紙の本
幻想的あの頃小説
2006/05/20 18:22
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ナカムラマサル - この投稿者のレビュー一覧を見る
お人形と話をしていたあの頃。天井の木目が魔女に見えて怖くて仕方なかったあの頃。本書を読むと、そんなあの頃の風景が蘇ってくる。
主人公の風美は、ジグソーパズルの中のシンデレラやかぐや姫とお話をしたり飾り棚に並ぶこけしたちとけんかをしたりする。そしていつもこのように感じている。「家のあちらこちらに棲まうものたちは常に風美を監視している」。
本書は、風美の成長を綴った短編集だが、風美が人ならざるものと交流していたのも、寂しい思いをさせられた子供だからだ、ということが読み進めていくうちに分かってくる。病弱な弟に付きっ切りの両親。なぜか自分のことを叱ってばかりいる祖母。いつしか風美は「産んでもらい育ててもらっている」という謙虚な、そして少し卑屈な思いを抱えた少女に成長する。最終章で両親と風美は思いのたけを打ち明けあうのだが、寂しい思いをしてきたのは自分だけではなかったのだ、と風美が悟る場面では温かいものが胸に宿る。
そして、何より「親より先に死んだらあかん」というセリフが出てきた時に、この物語はここに向かっていたのだと気付かされる。
懐かしくて、少し寂しくて、温かい読後感だ。
紙の本
少女の成長というものについて
2006/05/27 22:04
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紗螺 - この投稿者のレビュー一覧を見る
少女の成長記を書くというのは案外に難しいことなのではないか。
奇しくも先日小学校一年生から六年生に主人公の少女が成長するまでを描いた『夜の朝顔』を読み、その時にも思ったことなのだが、いかに気持ちの揺れを繊細にとらえることができるか、またそのとらえたものをどのように表現するのかー、言ってしまえば当たり前のことのようだが、それができなければ読んでいて自然な流れの成長を感じることはできない。
そのような観点から見て、主人公の風美の四歳から十七歳までを描いた本作品は残念ながら私の期待に応えるものではなかった。何か唐突、それでいて変わりがない。同じ人物なのだから変わらない部分があって当然だという観方もあるだろうが、それはその人物の本質に関わるところであって、思考力や感受性は変わっていかなければならないだろう。それが、この風美には、あまり感じられなかった。
もっとも心に残ったのは、風美四歳の時、お雛さまと対話をし、家を出て行こうとするお雛さまを風美が懸命にとめようとするところである。どこか昔話的香りが漂う一エピソードだった。
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眠たい世界にいるような、昔の日本を感じる。少し不思議なことが起きても、それも夢だったのかと思う。心地いい。
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うちには雛人形を飾るという習慣がなかったのですが、あの段々になった雛飾りには憧れがありました。小さいぼんぼりに食器・楽器たちのかわいいこと!お雛様自体にはあんま興味なかったんだけど…(苦笑)
なので感覚的に分かるという感じではないですが、でもなかなか好きな雰囲気の話です。
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★5つというのは、単に好みだから。
読後、一日たった今では★4つでもいいかなとも思う。
でもやっぱり読んだ後の充足感を思い返して★5つにしよう。
普通の日常に潜むささやかな不思議が心地良い。
梨木香歩の「家守綺憚」に似てる。
それよりは大枠の、春夏秋冬の4編が
主人公の成長ごとに綴られている。
ぼんやりとしたものが形を作って
はっきりとはしないまま何だか涙が出てきた。
そんな読後でした。
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入院中の弟につきっきりの両親に代わって、昼間は厳格な祖母に育てられている女の子が、だんだんと心を閉ざしていく。
きっかけは、どこの家庭にでもある些細なことで、ただタイミングが悪かっただけのこと。
女の子は思春期になって、身の回りのものはすべて両親から買い与えられたものだから自分の物ではないと気がつく。
じゃあ、自分の物って何だろうと考えて、体は両親から食べさせてもらったわけだから自分のものではないし、心だって親から影響を受けているから自分の物じゃないって考えたりする。
うーん、むずがゆいし、こっぱずかしい。
私にもこんなときがあったのかなあ。
暗くて重めな話のトーンに拒否反応が出たので、星3つ。
570
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短編4作品。
主人公、4歳、11歳、15歳、17歳の春、夏、秋、冬が描かれています。
