紙の本
間違いなく今年のベスト本の一つ。しかしねえ、これを読むと、少年院てえのはいやなものだと思いますけれど、この本で悪いのは罪を犯した少年ではなく、そう仕向けた大人であることは確かでしょ
2006/10/08 22:35
7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
私の貫井徳郎への評価を高めたのは、2005年に出た『悪党たちは千里を走る』でした。だから、『愚行録』が直木賞の候補になったときも、作品こそ読みはしなかったものの、さもありなん、と思ったものです。でも、今回の上下本の出版ニュースが出たときは、正直、気乗りがしませんでした。
まず、小学館というのがイマイチ、ピンと来ません。確かに片山恭一『世界の中心で愛を叫ぶ』、宮部みゆき『模倣犯』とメガヒットを出してはいます。でも、小説を出す会社、としては疑問符。しかも扱うのが少年犯罪で、上下本。謳い文句が「戦慄のクライム・ノベル」でしょ。おまけに大久保學の装幀は、造本だけを見ればいいけれど、カバーの千葉尚史の写真の扱いが、何となくナマな感じで、ちょっとセンス感じないし・・・。
でも、これだけは言えます。読んで、よかった。内容的には『模倣犯』より上だし、多分、重松清『疾走』だって超えてるかもしれない、もしかすると、今年のベストかもしれません。いやあ、凄い小説に出会っちゃったな、って。簡単に上下巻の構成を書いておけば
上巻 582頁
第一部 胎動
第二部 接触
下巻 572頁
第三部 発動
となっています。全体で1100頁を超えます。二段組ではないので、量では『模倣犯』に負けますが、連載期間で言えば、『模倣犯』の1995年から99年までという5年間に対して、この作品は『文芸ポスト』2001年春号〜2006年冬号連載ですから6年と、貫井の勝ち。しかも、貫井は1968年生まれ、といいますからまだ40前。商学部卒業と、学部こそ違いますが、近年、直木賞作家を輩出している早稲田大学出身。面白くないわけがない!はずはないか・・・
巻頭に「この物語は二〇〇〇年の少年法改正以前を舞台にしています。」という断りがあるように、少年犯罪がテーマの小説です。主人公は三人。彼らは、交じり合うことのない三つの事件の犯人です。プロフィールだけを簡単に紹介しましょう。共通点は、事件当時、彼らが14歳、中学生であったことだけです。
久藤美也(くどうよしや)は、都心部最大の団地に暮らしています。彼に「美也くん」と呼びかける母と、その彼に小学生の時「薄っぺらな人間」と見抜かれた、リストラされないことだけを喜んでいる父との三人暮らし。ただし、父親が気まぐれにつけた「美也」という名前が、少年の人生を捻じ曲げます。小学生当時、彼は執拗な苛めにあいます。でも中学に入った彼は、暴力によってその立場から抜け出します。そんな久藤の前に現れたのが、23歳になる非常勤講師柏木理穂です。
葛城拓馬(かつらぎたくま)は、お屋敷に住んでいます。父親は病院の経営者で女好き。20代の元タレントである義母は4人目の母。美少年で、成績優秀、運動神経もある拓馬は、自分の位置を弁え、クラブには属さず。プラモデル制作が趣味、現在ガンプラ制作に挑み始めたとことろ。屋敷には使用人である宗像、妻 次子、その子で拓馬より一歳年下の英之が一緒に暮らしています。
ぼく、神原尚彦(かんばらなおひこ)14歳、祖母定代、糖尿病で倒れ入院中。叔母聖美との三人暮らし。父親は死に、40代には見えない美女の母親は子供を見捨てて若い男と遊びまくっています。姉に似ず地味で暗い印象を与える聖美は、それゆえに縁遠く、浮いた話もありませんでした。祖母の死で遺産を相続。数少ない話を出来る相手 幼馴染みの佳津根。
他に、重要人物として、米山、黒沢、英里、彩といった人々が登場しますが、彼らの役割は小説を読んで理解してもらうのが一番でしょう。ともかく、単なるクライム・ノベルだと思っていたものが、突如、スタイルを変える、その伏線はいやでも気づくんですが、それが殆ど機能しないままに話が進んで、ラストにイッキ、いや、これも読んでもらいましょう。
紙の本
少年たちの破滅
2014/09/04 23:41
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BACO - この投稿者のレビュー一覧を見る
上下巻とも、主人公3人の視点から物語を語っている。
上巻はそれぞれが犯罪に至るまでの経緯と少年院での出来事がメインであり、まだまだ核心には迫らないものであった。
しかし、3人の人格を読者が把握するには十分なストーリーが盛り込まれており、全編に亘ってその印象が保ち続けられる。
