さらっと読める。
そんで、表現がめっちゃ生々しいというか、リアルというか・・・・
戦争のシーンを描く時、人が撃たれたり刺されたりする場面って、その行為そのものよりも、人が死ぬという事実に焦点が当てられることが多い。
けど、これは実際に戦争に参加した主人公の男の子の目線で書かれるから、人間の体を弾丸が通過する時の音とか死体の臭いとかの描写が多く、戦争の現場がいかに辛いものであるかということが思い知らされる。
お涙頂戴のシーンとか全くないのに、これが戦争の現実かと思うと、現実を変えられない人間の弱さが悔しくて、涙出るわ。
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「神様、ぼくはこんなものを見るはずではなかった。だれもこんなものを見るはずではなかった。なのに、なぜ、あなたはこんなことが起こるのを止めなかったのですか?」
1861年4月12日、南軍が連邦のサムター要塞を砲撃(サムター要塞の戦い)。
そして南北戦争が始まった。
ミネソタ州ウィノナの町にまれ育った15歳のチャーリー・ゴダードは年齢を18歳と偽り義勇兵として入隊し、7月の北軍のバージニア侵攻、第一次ブル・ランの戦い(マナサスの戦い)に参加。
以降、1863年ゲティスバーグの戦いを経て1865年4月の南部の首都リッチモンド陥落までを戦い抜いた。
しかしわずか3年後、戦場で受けた傷と精神的ストレスがまだ20歳の彼の命を奪っていった。
これは実際に起こったこと。チャーリーか、さもなければチャーリーのまわりにいた兵士に、実際に起こったことなのだ──。
戦場での動作ひとつひとつが細かく具体的に描写され、チャーリーが生き抜いてゆくリアルな手ごたえと同時に、人間が壊れてゆく感触を読む人へと静かに深く訴える。
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アメリカ南北戦争にサバを読んで参加した十五歳の少年チャーリー・ゴダードのおはなし。実話を基にして書かれているのだそう。
わりあい淡々とした文章なのにちょっとした表現に気が利いててぐさぐさ来る……。人間を殺すのはいいけど馬を殺すのがつらい、っていうのがなあ。
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南北戦争時代。人類が大量殺戮兵器を手にしはじめながらも、まだ肉弾戦の様相も持っていた時代。個人から見た戦争はこのようなものだったのだろう。歴史的背景はほとんど描かれず、無知で素朴な青年がお金目当てに戦争に参加した顛末がシンプルに描かれている。本当に強烈な経験だ。こんな経験を経た後では、後の人生に深い影を落とすのは必然だと思う。
現代の戦争は、対戦相手も実際の戦闘も、この時代よりはるかに抽象化が進んでいる。はたして、これは人類にとって幸か不幸か、そんな事まで考えが広がる、シンプルながら強い刺激のある本でした。
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南北戦争時代のアメリカ。年を偽ってまで、志願して戦争に行くことにした15歳の少年。愚かだ…と思う反面、こういう少年は、当時、たくさんいただろうと思う。そして、当然、日本にも。
しかし、実際の戦闘を体験すると、事前に思い描いたものとはまるで違っていて、少年の精神は崩壊していく。家に戻ってからも癒されることはなかった。
出征した1,000人のうち、たった37人の生き残りの一人がモデルとのことだが、せっかく生きて帰れても、その先を生きていくことは、もう彼にはできなかった。
悲しいけれど、これが現実、これが戦争なのだ。
戦争に幻想を抱く若い人たち(だけではないかもしれないけれど)に、届いてくれれば、と願う。
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子どもが夏休みに借りた本。
アメリカの南北戦争の実話に基づいた話。
それは近代的な戦闘の始まりでもあった。
アメリカの北西部メネソタ州のある町。集会では、正義を振りかざし、高揚する群衆。
15歳の少年チャーリーは、父亡き後の家族を支えようとその俸給の額に惹かれて北軍に入隊する、
戦争の本当の意味など分からないままに。
最初の戦闘で、運良く命を拾っものの、自分は死ぬ運命にあるとすでに悟ってしまう。幸運なことに彼は負傷しながらもこの戦争を生き抜いた。
けれど、その若い魂は今で言うPTSDに蝕まれてしまう。
南北戦争について、アメリカではみっちり学ぶようだが、ほとんどの日本人にとっては、奴隷制をめぐる他国の内戦程度の知識しかないだろう。
100ページ程度の短い話だが、事実に基づいた生々しい戦闘や宿営地の様子は時代を経てもリアルに伝わる。そして、無知なまま戦争に参加した多くの若者達の辿る道もまた残酷である。
2019.8.4
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翻訳されたものなので少し読みづらさはありますが、大好きな本です。
主人公の心理描写が細部まで描かれていて、
考えさせられるものがあります。