ちょっと不思議なほのぼのワールド、好きですね。
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読んでいる最中に、なんとなく「ちいさいももちゃん」シリーズを思い出しました。風美は家の中のいろいろなものと会話できてしまうような小さい女の子。風美の成長とともに、日常のさりげない不思議な出来事が描かれていく。でも、軸となるのは風美から見た家族たち。ぶっきらぼうな祖母。病弱な弟に手を取られる母。甘えたいときにいてくれない不器用な父。誰もが子どものときにもつ家族への不満。強がりながらあきらめてしまう幼い心。最後はじーんとくる家族同志の会話。それぞれがそれぞれの気持ちを抱えて家族は暮してるんだ。言いたいけど言えない気持ちを持っているのはお互い様。自分の父親、母親、祖母、子ども時代を思い出してじんわりしてしまいました。
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暗闇が怖くて仕方なかった幼い日の私を思い出しました。主人公の風美とは違って、実際に「見え」はしなかったのですが、今より暗がりが多かった昭和の30年代、どこにでも不思議がいるような気がして、また、そんな自分が恥ずかしくて・・・。昔の子どもって、今ほど親に手をかけてもらっていなかったから、一人の時間がたっぷり!あったんですよね。だから想像も果てしなく広がって!あれは私にとって必要な時間だったんだなぁ、と、この年になって思います。でも、自分は可愛がられていない、と、静かに諦めている風美がいとおしいです。そして、病弱な弟の世話に目がいき、娘を放りっぱなしにしていたと後で自責する母も・・。ずっと風美の立場で読んでいた私も、「柿の種」のエピソードでは母になってしまいました。娘が好きだと思って、心がけて買っていたものが「あるから食べてただけ」と言われたら、悲しいですよね。でも、欲しいものを欲しいって言えない家庭だったよね、と又、風美の気持ちになったり。成長した弟が好ましい男の子で§^。^§ §^。^§。前二作は読んでいないのですが、壮大なファンタジーより、異界との境界線があいまいなお話が好きな私。この路線で、新作を書いてもらいたいなぁと思います。
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ものすごく面白くて一気に読んでよく覚えてても二度と読みたくない(しんどいとか苦しいとか)本がたまーにあってこの人の「クロニカ」ってインカ帝国滅亡の話がそれだった。
ので雰囲気違うなあと思って読み始めたら凄かった。
切ないどころじゃない。寂しいし暗いし地味に苦々しいし身に覚えがあるし優しいとこ優しいし、しかし自分はこんなに頭のいい感受性の豊かな子ではなかったなあとか。
そういう昔のファンタジーっけのごく少ない児童文学をちょっと違う目線で見てるような、なんだ、きもち「ペンギンハイウェイ」と同じカテゴリ。
ちょっと泣きかけた。子供のころの方が生きるの死ぬのって真剣に考えてた気がする。風美ほどまじめじゃなかったけど。
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感受性豊かな風美の4歳から17歳までの心の軌跡を書いた物語。
おひなさまとの幻想的なやり取りのある4歳の物語が圧倒的に面白いです。
逆に、17歳で描かれる両親との和解はとんとん拍子という感じで、あまり印象に残りませんでした。
日本ファンタジーノベル大賞を受賞された作家さんですが、これまで発表された作品を読むと、現代の日本を描いた小説の方が面白いと思います。
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ノスタルジックな、なにか音楽が流れるような物語。
多感な時期にいろんなことを想い、時間を一つ一つ積み重ねていく。
そうして、少女から大人へと少しずつ変わっていく。
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四歳のときの雛人形との会話が可愛かった。女の子の成長していく折々の心情をリアルに描いていて、たびたび共感できた。この世のものでないものと話ができるのが少し羨ましくなった。ノスタルジックで、哀愁の漂う素敵な小説でした。
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おひなさまの思い出は男女問わずに何かしらあると思います。この物語は少女の成長が季節をとおして書かれています。おひなさまと遊んだ幼児期。夢と希望、家族とのつながりがあたたかいちょっと懐かしい物語です。
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豪華な雛人形の三人の男衆、「三人仕丁」というって初めて知りました。
子どものころに大切にされた記憶があるかどうかは、自己評価に直接ひびく。子どもへの愛情はまっすぐに表現するべきだと思う。子どもはまっすぐに受け止めるのだろうから。