相変わらず著書の作品は暗いが、人間の心情を上手く表現しており臨場感が感じられる。
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少年犯罪をテーマにした作品。貫井さんにしては珍しく、暴力、性描写ありです。少年たちが犯罪を犯すまでの過程はおもしろく読めたのだが、少年院に入ってからの話がイマイチ。
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貫井さんらしい作品。系統としては「神のふたつの貌」とか「修羅の終わり」の方に属しますかね。僕は、貫井作品の中では、どちらかといえばこういう方が好みです。
淡々と物語を紡いでいるのだけれど、その実、内容はとてつもなく救いが無くて。でありながら、作品世界にはぐいぐいと引き込まれて。読後感の寂寞とした感じもまさに貫井作品の真骨頂ですね。
暗い上に救いがない物語なので、万人にお勧めはしづらいのですが、僕的には「とても面白いですっ!」と太鼓判を押させていただきます。
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3人の少年が何故人を殺す事になってしまったのか。平凡は生活を送っている3人が。それぞれの深い心理状況や、自ら持つ暗い経験や過去、そして起こって行く様々な悲劇。彼等は別々に生きて、別々に人を殺してしまう。だが、運命のように少年院で始めて接触をする。彼等の考え方、思考力、そして内に秘めてるものがリアルで、恐れすらも浮かぶ表現力でみるみる読み手を引き込んでしまう。
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読み終わった後「私はこういう風になりたくないな」って思うんじゃなくて、「もうどうでもよくないか?」って気分になる。好きな文体。
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何の繋がりもない少年達、3人が同じ時期に殺人を犯し、少年院に入ることになる。出所してから彼らは…。
とても重いテーマの小説です。でも、読むのを止められず、上下併せて1200ページを一気に読みました。子供の奥底に潜む悪意や殺意がどのように生まれたのか、読みすすむ程に驚きます。
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上巻では久藤美也、葛城拓馬、神原尚彦という3人の14歳が殺人者になり、少年院を出るまでが描かれる。単なる「クライムのベル」とは言い切れない重さがひしひしと伝わる。今の若い人は可愛そうだ。外部から与えられる刺激が大きすぎて処理しきれないジレンマみたいなものを感じる。子を持つ親として、他人事ではない。
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14歳の3人の少年が、殺人を犯す。
物語はその3人、
学校の先生を殺してしまった久藤
幼馴染を殺してしまった葛城
母親を殺した神原
の目線から語られる。
この三人の心理描写、すごいです。
作者は良くここまで・・・と思う。
これだけで読む価値あると思う。
久藤の思考回路なんて良く分からなかったし、
冒頭から、こんな子供とは
絶対に分かり合えないな・・・と
思い若干の嫌悪感を持って読んでたけど、
その久藤の内面を丹念に追っていくうち、
すごくすごくかわいそうになってきたよ・・。
ただ「怖かった」っていうのが
すごく伝わった。
葛城は葛城で、空白がすごくあった。
把握して、律して自分では
生きているつもりなんだろう、、
けど、一瞬の自分にも把握不能な
空白が・・あるんだなと思った。
神原は・・文章を他の2人より幼く書いてる。
この本の中では一番、
内面の変わりようがすごかった。
後半は幼い文体で、結構怖いこと、
卑劣なことを言ってる・・・。
他の2人が、自分の犯した罪について、
その相手について、繰り返し考え
自分の行動について思い返してるのに比べ、
神原は自分は悪くない、一辺倒。
神原は、計画的に自分の母親を
殺してるんだよな・・・と思い、
はたと思った。
それはどういうことだ?
下巻は下巻で更生しようとも
そうはさせてもらえず、
苦しむ彼らが出てきますが、
3人以外の心理描写・行動は
若干希薄な感じ??
それは主人公以外だからまあいいのか??
後半〜ラストもちょっと・・。
でも、圧倒的な筆力です・・・
面白かった!!!!!!!!!
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神村 母殺し。母は葛城の父の運転手、宗像の妻。父の愛人と宗像を結婚させる為に金で追い出した。
祖母の葬式で自分を捨てた母と伯母が遺産の話で罵りあうのを目撃。伯母が
付き合い始めた男に貢いでいる。男は
母の差し金。母のマンションに忍び込み放火殺人。
久遠 教師柏木を殺す。中学時代は虐めに合い、高校では逆の立場。産休教師にムカつき。仕返しで強姦する。逆に肉体関係を求められ離れられない。
見合いの話が拗れる。気がつくと自分が教師に縛られている。首を締めた。
事件は色情教師が教え子を誘惑。厳格に育てられた本人とは全く異なる報道をされ父親はすべてを失った。久遠を調べ増田の存在を知る。増田を利用。
出所後、下山父の依頼で先輩の増田に監視されていた。
葛城 宗像の息子英之を殺し。
英之は父が宗像の妻に産ませた実の弟だった。継母の友人とベッドに入るが不能、それを言われ我を失う。部屋に戻ると英之が部屋にいて大事なプラモデルに触っている。激怒してしまい、ゴルフクラブを頭に振り落とす。
腹違いの兄弟、瀬田に恨まれる。監視されていた。
少年院で3人が会う。久遠と葛城は同じ部屋。二人の先輩と対立する久遠。
婦女暴行殺人で蔑まれる久遠に興味を
持つ葛城。殺した教師の父の教え子が看守で、常に因縁をつけられた。久遠が独房にいる間、葛城はフェラチオを強要されていた。壁に額をぶつけて医療病院へ移動。
神村は黒沢出所後の野外作業時に襲われるが久遠に救われる。
久遠は自宅で新聞配達。神村は伯母と別居。ぼろアパートで一人暮らし。
葛城は高級マンションでプラモデル製作に励む。久遠の配達も邪魔される。
昔の友人から銀行強盗を誘われる。葛城を誘う為に、女子高校生売春婦でつながった神村経由で連絡。3人で準備開始。人数不足の為、少年院時代の仲間を誘うが最終段階で切る。神村と葛城を監視する男の存在。久遠の仕事場に嫌がらせをする男が別人。
提案した男の父の浮気発覚を恐れるのを利用し2億円強奪に成功。久遠の先輩,増田が現場に現れる。父親に会わされて一生恨み続けると言われた。
写真を撮られた久遠は自首する。
神村は、母の遺産を男にすべて貢いだのをブスだから結婚ができないと罵り自殺させた伯母からの手紙で出生の秘密を知る。GFのカヅネに電話するも出ない。葛城宅に金を撮りに行き、祖母伯母の墓に隠す。アパートに戻ると家が家捜しに合っていた。不安になり墓に行くと尾行していた黒沢に襲われ、金を奪われる。走って追いかけるが車に撥ねられ死亡。
瀬田からすべてを奪いたいと言われ金を渡す。葛城は実家を訪ね父から、すべてを打ち明けられる。
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ふつうの少年がなぜ人を殺すのか。世の中への違和感を抱え、彼らは何を思い、どんな行動に出るのか―やがて殺人者になる三人の心の軌跡をたどった戦慄のクライム・ノベル。
久藤美也は自分の容姿や頭脳が凡庸なことを嫌悪している。頭脳は明晰、経済的にも容姿にも恵まれている葛城拓馬だが、決して奢ることもなく常に冷静で淡々としている。神原尚彦は両親との縁が薄く、自分の境遇を不公平と感じている。〈上巻〉第一部ではこの3人の中学生が殺人者になるまでを、その内面を克明にたどりながら描く。その3人が同じ少年院に収容されて出会うのが第二部。過酷で陰湿な仕打ちで心が壊されていく中、3人の間には不思議な連帯感が生まれる。
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人を憎んだことがある。目の前から消え去れ、と何度思ったことか。殺人までには至らなかったが「幸い」というべきなのかもしれない。
第一部では14歳の三人が殺人を犯した過程が、第二部では少年鑑別所での彼らの接点が描かれている。
第一部では、何度も共感したし、同情したし、それゆえ、彼らが「殺人」をすることに対し理解してしまう自分が恐かった。
第二部では、鑑別所ではこんなことが起こっているのかと、驚愕。
あっという間に読み終えた。興奮している。さあ、これから図書館に「下」を借りに行くぞ。
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育った環境や考え方も全然違う14歳の少年3人が共通の罪を犯してしまいます。
そして彼らは出会います。
半分ぐらいまではそれぞれの少年達の日常が描かれています。
それぞれある人物に対して憎しみがわいてくるのですが、少年達の気持ちの表現の仕方がすごく細かくて上手!
やっぱりこの人の作品はすごいです。
嫌な気持ちや汚い気持ちを書くのがすごく上手です。
上、下巻に分かれていると知ったのは借りて家についてから。
下巻すぐに読みたいけど、貸し出し中じゃないかなぁ〜。。。
続きがすごく気になります。
分厚いけど面白くってイッキ読み。
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それぞれ環境が異なる14才が、殺人を犯す心情に反感を覚える反面、全く理解できない訳ではない。
本当は、全く理解出来ないと思いたい、同じじゃないんだと思いたいけど、やっぱり自己の内にある暗い部分では理解できると思う。複雑。
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少年3人のキャラクター、心情が丁寧に描かれており、非常に感情移入出来た(自分がこんな経験をする事は絶対に無いだろうけれど。)長編でしたが、続きが読みたくて読みたくて、この分厚い本を抱えて電車に乗っていました。